見出し画像

樹木希林さんの言葉

 今回は、四年前に亡くなられた女優の樹木希林さんについてお話ししたいと思います。と申しましても、私が特に希林さんのことをよく知っていたわけではなく、ただ、希林さんが亡くなられた直後に出版された本を読んで感銘を受け、私なりに考えたことをお話させて頂きたいと思います。

 その本は、希林さんが亡くなられた約三カ月後に文藝春秋社から出版された新書版の『一切なりゆき ~樹木希林のことば~』です。この本は希林さんが書かれた本ではなく、生前、雑誌のインタビューなどで掲載された文章を、編集者の方が一冊の本に纏められたものです。皆様ご存じのように、希林さんは六十一歳の時に乳癌が見つかり、六十二歳で右乳房の全摘手術を受け、七十歳には全身癌であることを公表されています。癌を患いながら映画に出演し、六十一歳の時には第二十八回アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞され、その後も多くの映画賞を受賞されており、女優として最も輝いた時を過ごされたのではないかと思います。このように癌という厳しい病に侵されながらも、死の直前まで女優として活躍することができた原動力が何であるのかということが、私たちの知りたいところではないかと思います。

私がこの本を読んでその原動力として考えたことは、希林さんが熱心な仏教徒であったということ、つまり、希林さんの人生の基本に仏の教えがあったということです。このことは、希林さんに関するテレビ番組がいくつか放送されましたが、全く触れられていなかったことであると思います。例として、

お経の中に、「一生にも二生にも三生にも」という言葉があるんですね。・・・今生(こんじょう)は、さほど「私の最期」と考えなくてもいいなと思ったりもするんです。

という文章があります。この文章から、希林さんが癌で死んでも、全てが消え去るのではなく、次の新しい人生があると考えておられたのではないかと思います。そのことがあるから、癌に侵されつつも、希林さんの次の文章

死を感じられる現実を生きられるというのは、ありかたいものですね。

という言葉が生まれたと思います。また、死に方についての文章を引用しますと、

経典にある「薪尽きて火の滅するがごとし」が理想です。

という言葉があります。この文章から、希林さんが釈尊の死のありようを理想とされていたことがわかります。さらに、

お経を読むと、心身の活性化につながります。わたしにとってお経を読むのは、日常的なことなんです。

という文章も本の中に見られます。
私は、希林さんの文章をまとめた本を読んで、希林さんが生と死を超えていく仏教を人生の基本とすることによって、悔いのない人生を全うされたのではないかと考えております。皆様も文藝春秋社から出版された『一切なりゆき ~樹木希林のことば~』を読まれることをお勧め致します。

※本内容は2022年4月テレフォン法話で配信された内容です。
逢坂 勝彦 (おおさか・かつひこ)/多気町・空釋寺住職

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?