【MIDASキャピタル独自インタビュー】 上場企業ソーシャルゲームのプロデューサーの役割
はじめに
ミダスキャピタルは、世界に冠たる企業群を創りあげるというビジョンをもって設立された新しい形のプライベートエクイティファンドです。アミューズメント施設運営事業を行うGENDAなどに出資しています。
背景
プロダクトマネージャーや、プロデューサーの役割は各社によって異なります。基本的にはユーザー・開発・ビジネスのバランスを取る役割が求められますが、各業界毎にウェイトが異なるはずです。そこで、業界ごとの役割の違いを調査したいと思い、この記事執筆にたどり着きました。
今回はプロダクト開発・運営を指揮するプロデューサーというポジションに注目し、一部上場企業のゲームのプロデューサーのTさんにお話を伺いました。
プロデューサーの前はプランナーを担当
林(MIDASインターン生):はじめまして。本日はよろしくお願い致します。
Tさん:よろしくお願いします。
林:改めて、今どのようなお仕事をされているのでしょうか?
Tさん:IPタイトルのゲームのプロデューサーを担当した後に、新規事業などの責任者をしています。
林:なぜプロデューサーをやることになったのでしょうか?
Tさん:タイミング良くチャンスが巡ってきたからですかね。もともとゲームプランナーをやっていて、週次で切り替わるゲーム内イベントの責任者から、もっと大きな裁量を持てるポジションに就くことになりました。
私も大手IT系企業でPdMのインターンを経験したことがあるのですが、PdMという役職は、普通、新卒ではなく、ある程度開発経験やマネージャー経験を積んだ人が就くようです。
Tさんが思う"プロデューサー"について質問していきましょう。
チーム出力を最大化するマネジメント
林:プロデューサーの役割はなんでしょうか?
Tさん:プロデューサーは、ユーザーにとって一番良いプロダクトを作るための道筋を考える人です。良いプロダクトを作った結果、収支に繋がると考えています。
林:どんな人がプロデューサーとして成功しやすいでしょうか?
Tさん:プロダクトを誰よりも好きでいる人だと思います。プロダクトの理想像を描ける力が大切です。また、チームで出力最大化する方法を考えられるかもプロデューサーに向いているかいないかの判断基準になり得ます。
林:タスクをこなすことと、コミュニケションの時間のバランスはどうやってとっていますか?
Tさん:これはコミュニケーション重視ですね。迷わず自律的に動ける環境作りに時間をかけています。これが結果的にチームバランスに繋がり、より良いプロダクトが出来上がります。
課金があることで増すゲームの魅力
売り上げのことを考えると、直接的な影響が大きいのはゲーム内課金です。収益性とユーザーからの視点について、質問させていただきました。
林:ユーザーからの視点に立つと、無課金ゲームが一番嬉しいのではないでしょうか?それでも課金を導入し続ける理由はなんでしょう?
Tさん:ユーザーがお金と時間をかけてこそ上手くなっていくのがゲームの醍醐味だと思っています。ただ、もちろん、ユーザーについても会社についても誠実なところを目指すことが一番大事です。だと思っています。ただ、もちろん、ユーザーについても会社についても誠実なところを目指すことが一番大事です。
KPIを常に意識
林:売り上げを伸ばすために意識しているポイントは?
Tさん:自分が打とうとしている施策がどこのKPIに左右するかです。一方で、売り上げにこだわりすぎてもだめだと思います。これはKPI最適の弱点なのですが、例えば売上が100億円になったときにどういう状態か?を描けないとプロダクトが壊れていってしまいます。
ゲームのコンセプトの浸透は、繰り返しが大切
続いて、プロダクトの世界観について質問していこうと思います。
林:どうやって社内にコンセプトを浸透させるのでしょうか?
Tさん: 何度もひたすら繰り返すことが大事だと思います。チーム100名程度に対しての全体ミーティングで毎回コンセプトを伝えるようにしています。林:なるほど、何度も何度も聞くことで、チーム全体に自然と染みついていくのですね。
林:企画のヒット率を高めるためにやっていることはなんでしょうか?
Tさん:最初はまずゲームの存在を広めることが大切です。その後は打ち出す企画の数が大切になって来ると思います。他のゲームを参考に、なぜそれが成功しているのかを考え、分析し、新しい施策を考えます。
林:既存IPを使ってゲーム開発をするときに、自分たちが作りたい世界観と、IPの世界観のバランスをどうやって取っているのでしょうか?
