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【連載小説】語研活動日誌 #3

前回(#2)

まえがき
*0時すぎてしまった……
*進みがおそいのはヒキのつもりです。

#3


 凛雅学園の校舎は大きく二つの棟からなる。一つは通常の教室がある、学生生活の中心となるA棟。もう一つは、職員室や特別教室が中心のB棟である。入学してから日の浅い遥にとっては、使用頻度の低いB棟は未知のエリアが多く、また教員との遭遇率が高いこともあって、あまり足を踏み入れたくない場所であった。

 遥が昼休みにわざわざB棟に踏み入ったのは、石飛さゆりに用があるからだった。午前の授業が終わったあと、おそるおそる覗いた一年C組の教室には、その姿が見えなかったのだ。

――うう、部屋が多すぎてわかんない。生徒会室、生徒会室ってどこ……放課後までに石飛さんに部活の名前聞きださないと……。

 昼休みにB棟を訪れる学生は、職員室に用がある者が多い。それ以外のフロアは常に人が少なく、静かだった。

 その時、挙動不審に辺りを見回しながら歩く新入生を見かねてか、通りかかった上級生の一人が遥に声をかけた。

「何を探しているの?」

「え、あ、あの……生徒会室を」

「そう。じゃあ連れて行ってあげる」

 遥は上級生の顔を見ていなかったが、胸の校章から三年生であることはわかった。彼女は遥にそっと近づくと、その手をとった。

――また急なスキンシップ……なんでみんなすぐ手握ったりできるんだろう?

 何はともあれ、親切な上級生に手を引かれて、遥は生徒会室へとたどり着いた。

「はい、どうぞ」

 遥が扉の前で立ちすくんでいると、先ほどの彼女がわざわざ中へ案内してくれた。もしかして、生徒会の人だったのかな……そんなことを考えつつ中に入ろうとすると、ちょうど出てきたさゆりと鉢合わせになった。

「あっ、……石飛さん」

 さゆりは遥以上にびっくりした様子で固まっていたが、やがて遥の右手側の空間に向き直り、口を開く。そこには遥を案内してくれた上級生がいた。さゆりの横顔は、どこか緊張しているように見えた。

「あ、……せ、生徒会長。部活動の設立申請、を出しに来ました」

「えっ、生徒会長?」

 遥も驚いて顔をあげる。言われてみれば見覚えがあった。入学式のとき、在校生代表として挨拶をしていたのが彼女だからだ。

「はーい、生徒会長の宮森です。よろしくね?」

「よ、よろしくおねがいしま……」

 遥が言い終わるより前に、宮森会長はさゆりにプリントを一枚手渡した。

「そうそう、石飛さん。お待たせしてごめんなさいね。……はい。これから部活動がんばってね」

「ありがとうございます」

 会長は二人に微笑みかけてから、扉の奥に消えていった。

 遥も、さゆりも、その堂々とした立ち振る舞いにしばらく目を奪われていたが、やがて遥が沈黙を破った。

「そ、そうだ。石飛さん。部の設立できたんだよね。その、部活の名前、教えてほしいんだけど」

「あれ? 言ってなかったっけ。じゃあお披露目! ……はい、じゃじゃーん!」

 さゆりは急に声のトーンをあげて、ポケットから二つ折りにした長方形の紙を取り出した。静まり返った廊下に、さゆりのセルフファンファーレが響く。

 ばっ、と開かれたその紙には、黒々とした墨で達筆にこう書かれていた。

【語学研究部】

「語学……研究部?」

「そう、語学研究部! これ生徒会長が書いてくれたんだよ。あ、今から部室にこれを飾りに行くんだけど、吉田さんも来る? 他のメンバーも来るはずだし」

 この日めでたく新設された凛雅学園・語学研究部には、すでに部室が与えられているようだった。こうして申請が受理されたということは、顧問がついているということでもある。さゆりが入学早々にして、様々に奔走してきた成果に他ならない。

――嬉しそうだなあ……そっか、石飛さんもいろいろ頑張ったんだ。おかげで私も部活見つかったし。

「うん、いいよ。一緒に行こう」
「オッケー! 部室はこの真上だよ」

 遥はさゆりにまたしても手を引かれ、階段を上っていく。嬉しそうに歩幅を広げるさゆりの手が、少しだけ熱く、汗ばんでいた。

これまでのお話


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