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小説かいてみたので、ぜひ読んでみてください


微かに舞う埃の匂い。

頬を暖める夕日。

瞬きの音も聞こえそうなほど静かな空間。

それに調和し、引き締める、制服姿の少女。


これが、放課後の教室である。



「んんッなわけあるかあァァっ!!」


と、一人の少女が叫ぶ。


「そ、そんな事言わないでよ…だってこういう雰囲気、素敵でしょ?そんな怒らないでよ」


と、もう1人の少女が呟く。


「いやいや、私はあんたに怒ってるわけじゃなくて、こんなロマンチックなこと起こらないよ ってこと。少なくとも私はない。」


と、『ロマンチック』をおどけるように言った少女は御子柴琴(みこしば こと)だ。ちなみに、琴が下の名前で、通称『おこと』と呼ばれている。


「うーん、小説の始まりは厳かな空気で始めたいの。つべこべ言わないでちょーだい。」


こちらは、すぐに気持ちがへこんでしまうが、またすぐに気持ちが戻り、むしろ、前よりも勝ち気になるという少女は天ノ川希咲(あまのがわ きさき)だ。


「はあっあ?あんたが私に小説書いたから読んでくださいって頼んだんでしょぉっ?」


実際は読んでくれてもいいよ、だったが、ここは置いておこう。


「ええ、だって、だって、…」


反論せず、

また気が沈む。


琴の言った通り、希咲は小説を書き、その出来を琴に見せていたのだ。


「もういいよ、とりあえず先を読ませて。」

·····



学校指定鞄から木の箱を取り出す。

およそ、人の手と同じ大きさだろうか。

少女は丁寧に木箱を開けた。

そこには、白い革手帳と灰色の万年筆、そして、何もかも飲み込んでしまうような黒いインク瓶が入っていた。

どれもとても小さかったが、木箱に丁度収まる大きさであった。

少女はそれらを一つ一つ慎重に机に並べていった。

手馴れた手つきで万年筆にインクを入れ、しばらくインクの香りを楽しんでいるようだった。

手帳を開いた。

こちらも、とても良い香りがあった。
まるで、手帳をつくる紙の生まれの森を想像できるような。

そして、紙とインクの香りを重ねた。

ここからは誰も邪魔してはいけなかった。


少女は孤独だった。

毎朝6時5分に涙と共に目を覚ます。

歯を磨いて、無添加の洗顔料を泡立てる。

前夜に仕込んだおかずを温め、お弁当箱に詰める。

その残りを朝ごはんとして食べる。

鞄に荷物を詰めて、最後に木箱を入れた。


·····




「あーハン?うーん、まあ雰囲気作りには成功してんじゃないの?」


琴は小説が書かれているメモ帳を閉じた。

メモ帳にはまだ、ここまでしか書かれていないからだ。


「うーん、ね、まあ、おことがそういうなら安心して書くわ」


なぜ、希咲が琴に対して、小説で絶対的な信頼を置いているかと言うと、琴おちゃらけている割には、国語の成績は学年二位なのだ。


「ていうか、なんで書くの?」


希咲は小説よりもビーカーの方が何万倍も似合っているリケジョなのだ。


「それは秘密。いずれわかるよ。おこと」


2人のそばにある窓の外が急に寒くなったようだ。

騒がしい昼休みの教室が急に静かになった。


それは、もちろん情景描写などではない。

数学の教師、小芝先生が入ってきたのだった。


(せっかく小説みたいな雰囲気になったと思ったのに、小芝めぇーーーー)


お察しの通り、この小芝先生とはとても面倒臭い先生なのである。


その面倒臭さは尋常では無い。

とりあえず見てみよう。


「天ノ川、チャイムはあと何秒でなる?」


いきなり当てられた天ノ川希咲!!

さあ、答えられるか…!!!


「え、ええ?今は12時58分えーと30秒ぐらいだから、あと1分30秒くらいですかね?」


クラスにもう一度不穏な空気が流れる。


察した希咲はハッとしたが、もう遅い。


「私は何秒、と聞いた。それなのに、分を用いて答えた。数学では聞かれたことを聞かれた通りに返す。どの教科でも同じなはずだ。これでは、問題を解く以前に…」


…はい。


そこから10分間、小芝先生の演説が始まった。


天ノ川は得意科目の授業が受けられず、さらに教師からの屈辱に耐えなければいけなかった。


「·····つまり、天ノ川、お前はチャイムよりも前の予鈴から授業の準備をすべきだ。」


という、言葉で締めくくった小芝先生は授業を始めようとしていた。

みんな教科書を開くザワザワに紛れて小芝先生の悪口を言っていた。


「…先生。やめませんか。」


教室に不穏な空気が流れる。

今度は本当に不穏だった。


「どういうことだ。雨宮。」


雨宮建(あまみや たつる)。

彼はクラスで最もモテて、さらにリーダー的存在で、周りは友達だらけで、いつも笑顔。


そんな彼が、こんなに軽蔑するような、見下すような、ドライアイスのような目をするはずなかった。


「だからやめましょうって。」


琴は気がついた。

やっと気がついた。

もっと早く気がつくべきだった。

それなのに、気がつけなかった。


「ゔっ…」


静まり返った教室に、小さく嗚咽を漏らした希咲に気がつくべきだった。


考えてみれば当たり前だった。

希咲はいつも誰よりも人のことを見ていて、誰よりも自分を気にしていて、ずっとずっと自分を大きく見せようとしていて…


それなのに、そのプライドが10分間で全て削り取られた。

あの、希咲に耐えられるはず無かった。


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