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中村家のレジェンドの話

まだ私が小学1年の時レジェンドは来た。
というか連れてこられた。
というか連れ去られてきた。

マルちゃん(犬)だ。

おもちゃの双眼鏡にハマっていた私は探偵ごっこと称していつものメンツ4人で自分の家に集まっては外を双眼鏡で観察していた。
監視を続けていたある日、向かいのスーパーの入口に佇む
毛むくじゃらの生き物を見つけた。
これは何かあるぞと
いつメン全員で現場へ向かった。

マルちゃんのスペックは黒白で小柄のシーズー3キロくらいだろうか。小1の私が抱っこできるサイズだった。
当時マルちゃんも6歳。人間で言うとばあちゃん。片目が白内障により見えてなかった。

とりあえず向かいの自分の家に連れ帰った。
吠えもしない、暴れもしない。首輪もして居なかった。
皆で部屋に新聞紙を敷いてそのしずかな毛むくじゃらを座らせた。
小さくてきっとこいつは子犬で迷い犬だと思った。

その夜母親が仕事から帰ってきて仰天したが、
この迷い犬の絵を書いて町中に貼りまくり
飼い主を探すことになった。
マルちゃんと名付け、愛着ガンガンに湧いてた私は飼い主が出て来ませんようにと思いながら
マルちゃんの顔をなんとなく違う犬種に寄せて描いた。

私の願いも虚しく隣の地域に住んでいる一人暮らしのおばあさんから連絡が来た。
どうやら最近居なくなった犬に似ているらしい。

まじか。私は1週間の間だったけどマルちゃんと言う親友と出会い、今別れの時を迎えたのだと決心した。

おばあさんがうちに来た。
マルちゃんをちぃちゃんと呼んでいた。
急にマルちゃんが他人に見えた。

母親がおばあさんにこれまでの経緯を話している。

私は母親には公園で遊んでいたら見つけたと言っていた。
双眼鏡で窓から外を覗いてたとかスーパーまで行ったとか、なんかややこしくなりそうだしここはシンプルに公園にしておいた。

おばあさんは優しい話し方で言った。
“ちぃちゃんいつもはスーパーの前で私の買い物を
待ってるのにどうしたのかしらね。”

ハッとした。
確かにスーパーの前に居た。佇んでいて迷っている風のマルちゃん本人は飼い主であるおばあさんの買い物をいつもの様に待っていただけだったのだ。
そこに鼻たれ小学生4人組に連れていかれたのだ。そう、ほぼほぼ誘拐だったのだ。
母親に知られたら私の命が危ない。
そう思った私は
“公園で危なそうだったので保護した”
と小さな脳みそを最大限に回転させなら堂々と嘘の証言をしてみせた。

おばあさんは私の心を読んだように
“うちにはもう1匹シーズー犬がいるからもし良かったらその子を貰ってくれないかしら”と言ってくれた。
母親は最初は遠慮したが、結果マルちゃんは
中村家の一員になった。

今思うとおばあさんは分かっていたと思う。
マルちゃんは買い物中にふらふら歩き回る犬じゃないこと。公園なんかには居なかったこと。
私達小学生がスーパーから連れ去ってしまったこと。
私がマルちゃんを飼いたくて堪らなかったこと。
きっとおばあさんには全てお見通しだった。

マルちゃんはそこから私が高3になるまで生きた。
最後は両目も見えなくなり後ろ足が動かず引きずりながらたくましく歩いていた。

私の小中時代は常に家族の一員だったマルちゃん。たまにあの毛むくじゃらに会いたいなあと思う。

mie

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