司法浪人、海外一人旅で強盗に遭う⇒助けてくれたのは日本留学経験がある現地ホテルマン
司法試験に合格できずにいた僕が、勉強に煮詰まり、初めての海外旅行へ行った時のお話をしています。
今回は第7話であり、お金が無くて困ってしまい、夕暮れを見ながら絶望感を抱いているときに、親切なホテルマンに助けてもらった話を書いています。
異国の地で犯罪被害に遭い、日本大使館へ救援を求める
僕は親切なおじさんに教えてもらった通りに大使館へと向かった。
おじさんに書いてもらった地図はとても分かりやすく、迷わずに日本大使館に到着する。
受付の女性は現地のシンガポール人のようだったが、日本語は通じた。僕はその女の人に事情を話すと、「しばらくお待ちください」と言い、奥の部屋に行ってしまった。
しばらくすると、「奥の部屋へどうぞ」と言われたので、大使館の中に入る。そこは応接室のような部屋であった。
しばらくすると、その当時の在シンガポールの日本国大使なのだろうか。詳細はよく解らなかったが、日本大使館で1番目2番目に偉い人のようだ。名刺ももらったし名前は今でも覚えているがここではS大使と呼ぶ。
僕はすっかり安心しきっていた。
何故なら、日本大使館であり何かしら助けてくれるものだと言う安心感があったし、それに日本語で話せることも助かったのだ。
S大使に今までの経緯を、詳細に話した。
僕は日本語でカード会社への取次の手伝いをして欲しかったし、でもその他のことは何も望んでいなかった。
しかし、S大使からは驚きの返答が返ってきたのだ。
日本大使館は日本人を助けてくれない
しかし、結論から言うと、S大使には相手にされなかったのだ。僕は耳を疑った。
「えっ、ここはシンガポールだよ?そんなこと聞いたことない」
「んん、シンガポールとの関係もあるんだよなあ…」
「受理してもいいけど、そうすると色々と現場検証とか面倒な手続きになるよ。折角の旅行が台無しになっちゃうよ」
「そもそもさ、司法試験の受験生が一体何やってるの。海外旅行なんて」
「君の言っていることは本当かな。だって英語話せないんでしょ?どうやってその中国人と会話できたのさ」
「このまま大人しく日本に帰った方がいいよ。」
「日本大使館では金銭的なサポートなどはしていないんだよね。」
僕は本当に困っているのに、このS大使は一向に取り合ってくれない。
僕が支援して欲しかったことは、緊急キャッシングの手続きをするために、カード会社との取次について、なんらかの助けをして欲しかったのだが。
どうやら、日本大使館では、日本人が被害にあったときには、このような対応をすることになっているものと理解をする。
S大使の長い話を散々聞いた僕は、これ以上ここにいても時間の無駄だと諦める。
僕が帰ろうとすると、S大使は、流石に少しは何かをしなければと思ったのだろうか、「数千円だったら貸してあげても良いけど…まあ、返してもらえれるのかな…」とか言い出す。
あまりの言動と対応に腹が立っていた僕は、「結構です」とだけ伝えて、大使館を出た。受付の女性は心配そうに見ていたが、それだけだった。
日本国民が困っているのに、この対応は一体なんだろう。。こんなものなのかな。
少しは手助けしてくれることを期待していた僕は、落胆する。
ポケットに残った現金はコインだけ
「でも、これからどうしよう。」
僕は、追い詰められていた。お金がない。
そう、僕のポケットには、小銭がジャリジャリとなっているだけで、空港に向かうタクシー代もなければ、香港での旅の資金もなかったのだ。
ともかく落ち着かなければならない。
お腹も空いていたし、喉も乾いていたので、とりあえずペットボトルのジュースを買って飲む。
「でも、どうしよう。」
どうしよう、どうしよう。
ダメもとでもう一度カード会社に電話する
良いアイデアは何も思い浮かばない。困った。
じっとしていても仕方がないので、ひたすら歩く。動いていないと不安だった。どうしたら良いのか全く解らない。
ダメもとで、もう一度カード会社に電話をする。
やはり担当者は英語で話す。やはり英語が通じない。
先方の担当者も、僕から何度も電話がかかってきていることは認識しているようで、でも言葉が通じずに苛立っている様子が伝わってきた。
一度電話を切る。
何か明暗はないものか。
歩いたところで解決案が見つかるわけがないことは分かっていたが、僕は歩いた。歩いて歩いて、街を彷徨った。
異国の地で無一文に⇒思いついた起死回生の策
そしてふと思いつく。
アイデアが頭に浮かぶ。
「そうだ、ホテルに行けばホテルマンの中には日本語が話せる人がいるかもしれない!」
シンガポールを訪れる日本人は相当数いるはずだ。だから、ホテルでは日本語対応ができているはず、と睨んだのだ。
僕は、手当たり次第、目に入った大きなホテルに入り、フロントで片っ端から質問して歩いた。
「誰か日本語を話せる人はいないか?」
答えは、
「NO」
次々とホテルを訪れて、ホテルのフロントマンに質問し続けるものの、
答えは一律に「NO」
マジか。
でも、大丈夫。
ホテルはまだ沢山あるから、さすがに日本語を話せる人は絶対にいるはずだ。
粘り強く歩き回る。
しかし、時間だけが刻々と過ぎ去っていく。日本語を話せるスタッフは見つからない。
シンガポールの綺麗な夕日⇒訪問してないホテルはあと1つ
相当の数を訪問していた。気づけば、時は既に夕刻となっていた。
シンガポールの街からは、綺麗な夕日が出ていた。
普通の旅行であれば、なんと素晴らしい光景なんだろう、と感動するところだろう。
でも、
日本語を話せるホテルマンを探し求めることができず、途方に暮れており、絶望感を抱き始めていた僕には、
「夕日が沈んだら、真っ暗になる」
「僕は異国の地でいったいどうなってしまうのだろうか」
夕日が沈むまでが、僕の人生のタイムリミットのようにも感じていたのだ。
しかも、まだ訪問してないホテルは限られていた。大きなホテルで訪れていないのは、ただ1軒のみ。
そのホテルに目当てのホテルマンがいなければ、僕の人生は終わる。そのように感じていたのだ。
藁をもつかむ想い
このホテルが僕にとって、最後の望みだ。ワラを持つかむ思いで、フロントで尋ねる。
「日本語を話せる人はいませんか」」
答えは「NO」
やはり「NO」
予期していた答えだったが、頭の中が真っ白になる。
僕は脱力してしまい、目を見開いたまま、出口に向かおうと歩き始める。
と、そのとき、別のホテルマンが、
「あ、ちょっと待って、確か日本にホテル留学していた人がいたなあ」
奥の部屋に入っていく。
僕は、その様子をじっと見つめる。
しばらくすると、若い男性(マレーシア人風)が出てくる。
「どうしましたか?」
日本語を話せるホテルマンを発見!
