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俄雨

ある男の子が何度も何度もしつこく訊いた。

「本当にファンデーション塗っていないの?」

実はこんな確認をされる事はよくあって、
それは女性からも。

その度に「なぜ何度も確認するのだろう」とは思いつつも
ただ「塗っていないよ」と私も何度も答えるのだ。

だけどこの男の子はその後が少し違った。
誰もした事の無い質問をしたのだ。

「なんでメイクしないの?」

理由を問われるのは初めてだったから
私の答え方はまだ洗練されていなくて、多少攻撃的だったかもしれない。


・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・
愛と思いやりがあれば化粧なんて出来ないでしょう?

私に頬擦りしたいと思ってくれる男の頬をファンデーションで汚すの?
私に口づけしたいと願ってくれる男の唇をべったりと汚すの?
私を抱きしめてくれる男のシャツを口紅で染めるの?

自分の赤ちゃんに頬擦りする為に化粧をやめる女性は多いのに!!
自分を愛してくれる男の為にはやめないのだわ。

…やだ。熱くなっちゃったわね。
・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・


私は別に、メイク否定派ではなかった筈で、
依頼があればメイク指導も行うし、
上手にメイクしている女性を綺麗だと思う感性も持っている。

メイクは自己表現の手段でもあるから
私はきっとこれからも、私以外の人間に「化粧をやめろ」とは言わない。

なのにこんなに攻撃的になるなんて。
自分でも驚いた。

目の前の男の子もさぞ驚いているだろうと思ったけれど

「触っていい?」と、訊いただけ。

頷くと

彼は自分の鼻を私の鼻にこすりつけ
「これからもメイクしないで」と言った。

まぶたとこめかみに降り出した口づけの俄雨。

何故か滲んだ涙のフィルターが
知らず退色していた私の世界に虹を掛けた。

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