Tさん:基本的に、IPの世界観の中でどう自分たちが工夫するか次第です。IPの世界観の中に自分たちの世界観を盛り込んでいきます。
なるほど、コンセプトメイキングには繰り返しとオリジナリティを出す工夫が大切なのですね。また、コンセプトが被る他ゲームが既存の際は、ターゲット層をずらすなどの工夫をしているそうです。
"継続的に戦える組織"の強さ
林:組織の理想状態はなんでしょうか?
Tさん:全力でやった結果上手い酒が飲める組織にしたいです。具体的にチーム力の面で言うと、継続的に戦える組織にしたいと思っています。メンバーが入れ替わる中でも戦えるような組織作りが今後にも繋がります。
林:チームビルディングどうやっていますか?
Tさん:これは以前失敗したことがあるんです(笑)。以前は働きまくる人たちに囲まれた職場で、残業ありきでした。そこで、年上の人に対してズバズバ言いすぎて、チームメンバーの心が離れていってしまった経験があります。そこで行ったのがアシミレーションです。
アシミレーションで上下関係を円滑に
アシミレーションとは?
>「アシミレーション」(Assimilation)とは、直訳すると「融和」「同化」の意味。組織開発の手法の一つで、具体的にはチームのリーダーとメンバー間の相互理解を深め、関係構築を促進する仕組みを指します。チームに新しいマネジャーが着任したときなどに用いられることが多く、メンバーと新任のリーダーとの融合を図るために、上司抜きで上司について語り合う場を設け、その議論の内容を匿名で上司にフィードバックするのが、アシミレーションの一般的なやり方です。(出典:日本の人事部『アシミレーション』 https://jinjibu.jp/keyword/detl/715/)
要は部下が上司抜きで上司について語り合う場です。上司にとってはなるべくやりたくない気がしますが、こうすることでメンバーも上司に意見が言いやすくなり、結果的に円滑な関係性に繋がるそうです。また、Tさんはミーティング以外に雑談の時間を強制的に設けたり、交代でライフスピーチ(生い立ちを明らかにすること)を行うなど、様々な工夫をしていました。
林:全体最適ではない機能、つまり蛇足の機能を作らないために、やっていることはありますか?
Tさん:なぜ必要か?を繰り返し問うようにしています。もちろん経験の浅い新卒に考えさせると不要な機能が出てくることが多いです。その時は失敗するまでやらせず、すぐに方向を修正します。
林:なるほど、クオリティに妥協しないことを第一としているのですね。
林:収益性とユーザー体験とコンセプトと、チームのやりがいのバランスはどう取ってますか?技術的負債等はちゃんと解消してますか?
Tさん:難しい質問ですね。リファクタリングは定期的に行うようにしています。これは以前、無視しようとしたらエンジニアに怒られた経験があるんです(笑)。一方で、継続的な事業を行うにはゲームの面白さを増す必要があります。その結果、RR(Retention Rate)が向上したり、ARPU(Average Revenue Per User、1ユーザーあたりの平均的売り上げを示す指標)を成長させることが大切です。
逆に、ARPUが低迷してきた場合は、資産充足が起きており、商材の価値を感じてもらえないケースがあります。それを打開するために、例えば、ゲーム内で「特殊効果の追加」や「上限突破」のような機能が追加されることもあります。
林:なるほど、大胆な発想ですね。課金額を上げるために工夫していることはなんでしょう?
Tさん:ARPUを意識したイベント開催の他には、以前課金していた人が課金しなくなった際に、魅力を感じなくなった理由を分析するようにしています。ユーザーが離れていくのには理由があって、それをしっかり掴むことができればより収益性の高い、魅力的なゲームになっていくはずです。
おわりに
収益性・ユーザー体験・コンセプト・チームのやりがいのバランスは本当に難しいところでしょうが、そこを上手くやると人気の、満足度の高いゲームが出来上がるのですね。こうして言葉で言うのは簡単ですが、実際実行するのは想像より遥かに難しいことと思います。Tさんも自身の失敗経験から多くのことを学び、今のプロデューサーポジションの仕事に活かしていました。これからプロデューサーに就きたいと思っている人は、これらの知見を元に、まずは様々な課題にチャレンジすることから始め、学びながら徐々に視野を広げ、良いチーム作り、プロダクト作りに繋がるよう努力していくことが大切だと思います。
インタビューにご協力してくださったTさん、今回は貴重なお時間をいただきありがとうございました。