外国人が話す日本語を聞いて、僕は力が抜けた。
「良かった、助かった!」
なんでも、そのホテルマンは、日本に2年間ほど留学経験があるとのことで、そのため流暢な日本語を話すことができるとのこと。
絶望の淵にいた僕は、現在の困難な状況を話すと、そのホテルマンは早速カード会社に電話をして、英語であれこれと手配をしてくれている。
しばらく経つと、僕に電話機を渡してくれる。
電話に出ると、カード会社の日本人の担当者だった。
緊急キャッシングの手続きが完了!
「やっと繋がりましたか!心配していました!」
なんでも、この日本人の担当者のところには、僕が電話するたびに、英語の担当者から連絡が入っていた模様。
英語の担当者の話を聞いて、「誰か日本人が犯罪にあったらしいが、いったいどう言うことだろう?大丈夫なのか?」とヤキモキしていたそうだ。
僕は日本人担当者に対して、面倒かけたことを謝罪して、日本語で緊急キャッシングの相談を始める。
「いくら必要か?」と聞かれて、即座に「2万円」と答えた。
日本に帰国してから返済することを考えると、なるべく借入金額を抑えたかったのだ。
日本人の担当者は、さらに心配する。
「えっ、でもこれから香港にも行くんでしょ?大丈夫なの?」
日本人担当者が心配するのはごもっともなこと。確かに今回の昏睡強盗の件については、保険で補填されるとは聞いていたものの、カードで盗難された金額の多さを思うと、心理的に借入金額を増やすことに抵抗があったのだ。
僕は、「大丈夫」と繰り返す。
なんとか緊急キャッシングの手続きも完了した。
親切なシンガポール人のホテルマン
シンガポール人の日本語を話せるホテルマンは、僕のことを色々と心配してくれた。
助けてもらってホッとして、安心してお腹が空き始めた僕に、サンドイッチを奢ってくれた。
なんでも、
日本に留学しているときには、日本の方にはお世話になったから、恩返しなんだと。
僕はそのホテルマンの優しさに、心から感謝する。
別れ際にそのホテルマンが三千円ほど貸してくれた。キャッシングマシーンは明日にならないと利用できないので、しばらくは現金が手元に入らないのだ。本当にありがたかった。
ともかく僕は助かった。
ホテルマンと別れて、チャンギ国際空港へ
ホテルマンと別れたのは夜の8時ごろだった。僕はそのままチャンギ国際空港に向かう。
香港行きの飛行機は、翌朝早くに出発するため、ホテルに泊まっていたのでは早朝の出発時間に間に合わない。それにそもそもお金もない。
だから、その日はチャンギ国際空港に泊まることにしたのだ。
チャンギ国際空港は大きな空港であり、空港で泊まる旅人がたくさんいた。
寝転ぶのに手頃なベンチは既に占領されている。僕は眠れそうなベンチを探して歩くが、良さそうなベンチは見つからない。
空港の端の方まで行くと、ようやく人が居ない座席があるエリアにたどり着く。
無理やりベンチを移動して、4人がけの座席を向かい合わせにして即席のベットにする。
でも、どうにも眠りづらい。
眠りにつくことができなかったので、横になることは諦め、僕はスターバックスに行き、コーヒーを頼む。
店内には誰もおらず、マレーシア人の店員が一人、ただただ暇そうにしている。
僕は搭乗時間までの3時間ほどスターバックスで座ることにした。
夜中にスターバックスにくる客は誰も居ない。夜中の3時ごろになると、あまりにも暇だったのだろうか、マレーシア人の店員は僕のところに来て、コーヒーを注いでくれる。おかわりのコーヒーを無料で出してくれたのだ。
「お前は旅行者か、またシンガポールに来なよ」
コーヒーは有難かったし、その言葉も嬉しかった。
最後にシンガポールの優しさに触れた気がした。
(次は香港での珍道中のお話です)
この記事を書いた人
湯川 七八貴
https://7korobi-8oki.com/rising/
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