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モノクロフィルム現像の廃液処理に関して


このノートで伝えること

① あなたが個人の趣味でモノクロフィルムを現像をしている限り、使用済みの廃液は「下水に流す」が法的にも唯一の取り得る方法です。

② あなたが個人の趣味で現像をする限り「産業廃棄物」を出すことは不可能です。産業廃棄物は産業で出たゴミ以上の意味を持ちません。

③ ネット上の文章はプロ(=産業)向けに書かれたもので、それの孫引きと読み間違えで誤解だらけになっているので参考にしてはいけません。

④ あなたが「古典技法」に取り組んでいる場合はまた別の法律が関わってきますので行政に問い合わせましょう。


はじめに

・本ページの目的
 デジタルカメラが主流のこの時代に、フィルムの自家現像に興味を持っている人がいること自体が素晴らしことです。それなのに、誤った知識で自家現像を諦めてしまう人が多過ぎる。それは悲しいことなので、正しい知識を知って欲しい、自家現像を諦めないで欲しいのです。
 何故こんなに誤解が広がっているのか、そこを中心に書きたいと思います。この記事を読んだ方から情報を募り、毎年ごとにブラッシュアップさせていき、フィルム文化を守る一つのきっかけになれば良いと思います。
 特に現像後の廃液の処理が一番の壁になっているようです。しかしこの点についてネット上での情報は嘘やデマがほとんどという現状で、これから始める人が困ってしまうと思いノートを書いてみることにしました。

・著書紹介
 フィルムカメラにハマったあと、フィルムの自家現像に関しても興味が出てきました。色々調べた結果、自家現像をするためにつまずいた部分も多く大変でした。この経験をみんなと共有できれば、自家現像で困ってる人の力になれるのではないか。そう思い、世界でいちばん意識の低い自家現像の本「ゆるネガ」を作りました。


ゆるネガってどんな本?

 まず、今回noteで記事を書くにあたって、ゆるネガの一部ページをPDFで公開することにしました。伝えたい事のほとんどはここに書いてあります。出典を明らかにしていただければこのページをダウンロードして共有していただいても構いません。

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この4ページ分のPDFを無料で公開します。

 このような廃液処理のページのほか、自家現像について、道具の準備から現像過程を初心者でも分かりやすいようにまとめた本になります。この本やPDFを読んでいただければわかると思いますが、抜粋し、廃液処理の要点をまとめます。

産廃って? 廃液って?

・一般人が産廃を出すことは不可能
  まず、モノクロフィルムを現像した使用済みの薬品は「産業廃棄物」になるということを聞いた事があるかも知れません。ネットで自家現像について調べると必ず出てくる情報です。しかしこれは困った情報です。あなたがただ写真を趣味としている一般人だとしたら、写真にまつわる「産業廃棄物」を出すことは不可能なのです。
 「写真の現像液=産業廃棄物」なのではなく、「誰に、何に使われたかによって産業廃棄物になったりならなかったりする」という事です。家庭で現像に使った処理液は産業廃棄物とは言わない。つまり、家庭から出たゴミは一般廃棄物であって、産業廃棄物ではない。という事を知って欲しいです。この考え方はとても重要なのでおさえましょう。

 また、産業廃棄物は危険な物とのイメージがあるかも知れませんが、それも間違いです。危険な場合もあれば危険でない場合もあります。水道水を使って洗い物をしていると思いますが、その水ですら産業廃棄物として処理する場合もあります。
 そして、現像に使い、あとは捨てるだけの処理液は全て廃液と言います。それだけです。


廃液処理に関する間違い

・元凶
 ネットに溢れる廃液処理の記事のほぼ全てが「産業廃棄物」に関しての情報を参考にし書かれています。これが間違いのもとでした。これらの記事にはいくつか元になった記事があるのが分かっていますが、それらはプロの写真家やDPEといった、まさしく仕事=産業として写真化学に関わる方向けに書かれた文章でした。ですから、そこで写真廃液が産業廃棄物として扱われるのは当然のことだったのです。
 再三説明したように、趣味でやってる自家現像で出た廃液は、産業の結果出たゴミではないので、産業廃棄物ではないのです。産業廃棄物ではないのに産業廃棄物の法律を参考にしているから、ここまでの齟齬が生じているのです。

・何故こうなったのか
「ゆるネガ」を書くために、1950年〜2018年までに発行された自家現像に関する書籍を20冊ほど読み漁りました。これらの本の中に廃液処理の仕方について書かれた本はゼロでした。どれも口を揃えて「知り合いのカメラ屋に引き取ってもらおう」の一文だけで済まされています。情報を提供する側が、詳しく調べもせずに情報を書いていると言っても良いです。

