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CTOに求められる3つの能力 ~EMやTLとの違いとは?~

今回は、ZOZOテクノロジーズ(現ZOZO)でCTOを務め、現在はバイセルテクノロジーズ 取締役CTOの今村さんの「CTO論」を伺いました。

今村さんは、12年間のCTO経験があり、その間「エンジニア組織づくり」「技術広報」「情報システムの整備」「技術戦略策定」「人事制度策定」など、様々なCTO経験をお持ちの方です。

それらの経験を元に「CTOに求められること」特に「CTOと、EM(エンジニアリングマネージャー)やTL(テックリード)との違いは何か」について伺いました。

参考)ZOZOのテックカンパニーへの変遷、CTOとしての取り組みを振り返る

① 「登る山」を決める判断力と、中長期的な課題解決を行う実行力

■ CTOとEMやTLとの違い

まず、CTOがEMやTLと違う大きな点は、より広範囲・より長期的な課題解決を行う点です。

EMやTLは短期的(半年程度先)、そして事業やプロジェクト単位の課題解決に取り組みますが、CTOはより長期的(目安は2~3年)、より広範囲(企業単位)の課題解決に取り組みます。

また、CTOは「どの山に登るのか?」を決める必要があります。つまり、「どういう技術を使って、どういうビジネスをするのか?」を決め、ステークホルダーの共感・巻き込みを行うことが必要です。

一方で、EMやTLは「その決まった山にどうやって最速で登るのか?」を決める役割を担っています。

特に会社のビジョン・ミッションを自分事化することは非常に重要です。もし、これからビジョン・ミッションを策定する場合は、CTOとしての意見を反映させるべきです。既にビジョン・ミッションが策定済みの場合は、腹落ち出来るまで議論したり考えたりすべきです。

■ ビジョン・ミッションを策定するメリット

ビジョン・ミッションは現場のメンバーからすると「上辺だけのモノ」になりがちですが、ビジョン・ミッションは一番重要な存在です。

私の好きな言葉に、論語の次のような言葉があります。

『子曰、知之者不如好之者、好之者不如楽之者』
(子曰く、これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず)

つまり、スクラム開発手法などの開発マネジメント手法も大切ですが、そのような手法だけでなく、内発的なモチベーションで、楽しんで仕事をしている状態が最もパフォーマンスが高いと考えています。

エンジニアが開発しているプロダクトが、ビジョン・ミッションにどうつながっているかを理解し、意識してもらうことで、個々人が仕事の意義を感じて、自発的に行動し、心の底から楽しんで仕事をする状態に近づけることが出来ます。

■ ビジョン・ミッションの具体的な活用方法

まず、ビジョン・ミッションを意思決定に活用することが重要です。ビジョン・ミッションに沿っていない意思決定がされそうな場合には、その意思決定を排除することが必要です。

また、採用時にもビジョン・ミッションは活用できます。実際に、採用の際にはビジョン・ミッションへの共感を見るようにしています。

現実的に「100%共感している人材」を採用するのは困難です。しかし、面接時に自社のビジョン・ミッションや事業ドメインに興味がなさそうだ、というのは伝わってきます。

例えばファッション企業を例にした場合、「ファッションでオシャレを極めることにはそこまで興味は無いが、ファッションというものをテクノロジーで解明していくアプローチには興味がある」など、事業への興味のポイントは人それぞれあって良いと思います。ある程度ビジョン・ミッションにつながるような、「自分なりの興味」を持っているかを見ています。

そして、ビジョン・ミッションを浸透させるために、例えばVASILY(現在のZOZOにM&Aされたスタートアップ企業)の際には、ミッションを語るミーティングを毎週、計100回以上は行いました。また、ミッションやバリューをベースとした行動評価指標を作り、成果指標と同じ比重にして浸透させる工夫をしました。

他にも、採用イベントなどにマネージャーを参加させ、マネージャー自身に対外的にビジョン・ミッションなどを説明させることも有効です。

② 各テックリードと壁打ちできる程度の技術力

CTOになると、コードを書く時間が減るため、努力しない限りは自然と技術力が落ちていきます。しかし、エンジニア組織のトップとして、技術戦略を策定したり、エンジニアメンバーからの信頼を集めるためにも、一定レベル以上の技術力は必要不可欠です。

具体的には、TLと壁打ち出来るレベルの技術力は必要です。また、最近はiOS、Android、Webフロントエンド、API、インフラなど、エンジニア職の中でも業務が専門家・分業化していますが、CTOは全領域において一定レベルの理解が必要だと思います。「明日エンジニアが全員いなくなってもなんとか出来る人」であるべきだと考えています。

