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瑞穂

 九月某日
 所用で所沢まで行く。この日は所沢駅北の街道沿いのとある場所まで。駅から徒歩5~6分の生活圏と商業圏が混在する賑やかなところだ。古い店がタワーマンションにどんどん追いやられ再開発が著しく、その北側の川向こうもかつての面影がだいぶ減ってきている。ただ寺社仏閣の佇まいがきちんとしているので、ああ、彼処の昔の遊郭みたいな建築も既に取り壊されたか、との確認は割と容易い。さて、用事は速やかに終わり、遅めの昼食を摂るとしよう。街道沿いの市営駐車場は格安で時間には余裕がある。駅前商店街迄は行かずに、街道交通の要所の交差点すぐ近くの細い路地を数歩北に入った町中華の「栄華」。一年ぶりくらいの来店と記憶するが、変わらない佇まいにホッとする。ラーメン400円。ちょうど入店時は娘さん(推定)とのシフト交代で親父さんが厨房に入った。こちらも変わらず元気だった。

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 九月某日
 午前中から家で録音。そのプロジェクトの演奏ということでは最後の録音となる。と言うか、ちょっとした修正だが、マイクセッティングに手間取る。結局マイク替えで落ち着き、録音終了。そして急いで最寄りの昼休憩前ギリギリの町中華「宝来屋」へ。月2回程は行く店で、それがもう5~6年か。いつ来ても此処の香りはそこはかとなく食欲に落ち着きと刺激を与えてくれて、とにかく注文のものが目の前に置かれることがいつでも普通に嬉しく、この湯気と香りでかなり幸せになる。割と最近だったか、隣のテーブルで小学生の兄弟らしき男の子が二人だけで各々ラーメンを食べていた。弟が「ラーメン美味しいね」兄が「うん、美味しい」。こんな会話がなされる中華屋なのだ。それだけでこの店は信頼に値する。店主ご夫婦は高齢ではなく、店内はいつも清潔で町中華独特の油感が少ない。そしてこの価格。ラーメン350円。それから此処の白湯塩餡かけのもやしそばは絶品で餡に閉じ込められた麺の香りがたまらない。餃子は野菜が多めの優しさ。ただ残念ながら酒はビールしかない。
 この日の注文は私がラーメンで妻がもやしそば。そして私はそのもやしそばから餡を少しいただき、ラーメンにのせるのだ。これがまた美味だがメニューにはない時折の贅沢の一つだ。

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 さて、その後は小さめのエフェクターボード作成のために、瑞穂町のジョイフル本田に向かう。ここ数年ライヴでは全くエフェクターは使っていなかったが、8月のロンサム・ストリングスのステージからボードを新調した。修理不能と言われたBOSSの初期DM-2(アナログディレイ)が治ったのがきっかけで、ロータリースピーカーシュミレーター、オイル缶ディレイシュミレーター、ドライブトレモロ等いくつか新しいものも試している最中ではある。しかしそうなると目方もそれなりにあり電車移動はかなり厳しく、手軽なもう少しコンパクトでオーソドックスなボードも構築しようと計画中で、その為に軽めで丈夫な木材を物色しに行った次第なのだ。ジョイフルの店員はとても丁寧に対応してくれ同じ大きさのパイン材とシナ合板の重さを測ってくれ、若干軽いシナ合板に決定した。そして合板の厚みを調べて、家路に着く。板の厚みが正確ではないと設計図は書けないし、端切れのパイン材も余っているので、その活用も考えることにする。

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 九月某日
 家ではほぼ毎日酒を飲んでいるのだが、さほどの量ではないのに酔いが回るようになった。酒に弱くなった、ということなのだろうが、翌朝に明らかに少し残っていると感じることが以前よりは増えてきたのだ。昨晩はビール500ml一缶に麦焼酎のお茶割り二杯だけだったにも関わらず、この有様。そして汁気を妙に欲している。あの普通の中華スープを求めているのだ。よし今日は一山超えて下山口の「柳屋」へ。かつての此処のラーメンは一番の好みだった。過去形なのは店主の親父さんが亡くなってしまい閉店したからだった。鈴木常吉さんもよく行っていたようで、下山口近辺の飲み屋で柳屋の親父と出くわしたこともあったらしい。「あの親父いつも一人で飲んでて、怖えんだよ」とか「柳屋の息子は厨房に立たせてくれねえんだよなぁ」とかよく言っていたな。今頃常さんもあの強面の親父に会っているかもしれないが、お二人に朗報だ。息子が継いだのだ。ただ復活の最初の頃はあの親父さんの味には及ばず、こちらも少し足が遠のいていた。だが、先月久しぶりに寄ってみたら、驚きの大復活。親父のあの味、いやスープの優しい酸味は親父以上に私好みになっていた。そして此処は麺がまた旨いのだ。ちょっと柔らかめに茹でるのだが、のびずにつるつるといける。ラーメン570円。

