しばたん

Feelcycleに関するあれこれ、競馬、読書メモなどについて書いていければと思います…

しばたん

Feelcycleに関するあれこれ、競馬、読書メモなどについて書いていければと思います。「最近の」日本の小説を100冊読もうプロジェクト「最日小」実施中。

最近の記事

読書メモ『木になった亜沙』最日小#29

過去に2回取り上げた作者の短編集。 文字通り「木になってしまう」ストーリーとしてはかなりぶっ飛んだ幻想小説になっていて、正直感想をまとめるのが難しかった。 印象に残ったのは、主人公の則っている独自の論理と、それを外から眺める世間(?)の視点が双方描かれていること。たまに町中によく分からない言葉をずっと叫んでる人とかいるけど、彼ら彼女らの中にも独自の論理があるのかもな、などと思った。 でもやっぱりぶっ飛びすぎなので、もう少しこちらに寄ってきてほしいなと思いました。

    • 読書メモ『成瀬は天下を取りに行く』最日小#28

      ちょっと変わってるけど芯のある女子高生を主人公にしたコミカル系痛快青春小説。大人になった今、「なんであんなに周りを気にして生きてきたんだろう」などと思うことがけっこうある。そんな、若かりし頃への後悔というか憧憬というかの裏返しを束ねて作ったような主人公。 とか書いてしまうとありきたりなのだが、それをいかに魅力的に描いていけるかというところが大事であり、この作品はそれに成功していると思う。娯楽小説としてとてもよい。きっとドラマ化アニメ化されていくのだろう。そのイメージが付く前

      • 読書メモ『水車小屋のネネ』最日小#27

        『浮遊霊ブラジル』、『この世にたやすい仕事はない』に続き3冊目の登場の津村さん。気に入っているんだと思う。 しゃべる鳥のネネを中心とし、あるコミュニティーの人と人のつながりを50年に渡って描くハートフル系群像劇。 気づけば各章の終盤でウルウルしてしまう感じでよくできているし、この世界にずっと浸っていたいと思わせてくれるような心地いい小説。 ネネがとてもかわいくていじらしくてほっこりする。変に人にこびないところもいいんだけど、上記の心地よさはどこから来るのか。 おそらく『

        • 読書メモ『こちらあみ子』最日小#26

          前回『むらさき色のスカートの女』で、この作家さんに妙に興味が出てきたので連続して読んでみました。 やはりオリジナリティがすごいと思う。誰にも似ていない物語が書ける人。 『あみ子』も、一見不幸話系かと思ったらそうでもないし、強い主人公系…というわけでもない。乾いているようでどこかにエモさもある。なので感想がきれいにまとまらない。というのが感想になってしまう。 分析しようと思って読む物語ではないだろうし、かといってこの世界にずっと浸っていたいかというとそうでもない笑 でもなん

        読書メモ『木になった亜沙』最日小#29

          読書メモ『むらさきのスカートの女』最日小#25

          これはなかなかオリジナリティのある作品。さすがに25冊も「最近の日本の小説」を読んでレビューしていると、その着想元だったりテクニックの元が分かるようになってくる。意識の流れだったりマジックリアリズムだったり。 だけどこの本はそれらのどれにも似ていない。喜怒哀楽のどれを持って読めばよいのか最後までよく分からない。だけど語り口調が面白いし、展開もあるのでジワジワ引き付けられて最後まで読み進んでしまう。 最初は低所得者層の暮らしを少しユーモアを混ぜて描く系なのかな、とも思ったけ

          読書メモ『むらさきのスカートの女』最日小#25

          読書メモ『ザ・ロード』

          先日お亡くなりになったコーマック・マッカーシーの本を読んでみた。 これは翻訳のおかげもあると思うけど、文体が結構好き。ハードボイルドで読後感がエモい感じ。 所謂ポストアポカリプスもので、極限状態で人間がどう生きていくかというのが主題のひとつになるはずだけど、上に書いた通り描写が淡々としているので、そういった状況で現れる人間の醜さというか野生の部分ですらも全て灰色の寂寥感の中に沈み込んでいく印象。 そんな中で、いかに人間の善意を保てるのか、というのがじわじわと突き詰められて

          読書メモ『ザ・ロード』

          読書メモ『背高泡立草』最日小#24

          これはけっこう好きでした!(雑感想) 「全てのものに歴史がある」 「歴史を知ると普通のなんでもないことでも深みが出て見える」 といったテーゼを、九州の島を舞台に、重くなくグッドバランスで表現してくれた感じ。 現代を舞台にとある島にある古い納屋の周りをする草刈りの様子と、その島の過去の群像を交互に見せることによって、なぜだか他愛のない草刈りをする家族の会話がとてもかけがえのないものに感じられてくる。 九州の方言の会話もリズムよく楽しめた。 これはもう一度ちゃんと精読で

          読書メモ『背高泡立草』最日小#24

          読書メモ『破局』最日小#23

          じわ~っと違和感を抱えながら読み進めていって、それがラストでボン!と爆発するタイプの小説。 主人公の意識の流れ系独白形式なんだけど、主人公はおそらく慶應のアメフトマンで就職試験も順調にこなしていくタイプの順風満帆太郎。スポーツマンらしく自分なりのルールや考え方をしっかり持っていて、それに乗っ取って自分なりの正義に基づいて生きている。 なんだけど、少しずつそのマイルールが社会不適合っぽくずれていって最終的に「破局」が訪れるという話。それは主人公に限った話ではなく、他の人たち

