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東京都知事選挙で争点になりそうな問題



はじめに

 これまでで最多の56人が立候補した今回の東京都知事選。2期8年都政を担った小池知事が再選されるか、注目を集めています。8兆円を超える一般会計予算の使い道は1400万の都民生活にも大きな影響を与えます。
 争点は予算の使い道にも影響し、大変重要です。本記事では膨大な事業が実施されている東京都で、争点になりそうな課題や事業を5つあげ、詳細を解説します。

教育・子育て

 様々な政策が選挙の争点になる中、教育・子育て分野は都民の関心も高いことから多くの候補者が独自の政策を掲げ、小池知事も実績として掲げています。小池知事はこの4年でどのような教育・子育て政策を行ったのでしょうか。本項ではこれまでの方向性を大きく変えた主な3つの政策に的を絞り、解説します。

①都立大学無償化

都は家庭の状況に関係なく、子供たちが希望する進路を選択でき、安心して学べる環境の実現のために今までの授業料補助制度に加え、都内の子育て世帯に向けて、新たな制度を設けました。これまでは、478万円未満の世帯年収を目安に無償化されていましたが、今回の制度では所得制限が撤廃されることで無償化される対象が増加します。条件としては、生活費を負担する親、親族などが都内に住んでいることです。ただし、世帯年収が478万円未満の世帯は、親などが都外に住んでいても対象です。支援開始時期としては2024年度(令和6年度)からです。(​​​以下、イメージ図)[1],[2],[3],[4]


引用:東京都公立大学法人 https://www.houjin-tmu.ac.jp/topics/topics14396/

②私立高校の授業料無償化の所得制限撤廃

 東京都ではこれまでも世帯年収が910万円未満の世帯を対象に私立高校の授業料の実質無償化を行ってきましたが、今年度から所得制限が撤廃され、保護者が都内に住んでいれば全世帯が授業料無償化の対象となります。また、保護者が都内に住んでいるという条件を満たしていれば、生徒が都外の高校に通ってたとしても授業料無償化の対象となります。
 都は、「一人ひとりの多様な選択肢が叶えられる社会」の実現に向けた取り組みの一貫として、高校無償化を行う実施する方針で、経済的な理由で子供を産み育てることを諦めることがないよう、また、子供たちが将来にわたって安心して学ぶことが出来るようになることを目標に掲げています。
 一方で、都外から都内の高校に通う場合や、都内から都外の高校に通う場合は、同じ高校内に無償化の恩恵を受ける生徒と受けられない生徒が混在することになります。このように、同じ高校に通いながらも金銭面の負担で差が出てしまうことが、一部の保護者の間ではモヤモヤ感につながっており、東京都とそれ以外の間の格差がさらに広がってしまうのではないかという指摘も出てきています。[3],[5],[6]

③18才以下の子供に5000円の給付金


引用:NHK首都圏ナビ https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsu/20230106c.html

 子育て支援は東京都のみならず全国の自治体でも注目される重要な政策です。コロナ禍の行動制限が影響して出生数は大きく落ち込み、少子化は政府の想定を超えて進んでいます。そんな中、岸田首相が2023年の年頭記者会見で「異次元の少子化対策」を打ち出し、国会でも与野党を巻き込んで少子化対策をめぐり大きな論争となりました。政府が具体的な少子化対策を打ち出す前に東京都がいち早く打ち出したのが、都内在住の18歳以下の子供に所得制限なしで1人月額5000円支給するというものでした。約200万人が対象となる政策で大きな話題となりました。5000円の根拠として東京都は全国の養育費と東京都の養育費の1人あたりの差額を示しており、給付金は1年に3回、まとめて支給されるかたちになりました。この政策を都は「018サポート」と名づけ、2023度に続き今年度も実施しています。[7],[8]

通勤・通学ラッシュの解消

 小池都知事は、公約として「満員電車ゼロ」を掲げていました。首都圏の鉄道の朝のピーク時間帯の平均混雑率に関する取り組みにより、18年度は163%であったが、22年度は123%と40%も減少に成功しました。その取り組みの内容にはコロナ禍の影響が大きいと考えられます。在宅勤務の支援として、機材購入費を助成するなどしました。その結果、都内企業のテレワーク導入率が18年の19.1%から22年は62.9%と大幅に増加しました。テレワークの導入率の増加に伴い、通勤手段として利用されていた鉄道の使用率が減少したと考えられます。一方で公約をどの程度達成できたかは議論が分かれています。[10],[11]

明治神宮外苑の再開発


引用:NHK首都圏ナビhttps://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20240405a.html

 明治神宮外苑の再開発は東京都知事選挙で争点のひとつになっています。そもそも明治神宮は、内苑と外苑の2つから構成されており、そのうち明治神宮外苑に位置する神宮球場や秩父ラグビー場がそれぞれ位置を変えて建て替えられる他、3棟の高層ビルが建設されることが計画されています。その計画の中で高さ3メートル以上の樹木1904本のうち743本が伐採されることがわかり、昨年の夏以降、著名人を中心に反対の声があがりました。また、ユネスコの諮問機関・イコモスが明治神宮外苑を「世界の公園の歴史においても例のない文化的資産」だとして再開発の中止を求める警告の文書を都や事業者などに送り、海外のメディアも巻き込み大きな議論を巻き起こしました。一方、明治神宮は内苑を将来にわたって維持するため、外苑における再開発で資金を調達する必要があると説明しています。
 東京都はこの再開発事業を認可しており、小池知事は事業者に樹木保全策を策定するよう求めてきました。その一方、計画の認可は撤回しない考えを示しており、伐採に反対する立場の候補者との大きな対立軸となっています。[12]

