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はじめての仕事は そんなに大したことはできなかったよ

新卒で最初に配属されたのは総務部だった。
総務スタッフの中に、総務、人事、庶務、法務、それから、社長秘書も、みんな含まれるくらいの規模の会社の総務部。

毎朝9時過ぎに郵便屋さんが来て、小さなサンタクロースみたいな袋(色はカーキ色)に入った郵便物を届けてくれる。それを部署ごとに仕分けするのが朝の最初の仕事。最初は、淡々と部署ごとの箱に入れていたのだけれど、そのうち、「あ、この事業部でキャンペーンやってるな」とか分かってくる。同じ郵便物が多い日は輪ゴムで留めておこう、とかやってみると、少し、張り合いが出てくる。

総務にかかってくる電話は、会社の代表電話。売り込みの営業の電話がたいそう多い。「社長いる?」ってラフな感じでかけてくる電話が、ただの営業電話なのか、本当に社長の知り合いなのか最初は分からずに、いつも社長秘書さんに回していたけれど、だんだんと区別がつくようになってきた。何て言うか、営業の人はなれなれしくて、知り合いの方は近所のおじちゃんっぽい。
お客様サービスセンターにかけなおして頂いたほうがいいような商品のお問合せもあれば、商品のお問合せにかこつけて誰かとおしゃべりがしたいだけの電話もある。その時は30分くらい、ずっと相槌を打ってた。

受付さんが有休の日には、受付応援に入ることもあった。ほぼ毎日やってくる業者さんは、名乗ることもなく「○○さん、おねがい」って来るので、お名前を聞き返す時には、いかにもこちらが新参者、という気がして、緊張したものだ。内線で社内の人を呼び、降りてくる人の顔を見ては、部署と名前を一生懸命覚えた。社員の名前と顔が、ぎりぎり全員分かるくらいの規模の会社だった。

入社して早々に、「新たに名前入りのネームカードを作るから、全員分の顔写真を撮ってくるように」というミッションを受けた。(誰もがデジカメを持っている訳ではない時代だったんだなぁ。)部署を回っては、1人ずつに趣旨を話し、写真を撮らせてもらう。名前の分からない人にお名前を聞くのも失礼な気がして、机の配置とか、内線番号をこっそりメモして、あとから確認したりした。部署によっては、1人に趣旨を話すと、その人が全員に声をかけて、「まだ名前覚えられないよね」って言いながら、私に1人ずつの名前を教えてくれた。本当に助かった。

事務用品は個別に頼むのではなく、各部署の人がアスクルのカタログを見て、必要なものを所定の用紙に書いて総務に提出し、総務がまとめて発注するという仕組みだった。事務用品が届くと、発注者に内線をかけて、「事務用品届いてますよー」とお知らせして、総務部のフロアまで取りに来てもらうようになっていた。まぁけど、コピー用紙500枚入りの箱とか、取りに来るの面倒だよな、とか思って、各部署にお届けするようにした。なんていうか・・・あんまり仕事なかったし。
わざわざ重たいものをお届けすれば、他部署の人たちも何かと声をかけてくれて、開発中の商品を「ちょっと遊んでいく?」って言ってデバック作業をお手伝いさせてくれることもあった。

残業は、毎月月末に、所定の用紙に手書きで書いて、それを自分で足し算して、上司のハンコをもらったものを「今月○時間」って人事に提出する仕組みだった。隣の席にいた先輩に、「何かできることありますか?」って聞いたら、残業申請用紙の足し算に間違いがないか、全社員分、電卓で確認作業をする、という仕事を任された。誰が何時間残業したか、なんてことは、本当は見てみないふりをしなくてはいけない立場。そんなことは分かっている。でも、同期たちが、撮影立合い、とか、工場視察、とか、そういう〈仕事っぽい仕事〉で毎日のように残業しているのを知ってしまい、心がざわざわした。当時の私には、ものすごく華やかな仕事に感じられた。

「はじめての仕事」というテーマで、新卒で働き始めたころのことを思い出してみると、最初の3カ月はだいたいこんな感じだった。
学生の頃にイメージしていた「仕事」とはだいぶ遠い。魅力的にも見えないかもしれない。
でも確かなのは、組織の中では、そういう仕事が確かに必要だということ。そして、誰かが担っているということ。

この後、もっともっと「華やかな仕事」や、「結果が目に見えやすい仕事」も任せてもらえるようになった。でも、社会人の最初に、こういう仕事を担ったおかげで、気づかないところで、役割を担ってくれている誰かの存在に想いを馳せることができるようになったと思う。

「はじめて」の時には、難しい仕事や大きな仕事はできなくて当然なんだと思う。焦らなくていい。でも「はじめて」の時に経験したことは、なんだかんだ、自分の土台になる。だから、くだらないような仕事に感じられたとしても、自分のためだと思って、真摯に向き合ったほうが、いい。

#はじめての仕事

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