■ 幅広い技術を短時間で学習する方法

CTOの業務は多岐に渡るため、インプットのための十分な時間の確保が困難になりがちです。そのため、効率的なインプットの仕組みと習慣が重要です。また、良質なインプットのチャネルを持つことも大事です。

例えば、RSSリーダーで、国内外のテックブログや、はてなブックマークなどをアグリゲーションし、デスクトップ上でいつでもすぐに見れる仕組みを作ったりしています。

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xbarを利用してデスクトップでRSSを読めるようにしている

また、社内にiOS、Android、インフラ、サーバー、機械学習など、テーマごとの最新の情報が共有されるチャネルなどを作っています。

スキマ時間の3分や5分で、こういった方法で情報のインプットをできるような仕組みを構築しています。

休日などのまとまった時間が取れる日には、書籍を読んだりします。

また、良質なインプットという意味ではCTO同士の情報交換も貴重な情報源です。自社と同じような技術を使っている場合はすぐにヒアリングしてどのような使い方をしているか、どういうところに課題があるかなどの情報をキャッチアップしておきます。

③ CEOやCFOに対する、経営課題解決の提案力

経営会議でCEOやCFOとディスカッションする必要があるため、ビジネスやファイナンスの理解も一定レベル以上必要です。

特に、PLとKPIの理解が重要です。1年後の収益・コスト構造がどのようになっているのか、そのために伸ばすべきKPIは何なのか。これらの理解は当然必要とされます。

次に、BSやCFの理解も必要です。中長期的にどの程度アクセルを踏むことが出来るのか、その点の判断も求められます。

加えて、上場企業や規模の大きい企業の場合、IRへの理解も重要です。投資家からどう見られているのかを認識する必要があります。それを意識しながら技術投資を行い、どのクオーターで成果を出して発表すべきかも考える必要が出てきます。

■ 経営会議で具体的に問われるアジェンダ

経営会議では「その課題はテクノロジーでうまく解決できないのか?」ということを常に問われます。その課題の範囲も、ビジネスの課題だけでなく、社内のコミュニケーションや働き方の問題など、多岐に渡ります。

具体的に「この課題を、この技術を使って、このように解決してくれ」と、事細かに指示されているようではCTOと言えません。常にビジネスを俯瞰し、「テクノロジーをこうやって使うとうまくいきますよ」と提案し、実践し続けることが求められるのがCTOです。

■ テクノロジーによる提案力を上げるためにすべきこと

では、どのようにすれば他のCxOレイヤーには出来ない、「テクノロジーを駆使した提案」が可能になるのでしょうか。

まず、他社や競合の状況を把握し、どのようなアプローチをしているのかを理解する必要があります。具体的には、競合はどの程度の開発投資をしていて、どの程度のアウトプットを出していて、顧客の課題をどのように解決しているのかを理解します。

また、新しい技術をインプットし続け、世の中に今どのような技術があって何が出来るのか、常に把握しておくことが重要です。例えば、「モノの管理」の課題があったときに、バーコードしか知らない人と、RFIDを知っている人では、提案力に差が生じます。

「知らないことは他人に聞けばいい」という側面もあります。しかし、自分である程度インプットすべきです。その技術を使うとどのくらいのリソースを割り当てる必要があるのか、といったコストの感覚を持っていないと適切な提案は困難ですが、それを都度他人に求めていてはスピードが出ません。

■ ビジネスやファイナスの学び方

エンジニアだけの「技術村」から飛び出し、様々な企業のCxOレイヤーと交流することをお薦めします。CEO、CFO、CMOなど、違う道のスペシャリストと交流することで、自社の伸ばし方のヒントを得たり、自社の足りないところが見えてきたりします。

■ CxOレイヤーとの交流の増やし方

経営者は開発組織のマネジメントについて悩んでいることが多いです。そのため、開発組織づくりに関する情報提供が出来ると、自然と繋がりが出来たりします。そういう意味では、相手の悩みを察知して、必要な情報を提供するコミュニケーション能力が重要です。

今後CTOになっていきたい方へのアドバイス

CTOとして身に付けないといけないものはたくさんありますが、一番重要事は、「中長期的な技術戦略をどこまで深く考えられるか」です。戦略を策定出来るようになるためには、自分たちがやっているビジネスドメインに関するインプットと、最先端技術のインプットが重要です。

例えば、「今後は動画が来る」と分かったら、動画配信の技術をあらかじめ勉強しておくことが重要です。また、そもそも「どういうビジネスが今後来るのか」を見抜く力の訓練には、CEOとの壁打ちや色々な職種の人からのインプットが役に立ちます。繰り返しになりますが、ビジネスとテクノロジーを両方理解出来るのがCTOに必要なスキルです。

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