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かつて私を愛した人の中に、果たして私自身はいるのだろうか。(愛の喪に服す、後記)

2月の終わりに別れたY氏と、とある事情で連絡を取った。

別れたばかりの頃、藁にもすがる思いで頼った占い師には、
「Yさんは別れたつもりなんかないです。そのうちまたシレっと連絡してきますわ」

と言われたのがもうひとつき以上まえのこと。

「あなたナメられてますねん。ペットみたいな扱いやから、今はお仕置きされてるだけやわ」

半信半疑でその言葉を聞きつつ、たとえもう一生会えなくても、無様に彼を待ち続けたりしないよう、私は私の人生にきちんと帰ろうと、そう思いながらこの2ヶ月を過ごしてきた。

その中でいろいろな精神面での変化があり、新しい相手と出会って新しい気付きを得たりしながらやってきたこの2ヶ月は、
思えばとても長くて、とても濃密だった。
淡い色合いに彩られた穏やかな日々とは程遠かったけれど、人生の滋味を凝縮した、たとえるなら薬膳スープのような時間だ。

結果的に、
シレっと連絡をしてしまったのは私のほうだったし、
占い師が言ったほど、Yさんは傲岸な男ではなかった。(知ってたよほんとはね)
自分の態度が関係を壊したことをきちんと受け入れ、それを反省し、彼なりに葛藤を抱えてこの2ヶ月を過ごしていたことが、その文面からうかがえた。

「あんな風に無視したりして、悪かったと思ってる。もう連絡しないつもりだったけど、モヤモヤが消えなくて、やっぱり今日にでも言おうと思っていたんだ。だから、今日連絡がきたことに驚いた。あの時はほんとうにごめんなさい」

私が最初、事務的に伝えた用件(まあまあショッキングな話だったはずだ)にはさしてこだわっておらず、
とにかく自分の中に抱えていた想いを吐き出したふうだった。
彼はとてもプライドの高い男で(まぁ多くの男がそうなんだけど)喧嘩をしても絶対に自分からは謝らないタイプだった。
だからこそこの謝罪には意味があって、大切に受け止めなくてはならなくて、私も私なりに反省している点を素直に伝えて和解した。

それから私たちは丸2日間、親密なやりとりをした。
出会った頃のような親しさで、
そして過ぎ去った日々に頬ずりをするような、悲しさで。
なぜなら、このやり取りがもう未来には向かって行けないことを知っているから。
ここで柔らかな気持ちを積み重ねていけばいくほど、ふたたび大きな清算を迫られることを、もう子供じゃない私たちは知っていて、だからこそ懐かしさと共に、行き場のない切なさが2人の距離を覆っていた。見えない柵に囲われた、その許された空間のなかで、昔みたいに甘えたりじゃれたりした。
近づけないし、離れられない。こういうありふれた哀切を、なんと例えればいいのでしょうね。

「また会える気がするね」ってLINEを切ったあと、私は少し泣いた。昨日も今日も、そして多分明日も。


***


「まぁ君はセックスの相手には困らないだろうね」
彼はそう言った。

そしてすぐに、「なんだか嫌味な言い方をしてしまったな」と、付け加えた。
そのことが、私の胸にちいさな棘を刺した。

果たして彼の目に、私は不幸せに映ったのだろうか。
いつも愛を求めて、不毛な関係を繰り返しては自分を損ねているかわいそうな女に見えたのだろうか。もしかして、もうずっと前から、そんなふうに思っていたのだろうか。
彼は私を愛していたのだろうか。そして私をかつて愛した人々の中に、果たして私自身はいるのだろうか。

2ヶ月前のあの日、「必ず自分を幸せにする」と、決意した。
今の私は、どのくらい前に進めているのかな。
着飾った洋服を何度脱いで、胸が凍るような朝を何度乗り越えて、甘ったるい夜の残影を抱きしめて、泣きながら、祈りながら、そうして自分自身にどれだけ近づくことができたか。愛に至る道のりで何度回り道をして、何度転んで、そうして立ち上がって、傷だらけでも私は生きている。

幸福は掴めそうで掴めない蜃気楼のようなものじゃなくて、今ここで、自分の胸を照らすわずかな光だ。光が弱すぎて、それと認識できないこともあるけれど、すべてはそこから始まっている。

そうして今ここにいる私と、私は決して手を離さない。

#失恋 #恋愛 #元カレ #日記 #コラム





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