右みみ

紙を20回折りたたむと、月まで届くと俗世では言うらしい。 私はそれを、京極夏彦著「邪魅…

右みみ

紙を20回折りたたむと、月まで届くと俗世では言うらしい。 私はそれを、京極夏彦著「邪魅の雫(かまぼこくらい厚い)」の単行本で、やってみることにした。 邪魅の雫の角が、僅かに太陽熱で焼き切れた音がした。

最近の記事

長針と短針の孤独

 僕の教室には一人、おかしな奴がいる。  彼は1ヶ月に1度しか教室に現れない。「来ない」のでは無い、「現れない」のだ。  1度現れたら、それから1ヶ月の間そいつは世界からいなくなる。彼の家に行ってもどこへ行っても、彼はいない。その間どこにいるのかも分からない。分かるのは、1ヶ月の間彼は彼に会う術はどれだけ探してもないということだ。  今日は1ヶ月ぶりに彼が現れる日だ。  教室の中は既に浮き足立った空気に溢れている。彼が現れる日の朝は大抵こうである。借りていた漫画を返そうとする

    • 老いてしまった男

      「俺は老いてしまった。」  荒れ狂う人の波を眺めながら、男は一人、当てもない自己嫌悪に明け暮れていた。  口からは煙の立ち上るシガレットがだらしなく伸びている。真っ暗な部屋の中、液晶からの光を受ける男の生気の無い顔だけが、青白く照らされていた。この歳になって趣味のひとつもない、老いぼれの無様な死に面相である。これが若かったのならまた違ったのだろう。  だが男は老いてしまった。  テレビでは専ら地震の速報が流れている。関東の方ででかいのが来て、こっちの方にも来る可能性があるのだ

      • メスガキ、社畜になる。

        「き、君!上司にそんな態度取っていいと思ってるのか!!」 「うっせぇんだよハゲ、三下は黙って俺の言うこと聞いてろ、」 俺はなけなしの力を振り絞って抵抗する部長の、残り少ない頭髪を鷲掴みにしながら、額をデスクに叩きつける。  ゴスっと、鈍い音が響く。 「うくっ、ううぅ…」 「俺の昇級の話、ちゃんと通しとけよ。こんな底辺共と仲良くお仕事する気なんてねぇから。」  頭をぐりぐりと押し付けながら、顔面を覗き込む。どうやら泣いているらしかった。  本当に救いようがない。こんな三流商社で

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