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ライターになる道はいと険し10

前途多難のライター生活についてばかり書いている私だが、たまにはいいことも書こう。

ライターにとって嬉しいのは書いた記事を評価されること。中には「文字単価が自分の基準」というライターもいるだろうが、私にとっては書いた記事がすべて。書いた記事が評価されると自分が認められた気分になる。そんな心躍る経験をすることができた。

ある日のこと、いつものクライアントからインタビュー記事を作成してほしいという依頼が来た。それは私がインタビューするのではなく、既にインタビューをした音源から記事を起こす仕事。取材対象者は筋トレに励むエンジニア。

早速音源を聴いてみる。エンジニアのマニアックな筋トレ生活はかなり面白く、聴いているだけで夢中になってしまった。マイナーな国へと留学し、現地の女性と結婚するのだが、政治情勢が不安定なことから帰国してしまう。帰国後はせっせと筋トレに励み、お昼ご飯も筋トレ用に大量の鶏肉と白いご飯だけというメニューにするなど、ストイックな生活ぶりに笑えた。

「これは面白いや! この面白さを読者に伝えたいなあ」

心からそう思い、自分の感動を文章で表現したいと思った。その頃書いた記事の中では、かなり精魂を込めた記事だったろう。そう、このときから私は取材記事の楽しさにはまってしまう。淡々と事実だけを伝えるSEO記事と違い、取材記事は取材対象者の魅力を伝えなければいけない。といっても後で、そんな記事ではダメな場合もあることを知るのだが……。

当時の自分にとっては、初のインタビュー記事。ドキドキしながらクライアントに提出する。記事を読んだクライアントの反応はすこぶる良かった。

「この記事いいですね! 面白い! ちょっと直したらエンドクライアントに納品しますね」

そのように言われ、「やったー!」と小躍りする単純な私。

その後、私は同じシリーズでコンスタントに仕事をもらえるようになった。インタビュー対象者は、ほとんどがエンジニア。データサイエンティストのように高度な技能を持った方もいた。インタビュー記事は楽しかったので筆が乗り、SEO記事より書くスピードも速かった。

しかし、インタビュー記事を書いていく中で自分の中ではもやもやした気持ちが生まれるようになる。それは、自分が直接インタビューしたいということ。音源を聴いていくと、「自分だったらこういう風にもっと質問するのに……」とつい思ってしまう。それを叶えるには自分はあまりにも経験が薄かった。

取材やインタビューの仕事は経験者にしかいかない。SEO記事と異なり相手は生身の人間だ。未経験者がまずい取材をしてしまったらまともな記事なぞ作れるわけもなく。チャンスをつかめないまま、時間だけが無情にも過ぎていく。

そうした中で、シリーズものの音源を聴いている最中、私はエンドクライアントの言葉に驚いてしまう。

それはいつものようにエンジニアへの取材をやっていた音源だった。取材をしているのは女性のクライアント。そこに現れたのがエンドクライアントの男性。エンドクライアントは取材対象者であるエンジニアに話しかける。話題に挙がったのは、いつぞやの私が作った筋トレに励むエンジニアの記事だった。

「いやー、○○さん安心していいですよ。この間の○○さんの記事(筋トレに励むエンジニア)のときもきれいにまとめてくれましたからね。あの記事すごく良かったですよ!」

そう、エンドクライアントは記事を書いたのがクライアントの女性だと思い込んでいるのだ。当然だ、私は無記名で書かなくてはならなかったのだから。

でも、でも、こんなに私の記事が褒められているのに!他の人の手柄にされてる……。無記名のSEO記事の無常さを知った私。

まあ、自分の記事が褒められたならいいかなあ? 自分が直接言われたわけじゃないけど……。多分このときの心のしこりも原因だったのだろう。私の気持ちは「SEO記事から取材記事をやりたい」という方へどんどん膨らんでいくのであった。


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