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ダイスを振って異世界へ

最近楽しいことがある。ライブもあれもこれも。いつもの楽しみが無くなる少し前、アナログゲームの一種「TRPG」という遊びを教わった。強引にまとめると「テーブルトークRPG」と言って、GMと呼ばれるゲームマスターが話すストーリーに乗っかって、アナザーワールドでの冒険や戦闘を楽しむゲームだ。

中でも国内で人気を誇る、最近2kgの重量級セットが発売された『ソード・ワールド2.5』を体験してきた。

TRPGは電源もモニターもいらないアナログゲームだ。参加者はGMのトークに誘われ、ダイスを握って物語の世界へ旅立つ。ルールブックを道しるべにダイスの偶然とチームの決断で、幾通りにも話が出来上がるエンタメを初めて教えてくれたのは、ソード・ワールドを生み出したグループSNEに所属する友野詳さんだった。

…初めてゲームに参加した。つまり、初TRPGのGMが、アナログゲームデザイナで作家の友野さん。綺麗なダイスをたくさん見せてくださって、キャラの説明もとっても丁寧。初めてTRPGやりますーという我々に、そのゲームの歴史も説明してくれる。ゲーム途中の情景描写はキラキラと、へっぽこな出目へ自然とフォローを入れるストーリー展開。どう考えてもただ者ではない…。

あんまりにもストーリーの積み上げが美しかったので、実は…家に帰ってから、名前をググった。友野GMその節は大変失礼なことを…。そんな凄い人とは知らなくて…。

TRPGに誘ってくれた後輩の紫ちゃん、めちゃめちゃ偉いさんやん?大丈夫?と後から不安になったりしたけど、もっかいちゃんとお話聴きたいな!と、不思議なご縁に甘えて、インタビューさせていただいたのだが、まず、後輩のおはしちゃんの原稿が最高にわかりやすいので、目を通してほしい。

せっかくだから、おはしちゃんとは少し違った角度で感想を起こそうと思う。インタビューだけでなく初めてTRPGを体験した感想からスタート。そのあとに他のゲームでのテストプレイを体験したり、キャラクターシートの作り方なども教えていただいた。そのときのことも交えて書き起こしていく。

※このテキストは友野さんに許可をいただき、掲載しております。

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自分の手のひらでみなが踊っている

ソード・ワールド2.5の世界は、エルフやドワーフが闊歩するファンタジックな場所。参加者はGMの物語の導入を聞きながら、その世界観に没入し、チームで力を合わせてクエストをクリアしていく。初心者の私たちのパーティは、自分たちが動かすキャラクターの能力値が入ったカードを眺めながら、ダイスを振って恐る恐る冒険に出た。なぜかその日は、ここぞのときにゾロ目を振り込み、何もかもを台無しにしていく、逆運のパーティだった。隠密行動にギリギリ成功しても、全く剣が当たらないなどがありながら、なんとか護衛の任務を終える。

その途中でGMは「なんとか剣が当たりました。ギリギリ。みんなはホッと胸をなでおろしています」など、倒したときのダメージ数値や手数などで、ギリギリだったのか?余裕だったのか、決め手になった技や魔法はあるのか?などを情景描写してくれた。ちなみにキャラが美人か無口か、などの設定もサラッと取り入れつつの描写もあり、目の前でストーリーが出来上がっていく。今思うと、友野GMはライブで話を組み上げ、破綻のないストーリー展開をしてくれはるんやけど、自然すぎてその時は凄さが全くわからなかった。一緒に参加した落語好きのおはしちゃんに「なんか、あの人米朝師匠みたいやない?」というと「わかる…思ってました」と感動していた。

「この種族は獣の姿になると、強くなるけど変身しときますか?」など、キャラクターの特性に対してもアドバイスがある。獣変貌、リカントと呼ばれる尻尾のある人間型種族の特長だ。GMは「あらかじめ獣の姿になっておけば、急な戦闘も安心。普通ならジロジロと見られるような変化でも、今いてる場所はリカントのお祭り会場。同じ種族の集まりだから平気。むしろ、奇異な目が無いし、彼らの話すリカント語も通じるし、このキャラは友達や家族に会えるから楽しそうやねー」など、とにかく解説が細かくて、目の前に草原やモンスターが見えるようだった。

インタビューで印象的だった言葉がある。友野さんはプレイヤーとしてTRPGを楽しむ前に、その概念が日本に輸入されたときから、楽しさを伝えるGMとしてTRPGをいろんな人に紹介されている。「僕はTRPGとは何か?と説明をするところから(TRPGと)付き合っていますから、まぁ最初からGMなんですよね」と笑ってらっしゃった。その場で話を組み立て、時には見ず知らずの人の中でゲームを進行するなんて、正直、絶対むつかしいし大変なのでは?と聞くと、うーんと首をかしげて「僕の手のひらで人が悩んだり戦ったりしているのって、楽しいんですよね」と不敵な笑み。