・誰も行政に確認していない可能性
 ゆるネガでは、さいたま市での処理方法を例に挙げました。さいたま市では廃液をタオルや紙に吸わせて燃えるゴミとして処理しています。この処理方法についての議論を今までに見たことはありません。下水に流す以外の処理方法を取っている事を知らないからです。

 ここで気をつけて欲しいのは、「さいたま市で燃えるゴミで出しているなら私も燃えるゴミで出そう。」と自分の考えで処理方法を選択する事はできないという事です。
 まずは自分の住んでいる街の行政に問い合わせる事が重要なのです。その際には家庭から出るゴミであることを強調するのを忘れずにしましょう。


ネットに溢れる誤解しやすい処理方法の記事

・産業廃棄物の誤解
 みらいフィルムズさんの公開しているこのページ。フィルムを販売し、今でも活動をしているサイトなので、ネットで廃液処理について検索すると高確率でここに行き着くのではないでしょうか。
 読んでみると「はじめに」の時点で早速、産業廃棄物という言葉が出てきます。書いてあることは間違いとは言いません。参考にされたページが産業用のページなので、当然書いてあるのは産業廃棄物の法律の事なんです。個人事業主や写真部に属する学生がこのページを参考にするのは正しいです。
 しかし、趣味で個人での現像はどう考えても「産業」ではないので全くの別物です。この記述は趣味としてフィルム写真に取り組む人には参考にならないですし、してはいけないものです。環境意識の高い方は「産業廃棄物として処理した方が環境に優しい!」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。産業廃棄物と言うものを誤解しているし、一般人が産業廃棄物を出すことは不可能ということは何度でも確認しておきます。

 先ほどの産業廃棄物に関しての知識があるかないかで、この理解が違います。産業の法律を持ち出されてビビってしまう。ここで自家現像を諦めてしまう人が多いのでしょう。


日本の下水処理インフラはすごい

・環境問題の誤解
 産業廃棄物という言葉の誤解の次は環境問題でしょう。はじめに言います。pHや銀、配管について考えることは無意味です。
 現像廃液を下水道に流して良いのか、悪いのかとの問題について調べると必ずと言って出てくるのが環境問題に関しての考察です。pHについての記事、銀を下水に流すことに関しての環境汚染の影響。配管の劣化。更にはDNAに影響が出るなんて記事も見つかりました。

 廃液を下水道を使って処理することに関してですが、廃液を下水道に流すときは希釈するように指示されていると思います。これをどれくらい希釈したら良いのか悩むと思いますが、あまり難しく考える必要は無いのです。なぜなら私たちは日常の生活で意識せずとも大量の生活排水を下水に流しているからです。その量は一人当たり一日250リットルにもなるのです。環境について考えるなら、この全体を把握し、それが居住自治体でどう処理されているかを知ることからしか始まらないのです。

 環境問題について考えてるのに、日本の下水処理に関して考察している人は全く見かけないのです。強アルカリ性の液体や銀を水に流すとどうなるのか、「どうやら環境に悪いらしい」みんなここで止まっています。
 日本は世界でもトップクラスのインフラが整備された国です。それなのに、下水がそのまま海に放流されていると思っている人がこの令和の時代にもいることが驚きです。そもそも、私たちは日常的に下水道にどれだけ危険な液体を、どれだけ大量に流しているか把握していますか?
 日本の下水処理場では、現像に使った廃液よりも強アルカリ・強酸性な液体を処理しています。流された液体は日常の排水で希釈され処理場で処理されます。銀が溶け込んでいても、銀よりも有害な重金属が溶け込んだ水を処理しています。その事を知ってください。小学校の社会科見学で地域の下水処理場を見学しませんでしたか?
 環境省ではこのようなパンフレットを公開しています。
 https://www.env.go.jp/recycle/jokaso/pamph/pdf/wi_all.pdf

 そして、最近のトレンドは排管の劣化です。おかしな話だと思いませんか。トイレで嘔吐したら強酸性の液体が配管に流れることになります。洗面台でカップ焼きそばの湯切りをしたらアルカリ性の液体が配管に流れます。配管の劣化に気を配るのであればここまで意識しないと辻褄が合いません。家庭から出るもので配管に最もダメージを与えるのは油でしょう。油は固まりますから、液体の何倍も配管にダメージがあります。
 私たちの社会は、環境に負荷を与えないように着実にシステムを整えてきました。処理場までの配管が劣化することは勿論ありますが、それは行政が着実に対応していきます。世界に誇れる素晴らしいシステムを社会として支えていることに自信をもってよいのです。そのために安くない税金を収めているのですから。



