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「52ヘルツのクジラたち」読書感想 辛くて、切なくて、優しい

2021年本屋大賞をとった作品。
「52ヘルツのクジラたち」
を読みました。

今さらながら、本屋大賞とは全国の書店で
働く書店員さんがいちばん「面白い」
「お薦めしたい」という本を投票して
決められる大賞で、10作品がノミネート
されるのですが、面白いのは大賞だけが
発表されるのではなく、順位と得点まで
ちゃんと出るのですね。

「52ヘルツのクジラたち」
町田そのこ

52ヘルツのクジラとはー他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけの
クジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も
届かない、何も届けられない。
そのため、世界で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが
出会い、新たな魂の物語が生まれる。


事前にこの小説の感想を話していた
youtubeを見たのですが
「内容はとても暗くて重いです」
と強調されていたので、テンション落ちてる 時に読んだらメンタルやられるなと覚悟して
いたのですが、確かに扱ってるテーマは
ヘビーではありますが、そこまで苦しくも
なくさくさくと読み進められる作品でした。

余談ですが、本屋大賞の2位は
「お探しものは図書館まで」3位は
「犬がいた季節」で、この2冊は明るい
小説らしいのです。
昨年の本屋大賞をとった「流浪の月」も
重い系の内容だったので、書店員さんの
心に響く本というのはやはり重めという
少し似通った傾向にあるのかもと思って
しまいました。
私自身もそうなんですよね。

家族から虐待を受けて育った貴瑚は、
偶然再会した地元の同級生・美晴と
彼女の同僚・アンさんとの出会いによって
救われます。
やっと得ることのできた普通の幸せな
日々も付き合い始めた彼氏の主税との
関係ができたことで新たな問題や絶望を
味わうことになってしまいます。
その後、東京から1人大分の閉鎖的な村に
越してきた貴瑚。その村で出会った少年も
かつての自分と同じように虐待を
受けていて、何とかその少年を救おうと
する貴瑚だったのですが、、

児童虐待、ヤングケアラー、DV、性同一性
障害に対する偏見や理解不足など
現代の社会のさまざまな問題がたくさん
出てくる作品です。
辛い箇所もあり、問題が詰め込まれ
てるのに、重苦しさだけではないのは、
田舎独特の閉塞的な中で自分をしっかりと
持っている貴瑚の態度や言動があったから
かも。
母親、義父、その間にできた溺愛されて
いた弟という名ばかりの家族の中では
自分を出せなかった(暴力をふるわれる
から出すことは許されなかったのだけれど)
それでも貴瑚が逞しくなったのが
感じられたのは救いでした。

そして、私はこの小説の中で一番素敵な
キャラが貴瑚の友達である美晴だと
思うのです。
貴瑚を過酷な環境から救ってくれたのは
アンさんではあるけれど、美晴は貴瑚を
決して見捨てない、正直で心根が良い子
なんだろうなと思います。
貴瑚にとって美春に出会えたことが、
自分を生きる人生の岐路だったのでは
ないかと。

それにしても、貴瑚の歩んできた人生は
酷くて、、なんでこんなことに
なっちゃうんだろうと思うことばかり
です。

ムシと呼ばれてる少年の母親もまた
歪んだ愛情で育てらた被害者のような
もので、大人になれない母親としての
務めを果たせず、子供をストレスの
捌け口にしてしまうという悲しさが
あります。

全体的には確かに悲しいお話です。
でも、それだけではない優しいお話
でもあります。
自分の悲しい過去も何とか前向きに
捉えて生きていこうと思えるお話です。

子供の虐待の悲惨なニュースを見るたびに
胸が押し潰されそうになるのですが、
私自身がそれを身近に感じたことが
ないので、正直虐待に関して現実感が
ないのです。
と同時に今まで自分はいかに安全地帯で
暮らしてきたかと思い知らされるのです。
無意識に避けてきたのかもしれません。

子供を産むというのは大変なことで、
産まれた命を産んだ親が理不尽に
必要以上に痛めてつけていることなど
信じたくもないのです。
コロナ禍でステイホームを課せられても、
家に居場所がない、家庭が安心できる場所
ではない子供達はさらにひどい環境に
いなくてはならないのですね。

そんな子供達が発する52ヘルツに誰かは
気付いてくれるのだろうか?
人って結局人に支えられて生きてる
んだなとこの本を読んで強く感じました。
今、過酷な環境で生きるしかない子供達も
いつか支えてくれる人を見つけてほしい、
見つかってほしい、そう願わずには
いられない。
そして、もし自分が見つけたら一人で
抱えるのではなく、私も誰かに相談
しながらも何かの形で行動をおこしたいと
思いました。

ひとというのは最初こそ貰う側やけんど、
いずれは与える側にならんといかん。


作中の村中のおばあちゃんが言った
言葉なんですが、これ響きました。
私も与える側にならんといかんですね。

そもそも、「52ヘルツのクジラ」の存在、
この本のタイトルで初めて知ることに
なったので、最初はフィクションかと
思いました。

52ヘルツの鯨とは、正体不明の種の鯨の
個体で、非常に珍しい52ヘルツの周波数で
鳴く。
この鯨はおそらくこの周波数で鳴く世界で
唯一の個体であり、その鳴き声は
1980年代からさまざまな場所で
定期的に検出されてきた「世界でもっとも
孤独な鯨」とされる。

世界でもっとも孤独な鯨が、実存する
なんて信じられますか?
仲間に気付かれるこどなく、たった一匹
だけで泳いでいる鯨。
それだけでも泣きそうやん。

BTSの歌にもあるんですね。

 『Whalien 52』
こちらもめちゃ切ない歌詞です。

本屋大賞とるだけの価値がある
読み応えのある辛い、けれど希望も
感じる小説でした。


最後までお読みいただきありがとう
ございました。

みぃみ


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