ソーラーパネル設置の義務化

 2025年4月から、都内に新築される住宅のソーラーパネル設置が義務化されます。東京都は2030年までに都内の温室効果ガスを50%削減する「カーボンハーフ」の実現に向け、再生可能エネルギーの利用拡大を促進しており、その一環としてソーラーパネル設置の義務化が行われることになりました。この決定は全国に先駆けて行われたものであったため、大きな注目を集めました。この義務化のポイントは対象が住宅を購入する消費者ではなく、都内で住宅を供給する大手ハウスメーカーであるという点です。つまり、ソーラーパネルを設置する義務を負うのは、住民側ではなくメーカー側となります。また、「面積が小さい」「北向き」といった理由により、ソーラーパネル設置しないでも良い建物も存在するなど、細かい内容は条件によって変わってくるようです。また都は支援制度を設け、環境性能の高い住宅の新築時・既存住宅の断熱改修時に設置するソーラーパネル等に対して補助を行うとしています。都のHPによると、4キロワットの太陽光パネルを新築住宅に設置した場合、自己負担と都の補助の割合は以下の画像のようになるようです。


引用:東京都HP https://www.koho.metro.tokyo.lg.jp/2023/01/04.html

 ソーラーパネルを設置するメリットについてですが、都は、毎月の電気代を下げられる点、停電時にも使えるため防災力が高まる点、発電に当たりほとんどCO2を輩出しないため脱炭素社会に貢献する点をメリットとして挙げています。しかし、そのようなメリットが挙げられる一方で、一部では住宅新築価格が100万円程度値上がりするとの予測もあり、義務化に対しては、そのようなデメリットに注目した反対意見も存在しているようです。[13]

築地市場跡地の再開発計画

 2018年に築地市場は豊洲に移転しましたが、場外市場では500以上の店舗が営業を続けており、市場が移転したことで客足の減少が懸念されていました。こうした懸念に対し、豊洲への移転前に小池知事は「築地は守る、豊洲は生かす」と発言していました。
 豊洲への移転から8年が経過し、三井不動産を代表に読売新聞グループなど11社の企業連合が都の公募の結果、築地市場跡地の再開発事業者に選ばれました。用途に応じて8つのかたちに変えることができる多機能型スタジアムを軸にオフィス・住宅・ホテルなど総額9000億円を超える大規模な計画が公表されています。来年度から着工し、2032年の完成に向けてプロジェクトが進みつつあります。長い伝統を持つ場外市場にとって観光客の増加などの恩恵がある反面、まちが大きく変わることで景観や風紀に悪影響がでる可能性もあり、今後どのように再開発を進めるかは築地の将来を左右する重要な課題になりそうです。[14],[15]

参考文献

[1]東京都公立大学法人”東京都立大学の新たな授業料減免制度 ~都内子育て世帯への新たな支援を実施(授業料実質無償化)~”
https://www.houjin-tmu.ac.jp/topics/topics14396/
[2]NHK首都圏ナビ”【学校ごとに詳しく】都の授業料無償化 申請はいつから?どうやって?”https://www.nhk.or.jp/shutoken/article/019/69/
[3]NHK首都圏ナビ”東京都 2024年度から「授業料無償化」どんな制度?対象は?”https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20240123a.html
[4]東京都総務局総務部企画計理課”都立大学等の新たな授業料減免制度 ~都内子育て世帯への新たな支援を実施(授業料実質無償化)~”https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/08daigaku/jissitsu.html
[5]東京新聞”「同じ学校で都民はタダ、こちらは全額負担って…」東京都の高校授業料実質無償化で他県の保護者はモヤモヤ”https://www.tokyo-np.co.jp/article/2979672023年12月25日掲載
[6]東京都”所得制限なく私立高校等の授業料を支援”
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/05/29/09.html
[7]NHK首都圏ナビ”東京都 「少子化対策で子どもに月5000円」なぜ?”
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20230106c.html
[8]東京都福祉局”018サポート”
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/kosodate/018/index.html
[9]読売新聞”「七つのゼロ」進展は 待機児童大幅減 介護離職は1.7倍”
https://www.yomiuri.co.jp/local/tokyo23/news/20240319-OYTNT50248/
2024年3月20日掲載
[10]テレ朝NEWS”「満員電車ゼロ」初会合 小池知事の公約実現に向けて”
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000099610.html
2017年4月28日掲載
[11]北國新聞”鉄道混雑解消、どうなる”
https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/1448133
2024年7月3日掲載
[12]NHK首都圏ナビ”神宮外苑再開発 なぜ再開発が必要? なぜ“公園”に高層ビルが? 事業者の単独インタビュー”
https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20240405a.html
[13]東京都”太陽光発電設置義務化に関する新たな制度が始まります”
https://www.koho.metro.tokyo.lg.jp/2023/01/04.html
[14]NHK首都圏ナビ”神宮外苑再開発 なぜ再開発が必要?なぜ”公園”に高層ビルが?事業者の単独インタビュー”https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20240405a.html
[15]NHK NEWS WEB ”築地市場跡地に”多機能型スタジアム”再開発事業者が提案説明”
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240501/k10014438061000.html


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