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無自覚のエンジョイハラスメント。

桜の季節。
スーツに身を包んだ若者が、街を賑やかにする。

若い方が集うだけで活気があふれる。エネルギッシュというか、ハリがあるというか、勢いまかせというか。お金では決して買えないものが、20代にはあるのだと思う。30代に入って、余計に実感をする。


「エンジョイハラスメント」

という言葉をご存知だろうか。

その名の通り、「エンジョイ」に対する「ハラスメント」。「楽しい」の押し売り。

2017年にテレビ番組「セブンルール」にて。オードリー若林さんが提唱された、新たな価値観。

”なんでもハラスメント付けがちよね。”

私もそう思う。ハラスメントの基準が年々厳しくなっている。変化によって、救われる方がいれば、意図せず加害者側になってしまう方もいるのだろう。

生きやすいと感じる方がいれば、生きにくいと感じる方もいる。

何が正解で間違ってる、なんて。
答えはないから、難しい。



過去、私が感じた「違和感」。
”ハラスメント”になるならないについて、ご一緒にお考えいただけますと幸いです。


新入社員。

1ヶ月ほどの研修が本社にて行われた。

仕事の基本マナーから始まり、顧客との面談を想定したロールプレイ等、偉い人のありがたい話や人生について教えていただいた。(正直、何も覚えてはいない。)

自己啓発。その一環として、10年後の自分に手紙を書くイベントがあった。手紙の内容は、上司はチェックせず、好き勝手に書いて良い。ただし、10年後の郵送先は必ず届く住所地を書くこと、と言われた。


必ず、届くところ、、?

そんなもの私にはない。

当時、私は未婚。生まれ育った家庭は最悪の事態に直面中。10年後に両親が離婚していない可能性の方が低い。そのうえ、実家があるかどうかも危うい。そんな状況。

「逆に、10年後も必ず手紙を受け取れる住所地を持っている人が、この世の中にどのくらいおられるのですか?あなたは、そのひとりかとお見受けしますが、多数派だとお思いでしょうか?」

と、楽しそうにしているイベント担当者には、言えなかった。


社会人。”いかにも普通の家庭で育ちました”のような顔をして、手紙を書いた。それが仕事というのであれば、従うべきだろう。そう思った。

結婚してますか?

子どもはいますか?

祖父母が生きてたら100歳?無理か。全滅?

とか、そんなことを書いたと思う。

あと、自分は手紙を受け取らないだろうから、うっかり受け取ってしまったお方に向けて。メッセージを書いた。

「差出人のお探しは不要です。悪い思い出なので、捨ててください。」と。

案外覚えているものだ。



お手紙騒動以来、モヤモヤが自分の中にずっとあった。

⚪︎⚪︎ハラスメントが流行り出したのは、もっと後のこと。数年の月日を経てようやく、あの時の「違和感」が解明されることになる。


“良かれと思って。”
イベントを計画してくれた担当者。

10年後。入社したての初々しい気持ちを綴った手紙を読み、温かい気持ちになるかもしれない。励まされるかもしれない。新しい家族と一緒に懐かしむかもしれない。

そう、明るい気持ちで。未来をみてくれていたのだろう。

そのお心遣いはありがたい。

輝かしい正の象徴。



反対に、私は負の感情を抱いた。

触れられたくないプライベートな領域。誰にも明かすまいと厳重に鍵を閉めている。そこをノーアポイントで突撃訪問された、そんな感じ。

ザワザワした。ひたすら。

思い出したくはない日。



お手紙を書いて、10年の月日が過ぎた。
受け取る予定は、ない。


「楽しい」という言葉。
主観的なイメージ。「楽しい」と思う人もいれば、そう思わない人もいる。ただ、それだけのこと。

「楽しい」を押し付けた側と、押し付けられた側。
前者はきっと気づかない。気づかなくていい。

そのかわり、距離を置ける自由が、あればいい。

そうすれば、後者の心は保たれる。



「エンジョイハラスメント」という言葉がある。

これは、「楽しい」を押し付けられた側が、身を守るためのもの。

なくてはならない、のだ。



🌷参考資料🌷
・『仕事を楽しめ!=「エンジョイハラスメント」? オードリー若林が提唱、共感広がる』, J-CASTニュース,  2017.11.08
https://www.j-cast.com/2017/11/08313351.html?p=all


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