          読書メモ『破局』最日小#23

          読書メモ『1R1分34秒』最日小#22

          そんなに強くないボクサーのリアルをひたすら描いていく意識の流れ系青春小説。 今のボクサーはチートデイとか作るんだなーとか、こんな身体の特徴に合わせた戦法やトレーニング方法など、テクニカルな部分がけっこうおもしろかった。 …短い

          読書メモ『1R1分34秒』最日小#22

          読書メモ『海辺のカフカ』

          20年ぶりに村上春樹の長編を手に取ってみました。会社で仲良くなった人が好きだからという理由で。たまにはこういうきっかけで読書するのもいいかなと。 呼んでいて最初に思ったのが「思った以上に古いテーマ(『戦後』)だな」といこと。古いからいい悪いというわけではなく。最近読んでた小説ではこういった要素がないので思わず反応してしまったということです。 テーマの個人的な理解は、以下のような感じです。 ・大テーマ:運命と主体(構造と実存) ・中テーマ:戦争(無意識的な暴力への加担)と責

          読書メモ『海辺のカフカ』

          読書メモ『この世の喜びよ』最日小#21

          この企画を始めて9か月ですが、最大のヒット作品に出合えました。途中から涙が止まらなくなってしまいました(夜中に酒飲みながら読んでたせいで変なスイッチ入ってしまった説もありますが)。 人が生きていくうえで、どう過去と向き合っていくのかというのはとても大事なことだが、そのリアルを淡々と、そして優しく、そしてテクニカルに描いた小説だと思う。 特徴的なのは二人称視点であること、そして意識の流れ的手法で、主人公の意識や想起が絶え間なく続いていく。想起される思い出はなんというか、一見

          読書メモ『この世の喜びよ』最日小#21

          読書メモ『首里の馬』最日小#20

          なかなかぶっ飛んだ小説だった。序盤は主人公の地味だがちょっと変わった生活を淡々と描写していく流れ。個人的にそういった謎生活の詳細描写、っみたいなのが好きなので楽しく読んでいた。そこから、あーこれはこのちょっと変わったところが展開していく謎解き系かな?と想像していたら違った。 急に登場する馬、資料館の資料整理、謎のクイズ読み仕事、これらが「知識」というざっくりした概念のみでうっすら繋がりつつ、かといってちゃんと繋がることなく独立したまま終わる。どう読めばいいんだろうと混乱さえ

          読書メモ『首里の馬』最日小#20

          読書メモ『月の満ち欠け』最日小#19

          映画化で話題の一冊。勝手ながら甘い恋愛ものを予想していたんですが、予想と違いました。 特に序盤は読んでてめちゃくちゃ怖くて、半ばホラー小説だと思って読みました。 ある日急に我が子が大人の目つき口ぶりになって、知らないはずのことをしゃべり始めたらめちゃくちゃ怖くないですか? そのインパクトが強すぎて、最後まで引きずってしまいました。 月の満ち欠けのように生まれ変わりを繰り返す…とのこと。そこで「ははーん。これは太古から生まれ変わりを繰り返しているカップルものだな!?」と思っ

          読書メモ『月の満ち欠け』最日小#19

          読書メモ『異類婚姻譚』最日小#18

          「夫婦はお互いの存在を食べ合い、取り込み合っている。そのためどんどん似てくる」という感じの夫婦観・人間関係観に基づき、リアルに顔がびよーんと変わるという設定のもと描かれる夫婦の生活。ラストでけっこうぶっ飛び展開。 自分も「夫婦で全く同じ顔(表情)をしている」とよく笑われることがあるので他人事ではないが、自分の場合「お互い食べ合っている」という感じよりは「お互い合わせにいく」という方が強いのでまあこの辺は夫婦観ひとそれぞれだよなーという平凡な感想に落ち着いてしまった。 似て

          読書メモ『異類婚姻譚』最日小#18

          読書メモ『おいしいごはんが食べられますように』最日小#17

          昔読んだマイケル・サンデルの正義論を思い出した。 たしか正義の拠り所として大きく3つを上げていた。ひとつは「幸福」、もうひとつは「自由」、最後の一つが「美徳」だったはず。 このうち「美徳」は共同体に支えられているものなので、共通のこれ!という基準みたいなものがない。その「美徳」がどう作られてどう維持されるかの議論は忘れてしまった。 この小説の中の「おいしいごはん」というのもまさに共同体に支えられている美徳のひとつで、自分もすっと受け入れてしまう側の人間だけど、よく考えたら

          読書メモ『おいしいごはんが食べられますように』最日小#17

          読書メモ『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』最日小#16

          Amazonからおすすめされた「Twitter文学」なるものに手を出してみた。 学歴や職業に対するマウント、そして東京への憧れからの諦め、などをひたすら投げ込んでくる短編集。 東北で30年近く暮らしてから東京に出てきた身なので、東京の学歴・職歴クラスタの凄さを感じていたところ。なかなかインパクトのある本だった。 最初のうちは「こんな世界もあるんだなー!」と面白く読んでいたんだけど、だんだん読んでるのが辛くなってきてなんとか読了しました。Twitterで単発で読んだら超面白

          読書メモ『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』最日小#16