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『夜に星を放つ』 感想

★★☆☆☆

 昔から「星」というものが好きだった。星座の神話を読むことが好きで、のんびりと星空を眺めていると気持ちが落ち着いた。それなのに学生の頃、地学の成績はそこまで良くなかったのは一体どうしてだろう。

 大人になってからもそれは変わらず、「星」とつくものには興味が惹かれた。今回の本も、そういう理由で読んだものだ。

 2022年5月発行、作者は窪美澄さんだ。黒の背景に可愛らしいフォントのタイトル、散らばった色がどこか悲しくて美しい。彼女の本も今まで読んだことなかったので、どんな物語か楽しみだった。

 以下は公式のあらすじである。

 第167回植木賞候補作。

 かけがえのない人間関係を失い、傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。

 コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夏のアボカド」。

 学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の、寄る辺のなさ描く「星の隨に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五篇。

 次からは私の感想を書いていく。相変わらずネタバレには一切配慮しないのでご注意ください。

 1.感想

 色彩が美しい作品だと感じた。どの物語にもたくさんの色が溢れている。しかし、それらはどれも強い主張をするわけでもなく、何かを飲み込みそうなほど大きいわけでもなく、ただ小さく微かにぽつんとそこにある。

なんとも、なんとも哀しい色だ。

 何色も飲み込む漆黒の中にその小さな色はあっけなく溶け込んでしまう。下手したら存在したことさえ忘れられてしまうだろう。それくらい、ささやかでどこにでもありそうな物語ばかりだ。

 それでも物語に出てくる人たちは、必死になって生きている。悩み、苦しみ、どうしようもない感情を抱えて生きている。その熱量が彼らの色となり、世界に小さな輝きを与える。星なんて存在しないかもしれない。光なんて見えないかもしれない。それでも、もしかしたら、目を凝らせばそこには星があるかもしれない。

「星なんて、やっぱり見えない。それでもはるか遠くにかすかに光っている星らしきものは見えた。」(p.133)
「真っ黒な夜空には所々に星が見えた。確かに星座の形を結んではいるがその線はまるで溶けているように、だらりと緩み、白い線が縦に走っていた。」(P.212)

窪 美澄『夜に星を放つ』より

 

そ うやって生きていく人々は、なんと哀しく、愛おしいのだろう。

 世界はなんでもないことで出来ている。そして、その他愛のないものたちが世界を彩っているのだ。

 また、コロナ禍という未曾有の事態をうまく反映しているとも感じた。先の見えない状況で、緊急事態宣言の中目に見えない何かに押しつぶされていく様子がリアルに表現されている。

「私はぐつぐつと暮らしていた。」(p.6)
「コロナでもなんでも夏は夏だったし、海は海だった。地球の上に生きている人間の生活が変わっただけだ。」(P.11)

窪 美澄『夜に星を放つ』より

 きっとこれから、長い長い地球の歴史には同じようなことが起こるだろう。そしてその度に、人は同じように生活を変え、鬱屈とした生活を過ごすのだろう。それでも、人は人を求め、安心を得ようとする。今までもそんなふうに人は生きてきたんだろうなと、不思議な気持ちで納得した。

 

2.初読の感想

 燃えて消えていくだけの星に、人は意味を見出そうとする。ただ星はそこに在るだけなのに。私たちの周りに起こる様々な出来事も、本当はただきっとそこに在るだけのものなんだろう。

 それでも私たちは、そこに意味を与える。理由を求める。そうして勝手に傷ついて、悲しくなって、希望を得る。

 どうしようもないことは星の数だけあって、どうしようもない私たちはそこに理由を見つけようとして。

 そうやって、このどうしようもない世界を生きていく。

 

 とはいえ、私は「生々しい男女の性」とか、社会的に決められた枠組みに押し込められた関係が苦手だということが改めてわかった。恋愛小説が苦手なのは、きっとここに理由があるんだろうな。

 

3.まとめ

 色が鮮やかで、目が眩むような光はなくとも輝いているものを見た気持ちになった。内容は私が男女の恋愛要素や社会的に言われる家族関係、枠組みを苦手としているため素直に「面白い」とは言えなかったが、好きな人はとことん好きになる物語だと思う。

 他の作品は、もしかしたら好きな物語かもしれない。また機会を見つけて読んでみようと思う。

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