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人生のコストパフォーマンスなんて知らない

「人生のコスパが悪い」

美術の研究、制作、仕事をしていて、人にこう言われることがある。

わたしの専門はファインアート、純粋芸術とよばれる類のものなので、

一層言われる・思われるのだろう。

幸い、両親は美術に対して、また美術でやっていく、続けていくことに対して、否定的ではなかったので、

わたしはあまり人生のコストパフォーマンスについて考えたことがなかった。


好きなことだけで食べていけるわけがない、

ほんの一握りの人しかできないこと、

儲からない、

そんなことはもはや耳タコなので、いまさらどうしようとも思わないけれど、

そんなことないよ、全然いける、とも言えない。

実際私自身はビジネスには疎いので、

作品がバンバン売れているわけでもないし、

著書を出して売れた、なんてこともない。

やっていけるか、続けていけるかめちゃくちゃ不安だ。

でも、それがなんだというのだろう。

わたしは美術を続けていきたい、

制作や研究(思考)を通して、自分の存在を探し続けたい(前回記事参照)

そのためにやっているのだから、

単純な金銭のコストパフォーマンスは目的ではない。

そりゃ続けていくためにはお金が必要だ。

(疫病によって飲食店が多く閉店している。続けるということがどれほど難しく尊いことか)

あくまで続けるためなんだよね。

生きていけて、つくりたいものがつくれる、思考が続けられる、

それができれば他には何もいらない、

とまでは言わないけど。

だから「人生のコスパが悪い」なんて言われた日には

びっくりしてしまったし、

そんな考え方を貧しいと思った。

コスパが良くても貧しいことはある。

というか貧しいからコストパフォーマンスなんて言い出すのだ。

低コストで高いパフォーマンスを。

ふざけんな!


少し話は逸れるけど、わたしは百円ショップはいずれ無くなるべきと考えている。

人類のために。

わたし自身は百円ショップが無くなったら死んじゃうんですけど。

なんでも粗悪でいいから安く手に入らないかな、

というのは、代用品、劣化版、ニセモノを受け入れるということ。

(めちゃくちゃ言い方わるいけど。。)

本物なんて手にしたことないまま、代わりのものでやっていく。

そうしてクオリティを上げるんだけど、

これをやってたら、そのうちなにが本物だったのか、オリジナルだったのか、これは何の代わりだったんだっけ・・・となってきてしまって、

文化、文明、そして人は滅びる、

というとこまでイメージしてゾッとしました。

百円ショップを悪く言ってごめんなさい。

でもほんとうは、代わりのものを作らなくてもいいほうが、オリジナルの価値を受け入れていけるほうがいいと思うんです。

そもそも私自身、本物なんてほとんど知らないんだと思う。

このなにもかもが代用品として大体手に入れられる世界で、時代で、生きてきたので、

数を揃えるには、コストパフォーマンスが大事なんだと

おっしゃることはよくわかります。

そういうことでしょう。

そういうことなんですよ。

あの時言い返せませんでしたけど。

たとえ何かの代用品、本物じゃなくても、数を揃えたもん勝ちなんですか。


だんだん「怒り」になってきてしまって良くない。

豊かになりたいだけなのに。

豊かになりたいし、豊かになってほしいし、豊かさが続いてほしい。

金銭が豊富な豊かさに限らない、

心や意識の豊かさがあってほしい。

わたしは作品に豊かさを孕んでいてほしいし、

もうなんか溢れ出ていてもいいです。

美術作品って、ものにもよるんですけど、

永遠性があるんですよ。

時を越えていく強さが、存在感や尊さがあるんですよ。

物質としては木枠に麻布を張っただけの板でも、

そこに描かれたイメージは

物質的な存在とは違う次元(三次元だ二次元だとかじゃないですよ)に

強く強く存在している。

彫刻はもうここに、存在しちゃってますからね。

空間刻んじゃってるわけだから。

その緊張感たるや。

その強い存在感、時を越えていける雄大さ、

どんな儚いものだってそうです。

そんな力をもつ作品が、そこにあるという事実。

もうそれだけでめちゃくちゃ豊かじゃないですか?

わたしは作品をつくるし、作品を買ったりもらったりもします。

何千万円じゃなくたって、好きな作品が家にある、

この手にあって、好きな時に見ること触れることができて、

そんな自分もめちゃくちゃ豊かな人間だと思う。

作品を持っているだけじゃなくて、

それを壁に掛けたり、ベストポジションに置くこと、

その作品の見方、この家の中での在り方を考えてあげる、

その時間もめちゃくちゃ豊か。

もうどんどん豊かになっていく。

好きなアクセサリーを好きな服と合わせて身につけることも、

好きな本を本棚に並べることも、

好きなパン屋さんのおいしいパンにあわせてコーヒーを淹れてみたり、

だんだん嘘くさくなってきたぞ…

丁寧な暮らし、が絶対にいいというわけじゃないけど

大切なものを大切にすることとか、

深く考えることとか、

美しいとか面白いとか思うこととか、

豊かさってそういうことなんじゃないの、

って思う。


だから、これからもわたしは

百円ショップにも行くし、

丁寧に暮らせなくてギリギリのどん底をやったりしつつ、

それでも

遠回りな制作と研究を遅々と進め、

人生のコスパ選手権ワースト一位になってやろうじゃん

みたいな気概で

大事にしたいものを大事にし続けたい。

そして、全員、ここでいう、豊かさを、意識してくれ。

サポートしてくださると、研究、制作、生活の肥やしとなります。うれしくなります。