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 小型エフェクターボード用のエフェクター選定もほぼ決定し、トレモロ、アナログディレイ、リバーブは交換の余地も残し、ボードのサイズを決定した。チューナーを入れて5~6台を直列にする。問題はパワーサプライ。かねてから使っていたF-Sugar製は大きすぎ、もう一つ最近のアイソレートされたものも持っているのだが、これはアダプターが大きく重い。結局モバイルバッテリー駆動の小さくて軽いものを新調した。乾電池よりも軽く、電源ノイズの心配も無い。バッテリーは予備で一つ持ち歩けば、なんら問題もないだろう。さてとパワーサプライとバッテリーをボード裏側にセットすべく、設計図に手を加える。ただし今回のDC5V動作のパワーサプライはアイソレートされていないので、デジタル系のエフェクターのあのノイズが発生の危惧は拭えず。さてどうなるか。


 九月某日

 今日もジョイフル本田へ。4mmと9mm厚のシナ合板2枚購入。900円程。金具類は追って考えるが、ほぼこの金額と木材カット料で今回のエフェクターボードが出来る。カットは正確を期して設計図を持って工作室へ。購入したものしかカットしてくれないので、パインの端切れは自分でやることするが、いずれにせよここの工作室は斜めカットはやってくれないのだ。帰宅し、まずパイン材を斜めカット。慎重に進めるがなかなかに難しい。とりあえず誤差1mmちょっとで切れたのであとはヤスリで仕上げる。それで木材パーツは全て揃い、紙ヤスリがけに突入。かれこれ10年程前にレコード棚を作ったのだが、あの時はヤスリがけだけで二日はかかった。ただ今回は450mm×160mm×55mmほどの大きさなのでその作業は容易い。80から始めて120,200,400と重ねたが二時間もかからず、その後丁寧に木粉を拭き取り自然乾燥。休憩しつつ、裏面の仕組みも考えるが、工具箱に一つだけあったL字金具の穴がパワーサプライの裏蓋のネジ穴とぴったりでこの方法が使えることがわかった。そしてシナ合板の接着。表は4mmで裏に軽量化と頑丈さを兼ねて9mmを二列に接着する。二列の間は4mmだけだが、ここに電源供給のコードを通す穴を数カ所開けることにした。この日の作業はひとまず接着まで。


 九月某日
 またもジョイフル本田行き。目当ての金具はすぐに見つかる。しかも私が持っていたものより軽量でうってつけだった。新青梅街道は通らずに、青梅街道付近の裏道を駆使して家に戻る。組み立てを先にしても良かったのだが、このところの天気が安定しているらしいので、塗装を先にすることにした。塗装といってもオイルステインなので簡単だ。ギターアンプのバッフルボードを作り変えたときに使ったオイルステインが残っておりそれを流用する。そしてこの日から塗装に三日間費やす。
 エフェクターもひとまず単体でまた色々セッティングを試してみる。最近のエレクトロハーモニクスやT.Cはどうも派手で、かかっているかいないかの微妙なセッティングはあまり魅力はないが、家での録音には多少重宝するであろう予想の元、まだ所持しておこう。
 あとエフェクターの悩みはバイパス問題。バッファードかトゥルーか。そんなに試したわけでは無いが、優れたものはいずれにせよバイパスの音が良い。ただメーカーによってはバッファードバイパスの場合、バッファーアンプの音色はどうもストラトキャスターを基準に開発されているようなニュアンスを感じることもあり、これがテレキャスターやジャガーには似合わない。
 そんな中、音を変化させるエフェクターでは無いが、RADIALのTWIN CITYというスプリッターはとても優秀。デラックスリバーヴの2インプットを同時に使う時にとても良い。VIBRATOチャンネルは少しブライトだがリバーヴはこちらにしか使えず、音が太いNORMALチャンネルはシンプルな3コントロールでリバーヴ無し。これを難なくミックスできる優れもので、音の劣化はほとんど感じない。


