私たちはいつも聞こえないものには知らんぷりする。

書かないと処理出来ない自分の脳みそを呪いたい。


久しぶりの再会は心底後悔した。


彼の右手には真新しいアイコスが握られていて、なんでだか置きざりになった気がした。

あの頃とこの世界に置き去りにされた気がした。


「なんでアイコスにしたの」


酔っ払った脳みそはしきりに口を動かせと命令して、私は彼に疑問を投げつけた。


「なんとなくだよ。」



相変わらずの優しい口調にわたしは彼をまだ想っているのだと確信していた。



彼と同じ銘柄を吸っていたあの頃、銀紙の「人」と「入」で風水が決まっていて必ず「入」から開けると教えてくれていたのを私だけが覚えていて、未だにそれを律儀に守っているとふと、泣きたくなる。


あの頃の彼はもういないし、私だっていないのに、一緒にいるときはどうも、変化に耐えられなかった。


最後の夜に「早いな」と口にした私を見て彼は「仕事の時間?」と聞いた。


あの時、「貴方とさよならすることよ」とちゃんと言えていたらと今も後悔している私をぶん殴りたい。


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