そう言えば、普段の生活において自分の作ったストーリーの中で「楽しさ」を演出できることって、まずない。ストーリーに合わせて、GMが空を飛んで助けにいきましょう!と言えば、翼もはえる。ユニコーンの背中に乗って怪物を追いかけることも、またその怪物と友達になることだってできるかもしれない。「楽しみの真ん中に自分がいるっていうのが、GMの面白いところなんですよ」。真っ白な紙の上に新しい世界を生み出すのが小説家だとしたら、GMはあらかじめ決まった理(ことわり)の中で物語を組み立てる、吟遊詩人や落語家、活弁士のようなものなんだなぁと感じた。

コミュニケーションを遊ぶ

「面白かったねぇ…いや、ほんとなんでゾロ目ばっかり出るんでしょうね」

その日に初めて会った、大人同志が笑いあいながら「それではまた」とゲームを楽しんでいた場所を後にする。他では味わえない、何とも言えないTRPGの一体感。友野さんがGMのだいご味の一つとして教えてくれたのは、楽しみの真ん中に自分がいること。笑ったり、悩んだり。大人が無邪気にダイスを振って楽しむ姿は、なんとも平和で、その世界が提供できるなら本当に素敵なスキルだと思う。

楽しんでいるのは戦闘だけど、ゲームだもの失敗してもいい。現実の世界は関係ない。「ダイスの出目がいい時に、やったね!と人から賞賛されたりするのもTRPGのいいところですよ」シンプルな称賛って、大きな幸せだ。それに普段なら、失敗が許されない緊張感のある仕事をしていても、ゲームですから!サラマンダーに丸焦げにされようが、ドラゴンにさらわれようが別にいい。むしろ楽しい!そして利害の無いシチュエーションで決断と選択を繰り返すのも心地いい。「日本人が苦手な、決断や選択もゲームの中なら気楽にできますよね」。その出した答えを面白く展開させるのもまた、GMの手腕だったりする。


共通の話題で話も弾む
そういえば…TRPGは会話をしないと、とにかく前に進まない、コミュニケーションのゲームともいえる。「普段シャイな人でも会話がゲームの一貫であれば、わりと話せるもんですよ」。ゲームによっては、小学生くらいから楽しめるものもあるらしい。聞けばコミュニケーションの訓練などにも使われているそう。たしかに良さそう!共通の目的と話題があるほうが話は弾むし。「なんて言えば良いか?決断はこれでいいかな?と迷っている人に、助け船を出すのがGMの役割ですよー」すげぇ。GMが務められるゲームは40~50個だそうで、コミュニケーション能力のパラメーター振り切ってるなーと感じた。すげぇー。「ストーリーを楽しむよりも、戦いのリアルさをストイックに求めるチームもありますけど、それはそれで楽しいですよね。集まった人の好みに合わせて、同じゲームでも遊び方を変えることができますよ」GMまじ、かっこぇえ。

エモかろう、エモかろう
友野さんはアナログゲーム作家として活躍されている。最新作はマーダーミステリー『ダークユールに贖(あがな)いを』。非常事態宣言も解除され、少しずつマダミスを楽しむ人たちも戻ってきた。マダミスのサロン、梅田のフーダニットも再開されたので遊びに行きたいなぁと思っている。マダミスは一つのシナリオの中で複数人が役割を演じ、謎を解く、体験型ミステリーゲームだ。ミステリーだから犯人を当てるのが目的。だから、犯人が分かってしまうと、もう同じストーリーを遊ぶことができない。つまり「人生で1回しか遊ぶことができない」どんな面白い話でも、1回こっきり。…エモがすぎる…。エモが…と初めて遊んだ時、あまりの衝撃に、むせび泣きながら熱燗を飲んだ。あんなに楽しい経験が、2度無いという儚さ。友野さんに「エモがすぎて、マダミスは辛い」というようなことをいうたら「エモかろう、エモかろう。と思いながら書いておるよとでも言っておきましょう」わはははは!と高らかに笑ってらっしゃった。

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最新作の『ダークユールに贖いを』は吸血鬼が出てくるお話だ。難易度が少し高めに設定されているが、吸血鬼の特性を考えながらプレイする少し特殊なシチュエーションだからだそう。あぁ…面白そう…。ここでストーリーを書いてしまうと、人生にたった1回の楽しみを奪ってしまうことになる。だからSNSで広めることも、HPで魅力を伝えることもできない。ぁあ、そのあたりもすごくエモい。

