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ビニール1枚の孤独

人間生きていれば誰しも最悪な夜がある。 どんな天才もどんな美人もどんな金持ちも、最悪な夜が訪れるという点では平等だ。 荒んだ心臓のまま、隣にいる人に平静を装って話し始める。 新鮮な空気を奪い合うように。 限りある資源を貪るように。 でも貴方の隣にいる人はビニール1枚隔てた向こう側で相槌を打つ。 親身に 空気の通らない声で それは悪じゃないよ。 だって私もビニールの向こう側にはいけないもの。 だからガッカリしちゃいけないし傷付く必要もない。 ほら、なんて素敵なイルミネ

    • 空港のど真ん中で母にビンタされた話

      成田空港のど真ん中で母から強烈なビンタを食らったことがある。 頬がジンジンと熱を持ち一瞬何が起きたか分からなかったが、事実がカラダを一周すると「ああ」と痺れは去り、そしてやがて大きな解放感で満たされた。 その夏は特に暑さが厳しく、それは台湾も日本も同じだった。 小学3年生、4月生まれの私は周りより早く9歳になっていた。 それまでも毎年、夏休みは丸々母に付いて渡台していた。 滞在先はホテルではなく、母の恋人の家。 物心ついた時から既に彼はいた。 「ダディと呼びなさい」と母

      • もうどうでもいいの 吹き飛ばそう

        岡山の若きアーティストである藤井風さんの「kaerou」という曲に次の言葉がある。 “ あの傷は疼けど この渇き癒えねど もうどうでもいいの 吹き飛ばそう ” その前後に「かえろう 全て流して忘れてかえろう」的な文がきて、そして “ 憎みあいの果てに何が生まれるの わたし、わたしが先に 忘れよう ” とくるのだ。 何度も確かめるように聴いて、魂が抜けるようなため息をついた。 いわゆる「毒親」によって幼少期に何かしらの傷を負い、大人になっても苦しむ人がいる。 大人に

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