【2021年9月】『放送研究と調査』(NHK出版)の2021年10月号にて、見える化エンジンを使った分析をご紹介いただきました
この度、放送・メディアに関する最新の動向や、NHK放送文化研究所にて実施している調査・研究の成果を公表する専門誌『放送研究と調査』(NHK出版)の2021年10月号にて、見える化エンジンを使った分析をご紹介いただきました。
「コロナ禍はテレビと動画の利用者にどんな影響を与えたか ~コロナ時代のテレビの価値」調査の結果から~」論考内で、生活場面ごとに「好きな(動画)コンテンツを視聴する決め手」について、ウェブ調査を実施されています。
『放送研究と調査』(NHK出版)の2021年10月号より一部抜粋:動画視聴の「決め手」【ウェブ調査】
生活場面によって動画の視聴機器や相手,求めるものは変わる。
では,「何を見るか」という選択において,もっとも重要なのは何なのだろうか。
生活場面における動画視聴の「決め手」を明らかにするために,先のウェブ調査ではそれぞれの生活場面ごとに「好きな(動画)コンテンツを視聴する決め手」を自由回答で尋ねた。
その結果を,テキストマイニングの手法19)を用いて,それぞれの生活場面でほかの場面より多く出現している単語,つまり特徴のあるキーワードで比較してみることにした。
まず「夜の食事」(図17 )では,「食事」や「ご飯」「食べる」などのキーワードが頻出
した。個別の回答をみると,「食事,ごはんを食べながら」という声が目立つ中で,「夫婦で好きなものを見る」といった声があった。また「一人の食事が寂しくないよう動画を視聴する」「誰かがご飯を食べている動画を見ながら,一緒に食べている気分になれる」という,一人暮らしの女性の声もあった。
つまり,「夜の食事」の際は,やはり「夫婦や(その他の)家族と一緒に見る」,または「一人でも寂しくない」コンテンツであることが,動画視聴の決め手になっているようである。
次に「居間やリビング」(図18 )では,ほかの場面でみられない「テレビ」というキーワードが頻出した。特に40 代で「テレビ」との関連性を答えている人が目立つ。
自由回答の内容を詳しくみると,「テレビの放送番組を見て」「(テレビ)CMで知った」「見逃した番組を見ることができるから」というテレビをきっかけに動画を見たという声がある一方で,「テレビではやっていない内容を見ることができる」といった声があった。
また「テレビ画面で動画を見られるから」を決め手に挙げる人もいた。テレビの「ながら視聴」が多い夕食を終えた流れで,テレビ画面の前に家族がそろった状況であることが動画の選択に影響している可能性もある。
いずれにせよ,もともと“テレビ好き世代”でありながら,コロナ禍で動画の視聴時間が増加した40 代が,少なくともこの生活場面では「テレビ」と関連づけて動画を視聴している点は興味深い。
これまで述べてきたとおり,「夜の食事」と「居間やリビング」の時間帯は,テレビ放送の視聴がピークの時間帯である。テレビ放送が1日の中でもっとも見られている生活場面の中で,動画がテレビ放送の役割の一部を担うようになり,動画視聴の決め手が「テレビ由来」「非テレビ」というように「テレビ」がキーワードになっていることからも,今後ますます,テレビ放送の主戦場だった時間帯で動画視聴の勢いが増す可能性がある。
一方で,「決まった時間に見るのは面倒」な視聴者に対し,テレビ画面上でオンデマンド視聴が可能な動画配信のプラットフォームを上手に活用し,放送では見逃されている番組の視聴につなげることが可能な時間帯かもしれない。
続いて,「自分の部屋」(図19 )では,「ゲーム」「おすすめ」というワードが特徴的である。
「ゲーム」は実況の言葉と関連づけされていることが多く,「自分の好きなゲームを面白く実況しているから」「自分のプレーの参考にするため」「気になるゲームだったから」など,自分なりの楽しみ方を探求しているようである。また,「おすすめ」は,「ネットのおすすめに出てきたから」という声が多かったものの,「友人からおすすめされたから」といった,現実の人間関係によるものもあった。
こうした結果から,「自分の部屋」では,自分だけの世界に没頭できるゲーム,自分の趣味・嗜好を知り尽くしたAIや友人の「おすすめ」を通じて,「自分だけの快適空間」を実現するツールとしてパーソナル性が高い動画が利用されているように思われる。
最後に「就寝前」(図20 )では,「落ち着く」「癒す」「可愛い」「声」といった単語が抽出された。「落ち着いてよく眠れるから」「寝る前に癒されたい」「声を聴きながら寝落ちするのが心地よい」など,1日の最後,眠りへの誘導という場面にふさわしい,落ち着いていて,音だけでも楽しめるコンテンツが好まれているようだ。
文研の調査では,2011年の地デジ移行による買い替え期から3 台以上のテレビ所有が減少傾向で20 ),寝室からテレビが姿を消しつつある可能性がある。この「就寝前」というルーティン化された生活場面にどのメディアを利用するかは「習慣性」の維持という点で極めて重要である。テレビと動画の競争において,いかに就寝前の気分に合ったコンテンツを提供できるかが今後のカギになるだろう。