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シェフ付き掃除付きの姫待遇!まったくの無料で私がこのスタジオに滞在できる理由

こんにちは、ニューヨークの作曲家宮嶋みぎわです。

私は今どんなプリンセスも勝てないほどの贅沢まっさいちゅう。

この写真をご覧あれ。

アンティークのスタンウェイグランドピアノがあるベッド付きの山荘。ミニキッチンとトイレもついている。

机が巨大な広さなのは大きなスコアシートに手書きで作曲するのが伝統だったからだろう。

ここで好き放題ピアノを弾いたり作曲したり、そんな生活を一ヶ月送る予定だ。なんと毎日三食、全て提供される上に、ランチはスタジオまで届けてくれるから、食事会場まで出向かなくていい。

ディナーは他の滞在者と一緒にグループで取る方式。デザートまで毎晩出る。

滞在者は約20人ほど。全員がアーティストで、全員、すべての費用が無料で、一銭も払わずにここに滞在している。

広大な敷地の中に、一戸建てのスタジオが約30戸経っている。全てのアーティストがひとり一戸ずつスタジオを提供され、全てのスタジオにベッドがある。好き放題アートしまくれるようにという配慮からだ。

バーンスタインも滞在し、作曲した場所

この全てを提供してくれているのは、マクドウェル財団というアーティスト支援団体。なんと1907年からこれをやっているらしくて。

もう、驚きを超えて、言葉にならない。

有名な方では、ウェストサイドスートリーなどを作曲したバーンスタインや、アランコープランドも、若き頃にここに来て作曲したそうだ。ジャズだとRufus Read さんが3回も来ているらしい。

私はメンターの作曲の先生Mike Holober に推薦されて応募、合格して晴れて来てみたらマイクと同じスタジオだった。

滞在者が名前を書いていくボードに、マイクの名前発見!私も自分の名前を記して帰る。このボードは百年後まで残りますとスタッフからのメモがあって、震えた。


MacDowell Fellowship で検索するとWebサイトが見られるのでぜひ調べてみて欲しい。このフェローシップに選ばれることは大変な栄誉だそうで、あちこちからおめでとう!すごいね!と連絡をいただいて私は驚いてしまった。

日本ではグラミー賞しか評価されないけれど、こういう、本当の賞ももっと紹介して欲しいものだなと思う。私も諦めてしまってグラミー賞ノミネートが増えた時しかメディアに連絡しないんだけど、それもいけないのかなぁ?と今日散歩中に考えてしまった。でも伝えても分かってもらえないと、寂しくなって言うのをついやめてしまうんだよね。

グラミー賞は投票制だから業界人に広くあまねく知られているかどうかがモノを言うのだ。だから時々、営業が上手いだけのとんでもない人(失礼!)が選ばれる。でもこういう賞は業界の本当にしっかり意見を持っているご意見板が審査をしているので、ハッタリが通用しない。私みたいに営業は下手だけれど、職人気質で良いものを作っている人にはありがたい話だ。

MacDowellのサイトで、ここに来たアーティストの過去の受賞歴を見ると、グラミー賞やアカデミー賞、トニー賞などよりもピューリッツアー賞の受賞者が圧倒的に多くて、アーティストのノーベル賞とも言われるグッゲンハイム・アワードについては900以上受賞者を輩出しているらしい。恐ろしすぎる笑。こういうところに、日本も気づいてほしいんだけどなあ…というひとりこごとはこのくらいにして。

アーティストを「見つけて」「育てる」米国


さて、なぜ私がここに全部無料で滞在できるのか、という話。

その理由は

日本とアメリカではアーティストに対する考え方が全く違うから、だ。

アーティストはアートに集中して、素晴らしい作品をどんどんこの世に生み出すべき存在だ!寄付金をたくさん集めて守っていくべき存在なのだ!という考え方がアメリカにはある。

たくさんのNPO法人が、そのために組織を作りスタッフを雇って、そのためだけに仕事をしてくれている。日本から来た私には信じられない世界に思えたけれど、この国ではそうやってアーティストを育てるから、だからたくさんの素晴らしいアーティストがここで育つのだ。

金食い虫だと言われて肩身の狭い思いをしたり、周囲の人にうまく合わせられないからと社会的不適合者としてハジキ出して済ませるようなことはアメリカにもある。でもちゃんとアーティストを見てくれる団体や、文化や、歴史も、ある。捨てる神だけでなく拾う神がちゃんとあって、かつ、その「拾う神がすんごい」のがアメリカなのだ。

才能のある人を見つけて、さらに才能を伸ばせるよう育てる。見つけるためにきちんと労力を使って、そしてきっちり育てる。そうすることが社会にとって大事で、良いことだ、社会が思っているから、こういう財団にお金が集まる。税制もうまくできていて、こういう所に寄付をすると税金の控除になる。そこも良くできている。

今日は滞在1日目で、10人ほどのアーティストと話ができたのだけれど、彼らがみんな言っていたのは

ここにいると、自分らしく居て良いのだ、自分のアートを追求してよいのだ、と心から思えて本当にありがたい、というセリフ。

興味深かった。

アメリカに生まれ育っても、それでもやはりみんな悩みながら苦しみながら、アーティストという希少動物をやって生きていて

だからこそこういう場所が必要で、ここでたくさん心と体に栄養を与えて、生き返って、作品作りをするのだ。

日本にいる時、こんなに大切にしてくれる仕組みに出会ったことがない。サポーターの皆さんや家族以外から、こんなに大切にされた思い出は私にはない。私が日本にいたころは、若い才能を潰そうとする先輩のほうが力が強くて、若い才能を応援してくれる先輩のほうが声が小さかったが今の日本はどうなんだろう。少しは変わってくれたんだろうか。そんな経験ばかりだったのに、アメリカに来てから急に大事にされはじめて、正直面食らった。私は"ごくつぶし"なのでは? デカい会社を回している人が一番えらいって、どうせみんな思ってるんじゃないの?と感じた。でもこの国は本当に、全然違った。

アートは人間にとって一番必要なものだ。
だからあなたを守る。
育てる。
どんどん作ってくれ、あなたらしく、いてくれ、と
応援してくれる。

これ、絶対必要だよね日本にも。

私は30から音楽家に転身したから自分がやりたいことと社会のためにやりたいこと両方を全部やるには人生が足りないかもしれない。でもやりたいから頑張るのだ。そんな訳で、他の皆さんが交流会と称して飲み会をしている間も私はスタジオで練習と作曲。

明日も頑張ろう。(またレポートを書きます!)

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