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世界いち、オイシイもの

私達姉妹が世界でいちばん美味しいと思っていたものがある。3歳の妹と6歳の私は、それを「かたくりこ」と呼んでいた。なんてことない片栗粉をお湯で溶いて砂糖を溶かしただけの「かたくりこ」は、得も言われぬ味がした。

ガラガラと音のする引き戸を開けて「ただいまあ」と駆け込んで行くと、両手を広げた世田谷のおばあちゃんが「お帰りー」と迎えてくれ「何が食べたい?」と聞かれる度に、私達は「かたくりこ!」とねだった。「あいよー」と言って作ってくれた、おばあちゃんの白い割烹着の手触りとニオイ。あの味。

あれから半世紀以上経って、それなりに美味しいと言われるものを食べてきた筈なのに、あれほど美味しいものを、私はまだ食べたことがない。もう2度と食べられないあの味は世界いち、だと思っている。これまでも、そしてこれからも。

お腹を満たすものが心も満たした時、それはご馳走になる。グルメ時代と言われようと、飽食の時代と言われようと、記憶という人肌に刻まれた味は無敵なのだ。「かたくりこ」を思い出す時、あの台所に私はいる。

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