 九月某日
 エフェクターボードのオイルステインがけは終了し、組み上げへ。まずはタイトボンドで、その後一日待って補強金具取り付けて完成間近。だが、しまった。裏側のバッテリー装着用の金具が手持ちではサイズが合わず、またしてもジョイフル本田。ただ今日はもう作業はないので、東大和市と武蔵村山市の境にある町中華「京八」に寄る。此処は老夫婦が仕切る店だが、厨房含め店内はとても行き届いて清潔で気持ち良い。妻がこの店のファンで、ジョイフル行くなら京八に寄りたい、とよくリクエストされる。この店を知ったのはそう昔ではなく、コロナ禍の少し前に偶然通りかかってその佇まいに惹かれたのだ。初めての来店はチャーハンを頼んだ。涙が出るほど美味かった。ただ、どこにでもあるような普通のチャーハンだ。またスープもちょうど良い塩梅。さてこの日はスープが堪能できるラーメン500円。この辺の中華屋にしては珍しくオムライスがあり、これもまた良い。

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 九月某日

 ふと使い道のないFenderのデカールがあったことを思い出した。通常のものよりサイズが小さく、テスト用のものらしい。折角なので前面に貼ってみることにするが、となるとクリアラッカーが必須だ。数日後のホープ&マッカラーズのライヴには確実に間に合わなくなる。が、やはりやってしまおうと計画変更。安価なクリアラッカーで良いので、近くのホームセンターで一缶350円程を購入。一日3回の吹き付けを三日間やって、ギターじゃないので乾燥は3~4日で良いか。その後研磨だから完成は月末だな。結局三週間ほどかかってしまうこととなった。


 九月某日
 そして完成。コロナ禍での二回目の日曜大工がまさかエフェクターボードになるとは思いも寄らなかったが、9月中旬のこの暇も有効に使えた。
 ところがやはり少しのデジタルノイズが発覚。Sonic Reserchのチューナーを使うと少しの発信音あり。チューナーを使う時はミュートされるので弾いている時は何ら問題ないのだが、釈然とせず。だが使っていないノイズフィルターがあったことを思い出した。軽量で大きさも問題ない。ただチューナーの電源に繋いでも効果がなく、他のデジタルものに使ってみると効果てきめんで一件落着。


 九月末日
 モバイルバッテリーフル充電でエフェクター5台を全てオンにして、現状では連続7時間駆動した。全く問題ないが、消耗品なので、いろいろ予備もあたってみる。すると通販サイトに5Vを12Vに変換するUSBアダプターがあるではないか。何だ、手持ちのより良いアイソレートのパワーサプライでも使えたのか、と気落ちするが、拡張性も考え良しとしよう。

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 現状は右から、
 Sonic Research Turbo Tuner ST-300 mini
 Crowther Audio Hot Cake
 XTS Custom Mod Midrange Graphic Equalizer
 Human Gear Moderato
 Catalinbread Adineko
 One Control Prussian Blue Reverb

 自分のアンプが使えないことを想定しているので、ひとまずこのラインアップに落ち着く。多分右3台はフィックス、左3台はトレモロ、オイル缶ディレイ、リバーヴ。ただ、このトレモロは音は抜群だがちょっと重くて大きいし、オイル缶はアナログディレイとどちらにするか悩みどころ。リバーヴはアンプに装着されていれば、殆ど使わない。
 そして、軽量化を意識したのが功を奏し、エフェクター全て込みで2.6kgとショルダーバッグで楽に運べる。

 ちなみに裏。

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 青いのはモバイルバッテリー、真ん中がOneControl DC Porterパワーサプライ、右がEx-Proのノイズフィルター。

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 実はかれこれ35~7年前に瑞穂町に住んでいたことがある。今のジョイフル本田の辺りは当時は横田基地とIHI瑞穂工場以外は殆ど畑でここを抜けてよく立川、国立方面に行ったものだったが、新青梅街道近くの横田基地滑走路周りの金網からの向こう側は何ら変わらなく見える。 いや、何度かオスプレイを見たか。ちなみにこの昔の事をミディレコードクラブ内の連載にも書いたことがある。

 さて、ようやく外で酒が飲めそうだが、台風の影響で大雨か。

桜井芳樹(さくらい よしき)
音楽家/ギタリスト、アレンジやプロデュース。ロンサム・ストリングス、ホープ&マッカラーズ主宰。他にいろいろ。
official website: http://skri.blog01.linkclub.jp/
twitter: https://twitter.com/sakuraiyoshiki

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