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オランダで心理専門家が考える子供の発達と教育のこと:思春期の子供の親の役割

親の言うことを聞かない!

小学校も高学年になってくると、どの家庭でも親と子供の間のコミュニケーションが複雑になってきますね。母親にとっては男の子の難しさ、お父さんにとっては女の子の難しさに直面します。そして彼らが中学生になると、子供をどう扱って良いかわからなくなったりします。現代のお父さん、お母さんは多くの情報や本を読んでよく勉強されていて、厳しすぎてはいけない、でもそうするとわがままが促進してしまうと、よくよく答えの見つからないやり取りにイライラされている様子をよく伺います。

「そもそも親の言うことを聞かないなんて、なんて健康に育ったのでしょう」。そんな時、私はそうお伝えしています。親の言うことをよく聞くのは小さな頃だけで十分なんです。子供たちは成長の階段をしっかり登って、今「自我」が芽生えてきているところなんですから。

もし親の締め付けが強すぎる環境で育ったら、子供は聞き分けの良い「良い子」のまま育って見えるかもしれません。でもそれは外見的にそう見えるだけで、心の中は押さえ込んだ自我がいつ爆発するのかわからないとも言えます。学校では良い子、良い生徒、でも実は大人の見えないところで自分や他人に危険な思いをさせることもあります。

家庭での「反発」は子供の大切な発達の一過程と言えます。

親の役割も変化していく

では、親はどんな風に思春期の微妙な時期を対応したら良いのでしょうか。小さい頃は、親が子供にできることは身体的にまた情緒的に守ることでしたね。食べたり寝たり、友達と遊んだり、社会のルールを教えたり、子供がこれから一人で歩いて進める準備段階をガイドしてあげるのが親の役割です。

そしてやがて子供の反発が見えた頃から、この親の役割を「相談相手や見守り隊」に変化させていく必要があります。


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良い聞き手になる

子供が自分のことを自分でやりたいと思うようになった時が親の立ち位置は先頭から背後に下がる時です。親は子供達の代わりに判断し決断することをやめて、子供が選ぶ最前の決断ができるようガイドしてあげるのです。

なんて不安で頼りなくて難しい、と感じるかもしれません。そうなんです。親はもどかしくて、つい手や口を出してしまうかもしれません。なぜなら親は世の中の正しい答えを知っていると思うからです。

本当にそうなのかもしれませんし、でも実はそうではないのかもしれません。いずれこの猛スピードで激変する世の中で、親の知っていることはどんどんと陳腐化して、子供の方が新しい現実社会を見ていることも多々あるのも事実です。これは、実際に様々な職場や大人の社会でも起こっていることですから、家庭の親子間でも起こっていても当然ですね。

親も謙虚になって話に耳を傾ける

だから親も子供の知っている世界を尊重しながら聴く態度が大切になるのです。そこには、遠からず近すぎず、相手の領域を尊重した、しかも開放的な関係作りが大切になります。

思春期の子供は、自分が何をしたいのかがわかってきていると同時に、どれがより求められる行動で、何をすべきなのかを頭で理解はしているのです。でも、それをうまくできなかったり、大人に教えられてやることが自分の無力さや限界を知るようで、簡単にイラついたり投げやりになったりしてしまうのです。できる力を信じて、ガイドする立場「コーチング」が親の新たな役割となります。

「コーチング」とは、聴く態度が中心になります。親は、人生を教える立場(Teaching)ではなく、子供の問題解決をする立場(Fixer)でももうありません。子供が自分で自分の道を切り開くのを、伴走する立場に変わるのです。代わりに走ってあげることはもうできません。

でも子供に判断や決断を任せることは親にとって当然不安もつきまといます。子供は欲求の塊なんですから、わがままになってしまうのでは、自分勝手にするのでは、と、その不安を考えたら本当にゾッとしますね。でもよく考えてみると、ゾッとするのは子供を信じきれない自分の不安に対してではないですか?どうしよう、怖い怖い、と。親の不安のために、子供を信じられないと子供は気の毒です。

「バイ・イン」とは自分の責任範囲として引き受けること

きっとお子さんたちはアレヤコレヤと言いながら、自分がどこまで信じてもらえているのかを試すような言動をしてきます。

「じゃあ、・・・なら・・・してもいい?」「次にテストで・・したら・・・させてくれる?」小さな交渉人が声を上げてきます。相手の顔を伺いながら、自分の許容範囲を広げようと必死です。

可愛いですね。子供は、親を試して自分の自信をつけたいのでしょう。そして自信が積み重なっていくことで、彼らの本当の力になっていくのでしょう。

親はそんな時、子供が自分の責任範囲を引き受けるようそっと背中を押し、「バイ・イン」して上げましょう。これは放任ではなく、見守りです。すぐに手や口を出さずに、信じて見守る、これは大変な忍耐です。でも、子供に親の信頼感が感じられるようになれば、自然と子供が自分の考えを話したり確認しようとしたりしてきます。それをまた聴く。そして考えることを促すのです。「君ならどうする?どう思う?」と。

相手を認めることで育つ「自己効力感」

子供が考えや迷いを聞かせてくれたら、そこまでの子供の努力や賢さ、勇気を認める言葉をかけてあげることで子供の自己効力感が育ちます。自己効力感とは、カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自分ができると信じて行動する力」を意味します。

自己効力感を育てるには自分への信頼感が必須です。そのためには大きく分けて二つ、「自分はその行動をすれば期待する結果が得られる」と思えることと、「自分がそのための行動をやりきることができる」という二つの自分への期待が必要です。そのために必要なのが自分にとって大切な他者、つまり親や親しい大人からの信頼なのです。

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子供の領域に親も入ってみる

子供に任せることは親から完全に離れることではありません。親も子供の世界(子供の興味や関心)に関心を寄せ、一緒に楽しんでみたり試してみたり、子供に新たに教えてもらうこともできます。親が一段下がって子供の世界を教えてもらうと、子供は自分の大事に思うことを親も大事に思っていると感じることができますね。

これらは、散歩しながらなどちょっとした時間や、雑事から離れた環境でゆっくりと話すことが効果的です。

振り返ればあっと言う間の子どもの思春期です。後悔のないよう見守りたいですね。


執筆 淵上美恵 

グローバルウェルビーイング

オランダにて企業におけるメンタルヘルス対策、各種セミナー、駐在員とその家族のメンタルヘルスケア、カウンセリング、スクールカウンセリングを実施

組織心理コンサルタント、オランダ心理学協会認定心理士、スクールカウンセラー

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URL http://www.globalwellbeing.nl






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