「だから、設定や世界観が魅力ある題材を選んで書いているんですよね」。たしかに。吸血鬼でマダミスなんて、やってみたすぎる…。


マダミスの新たな可能性
最近、コロナ禍で人と会うのがむつかしいときもある。そんな時流に合わせて、オンラインで楽しめるマーダーミステリーが近いうちにリリースされる。テストプレイに参加してきたが、これがめっちゃおもしろかった。表情の読み合いや細かい駆け引きよりも、物語に没頭してヒントを見つけ、参加者とディスカッションすることで犯人に近づける。直接会って楽しむゲームとはまた違う駆け引きが楽しい。推理の肝になるのが、あそことあそこと、あのキャラの…と説明することができず、もどかしい…。テスト後の本番ストーリーがどうなっているか、掲載される雑誌の発売をわくわくして待っている。


何にも変えられない宝物
今、このブログを書きながらキャラクターシートなるものを作成している。『ガープス ミステリアス・キャッツ』という猫になりきって楽しむTRPGで、本当にいろんな話があるんだわ…TRPGすげえ。とニャイチンゲールの私はCPの割り振りに頭を悩ませている。そういえば友野さんがインタビューの最後に「最近、友達の家に遊びに行ったらその息子が『ゲーム作ったからテストプレイしてよ』っていうんですよね。そのゲームがそこそこ良くできていて」と楽しそうに教えてくれた。

スマホでガチャを回すのも、リングフィットアドベンチャーも楽しい。だけど、アナログゲームは、紙と鉛筆さえあれば小学生でも作れる。そして、それを楽しむエンジンは想像力だ。一緒に友達と遊びたい!そんな少年の思い付きが一つの世界を作り、その理(ことわり)に飛び込んで冒険者は、ダイスを振って旅に出る。その旅が楽しければ、また友達を誘って遊びたくなる。そうやって、想像力をコストとして、知らない人や旧知の友達と、次々に異世界に出掛ける。

お酒もごちそうも、ブランド物も大きな家も宝石も。何にも代えられないもう一つの世界を持つ。おそらくそれがアナログゲームの良さなのかなと今は思う。想像力って無限で無料で、最高の宝物だなぁって。

ニャイチンゲール…しかしこんな突っ込み待ちのキャラだれが作ったんやろか…。作者の名前を見ると友野詳と柘植めぐみとある。

おお、神よ、GMよ…そしてその友よ…真面目にシート考えてるけどこれ、ニャンフーとかなにそれ笑。隅々まで設定テキストを読んで、ひとしきり笑って計算を始めた。

気が付けば初心者は一つコマを進めて、キャラクターシートを作成し、ルルブを購入して、アナログゲーマーとしてダイスを振る様になっている。

ダイスを振って異世界へ


しかし、GM…ニャクロマンサーは無理がある!


おしまい。

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▼お話を聞いた人

私:TRPGは聞いたことあるけど、やったことが無かった。気のいい後輩①に誘われて「何それ面白そう」と初参加。少し不思議系の世界観すき。ミステリもそれなりに好き。40歳を過ぎて『フォーチュンクエスト』の続きが読める世界線に感激中。好きなウイスキーはアベラワー。

紫ちゃん:気のいい後輩①グループSNEのHPにもデザイナとして掲出されているが、泥酔仲間という認識。交友関係が広くコミュニケーション能力のパラメーターに全振り系。テーブルゲームのカフェにて4時間ぶっ通しで説明しながら様々なゲームで遊ばせてくれて、そのあと一緒にフーダニットに連れて行ってくれた気のいい奴。好きなウイスキーはアードベック。

おはしちゃん:気のいい後輩②。原稿が上手。お酒は弱いがバーが好き。ファンタジーの世界は今まであんまり親しみが無かった。好きな男性は伊集院光とグレアム・コクソン。TBSラジオリスナー。BBQの火おこしが上手。

▼お話を聞かれる人

友野詳さん:ゲームも作るし、本も書く。TRPG界の米朝系GM。流れるような物語運び、そこそこのメタ設定や謎セリフもご本人の作家性で本筋にスッと戻してくれる。近著のマーダーミステリー『ダークユールに贖いを』が死ぬほどエモい。

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★感謝!
紫ちゃん
いつも楽しいお誘いありがとー!またゲームしよ。
おはしちゃん
インタビュースッキリまとめてくれてありがとー!おかげで好き放題書けて楽しかった!!

★とても感謝!!
友野さん
おかげさまで、楽しい趣味が一つ増えました。ダークユール、プレイしまーす。また遊んでください!


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