ゆるネガ頒布以降のちょっと危ない動向

 ゆるネガはおかげさまで300部以上売れ、多くの方の手に取っていただいています。少しだけ自家現像に関しての誤った知識を修正できたかと思います。しかし、ゆるネガ頒布後にも新たな怪しい言説が登場しているのでそのことについても書いてみます。

・個人で業者に依頼する事の危険性
 「廃液は産業廃棄物の処理業者に委託しよう」という言説はなかなか無くなることがありません。最近衝撃を受けたのが「廃液を産業廃棄物として処理するために、個人事業主として登録する」と言うものでした。
 実際に現像廃液の処理をしている業者に処理ができるのか確認した際、関東圏であればどこでも取りに行くと言う説明を受けました。しかし、本来であれば産廃業者は家庭系一般廃棄物を「基本的には」受け入れられないはずなのです。

 ゴミの処理は行政にとって一大事です。どのくらいのゴミが出てどのように処理したら良いのかは厳密に管理されています。それをみんなが好き勝手に捨て始めると大混乱になってしまいます。そのため私たちの社会ではゴミをいつ、どこに捨てられるかはルールが決まっています。
 少し前に問題になった粗大ゴミを勝手に持ち帰るのは罪になるというのはそういうことなのです。地域外からゴミを持ち出すだけでも違法になり、発覚すれば事業者の免許が取り消される可能性もゼロではありません。

 産廃業者はなぜ、他県からわざわざ回収に来てくれるのでしょうか。そこまでして廃液を回収したい理由はどこにあるのでしょうか。それを業者の『善意』ととることは難しいと考えます。そこには何か表に出せない理由があると考えるべきで、脱法的・あるいは違法の可能性の高い行為をそそのかすような業者と関係を持つのは避けた方がよいのではないかと思います。

・廃液処理の委託
 さて、ここまで読んでいただいた皆さんは、あれ?っと思いませんか?「知り合いのカメラ屋に廃液を引き取ってもらう」これって大丈夫なのかなと。
 あくまで善意として、処理委託をしているカメラ屋さんがいらっしゃることは存じ上げています。私から言えるとすれば、あまりおおっぴらにやることではないということだと思います。もしそれを『有料でやっていたりしたら、ちょっとマズいことになるだろうな、ということは申し上げておきたいなと思います。


ゆるネガで書けなかった部分の追記

・住宅の契約が優先される例
 Twitterで情報を募っていた際に、このようなケースがある事を知りました。インフラ整備が整っていない地域では、住居の契約が優先される事案が存在している場合があります。その部分には注意が必要です。
 もし、下水が整備されていない地域で家庭排水が直接公共用水域に流れている地域に住んでいたらどうしたらよいのでしょうか。まず行政に相談し、整備をお願いしましょう。そして捨て方を聞きましょう。
 ゴミ=廃液の捨て方は行政が定めます。むしろ勝手に捨てるほうが迷惑なのだということはこれまでも触れてきました。問い合わせの際は個人の趣味で、一般廃棄物なのだということを明確にすることを忘れずに。

 ひょっとしたら貴方の問い合わせでようやくルールが明確になるかもしれません。それは自治体のゴミ処理にとって大事な一歩なのです。


まとめ

① あなたが個人の趣味でモノクロフィルムを現像をしている限り、使用済みの廃液は「下水に流す」が法的にも唯一の取り得る方法です。

② あなたが個人の趣味で現像をする限り「産業廃棄物」を出すことは不可能です。産業廃棄物は産業で出たゴミ以上の意味を持ちません。

③ ネット上の文章はプロ(=産業)向けに書かれたもので、それの孫引きと読み間違えで誤解だらけになっているので参考にしてはいけません。

④ あなたが「古典技法」に取り組んでいる場合はまた別の法律が関わってきますので行政に問い合わせましょう。


最後に

 未だにTwitterで[自家現像 廃液処理]と検索すると、「大変そう……。」とのコメントを見かけます。自家現像は全然大変じゃないんです。ただただ、その事を知って欲しいです。
 今回紹介した「ゆるネガ」はBOOTHで自家通販しているので、興味がある方は購入していただけると嬉しいです。


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