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小田急線無差別刺傷事件~彼に恋人がいれば万事解決なのか?~

8月6日夜に小田急線で起きた事件は、多くの人が耳にしていると思う。

上記のリンクの報道によれば、容疑者の男性は「6年ほど前から幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」と語っているらしい。さらに「男にチヤホヤされてそうな女性を殺してやりたい」「(重傷の女子学生が)勝ち組の典型にみえた」とも供述しているそうだ。

この男性のターゲットの選び方は、米国の「インセル」のターゲットの選び方と似通っている。

インセルとは「望んでいるにもかかわらず、恋愛やセックスのパートナーを持つことができず、自身に性的な経験がない原因は対象である相手の側にあると考えるインターネット上のサブカル系コミュニティのメンバー」のことだ(wikipediaより)。平たく言えば、「自分に恋愛経験がないのは異性のせいだ!」と考えている恋愛経験ゼロの人、となるだろう。

現代ビジネスの記事によれば、インセルの憎悪や攻撃の対象は「チャドとステイシー」だそうだ。「チャドとステイシー」は隠語で、「付き合う相手に不自由しない、モテるイケメンや美女」を意味するらしい。

小田急線の事件の容疑者の「男にチヤホヤされてそうな女性を殺してやりたい」という供述から察するに、この事件はインセルのいう「ステイシー」を狙った犯罪だ。

この事件をめぐりTwitterではさまざまなツイートが飛びかっているが、そのなかで「男にとって女がいるかいないかは大きな問題で、彼に女がいればこの事件は防げたはずだ」という旨のツイートを見かけた。

確かに、彼(容疑者)に恋人がいればこの事件自体は起こらなかったかもしれない。しかし、それだけで問題は解決といえるだろうか?たとえば、事件の1週間前に彼の前に素敵な女性が現れ、彼に「好きです付き合ってください!」と言ったとして?

冒頭で貼った記事によれば、彼は事件のあった日の昼間に万引きをしており、女性店員に万引きを注意されたらしい。そして、その後の取り調べで『店員を殺してやりたいと思い店に戻ろうとした』と供述しているという。

万引きを注意してきた女性店員に殺意を抱いたこと、また小田急線での事件の動機から、彼には過激な他責傾向が窺える。さらにいえば、恐らく彼の他責の対象は主に女性だ。万引きのとき、彼は110番通報をされ警察からも厳重注意を受けているが、もし彼の他責が対象の属性を選ばないのであれば、彼は女性店員だけでなく、厳重注意してきた警官にも殺意を抱いたはずだ。

この男性に女性の恋人ができたとして、カップルともに幸せな毎日を期待できるだろうか。万引きを注意してきた女性店員に殺意を抱いた彼は、恋人にも、その他責思考で殺意を向けるのではないか?恋人が彼を厳しく注意したり、彼の意向に沿わない言動をしたりしたら、彼は恋人を殺してしまうのではないか?殺すとまではいかないまでも、執拗に恋人を責め立てたり暴力を振るったりして、恋人を苦しめるのではないか?

「彼に女がいたら事件は起こらなかったのに」というのは、「女性の誰かが彼の他責思考の犠牲になっていれば、事件は起こらなかったのに」と主張するのとほぼ同じことではないか。それがこの問題の解決方法だとは思えない。彼のターゲットにされ重傷を負った女子大生を、かたちを変えて他の女性にすり替えているだけだ。

問題なのは、現代社会の、引いては我々の何が「女性を対象とする他責思考」を生み出しているのか、のはずだ。

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