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濵田竜也-松崎町滞在-(MAWまとめ)

❶しずおかマイクロアートワーケーションという企画の魅力 

四国を中心に仕事している僕にとっての静岡は、失礼ながら「新幹線で通過するとき富士山がみえる広くて長い県」というのが、旅の前の現在地でした。

が、マイクロアートワ ーケーション(MAW)という企画があったお陰で、その現在地は「高知も東西に長いしな」「そういや30年前に静岡の人と呑んだ!」「やっぱ富士山を間近で拝みたいな!!」と日々更新され、いよいよ滞在だなあと旅支度をするころには「ホスピタリティや地の利や関係する人たちのキモチが今どこに在るのか?まずはそこを確かめてみたい」と前のめりに上書きされていきました。

シングルパパ歴16年?くらい経つ僕は、息子氏ふたりの「欠けた(と勝手に思っている)なにか」を埋めようと彼らが通う小学校で全校200人だかを川原に集めてアート参観日をやったり、地域系アートプロジェクトを島や港町や山の中でやったり、愛媛や京都に移住したりしながら、気づけば自営業のプロジェクトデザイナーとして20年が経ち、次男は成人式!のタイミングまでやってきました。(だいぶ端折りました。笑) そんな人生の「節」とも言える時期において自分の人生も上書きしたいと考えていた矢先、出会ったのが、ゆるく偶発性を担保した企画・MAW。

土地やひとの魅力に、旅人のぼくら個人のオーダーメイドで存分に出会える、公の仕組み。

既存の枠の先に在るだろう(かもしれない)存在にアクセスできる公道があってこそ、私有地にまで踏み込むことが出来得る。まずもって、この企画を実現しているアーツカウンシルしずおかに感謝と敬意を表したいです。そしてたくさんの人に知ってもらいたい仕組みです。

❷松崎町におけるクルー&キャストの魅力

公道を通って高知・四万十から遠路はるばる越境してきた僕が出会った、賀茂郡松崎町という静岡県の「私有地」。恐る恐る踏み入れたその土地には、お遍路さんや修験道で言うところの「先達」がたくさんいらっしゃいました。

物理的な身体は無いけれど役行者(えんのぎょうじゃ)さんや空海(くうかい)さん、そして伊豆半島の西側に脈々と流れる太古からの「空気感」、そして今ココの時間を道先案内してくれる、おばちゃんや町長さん、おじいちゃんや[まつざき里山ファクトリー]…たくさんの面々が、旅人の僕を「松崎町という舞台」にいざなってくれました。

出会う先達たちはこの松崎町で日常を生き、自身をクルーの一員(どのコミュニティのどのポジションかは別にして)として、その地平から旅人を受け入れてくれたのだろうけど、旅人の僕からすると「松崎という舞台のキャスト」に見えて仕方なかったのです。個性豊かな名俳優がたくさんいらっしゃった。そして脇道や獣道、道無き道まで案内していただき感謝です。

偶発的なのか必然的なのか、旅の道先で出会った出会い頭トピックとして印象深いのが「ここには出会いが少ない」と嘆き半分・諦め半分の静岡県立松崎高等学校の美術コースの高校生たち。 

彼らに今必要なのは、キャストでありクルーでもある、クルーでありキャストでもあることを成立させる、感じさせるなにか

その何かを持ち込む役になれたらいいなあと、授業や放課後ワークをさせてもらって感じています。美辞麗句は言わず、プロデューサー側のオトナの人たちに「いいキャストいるんだからもっと頑張って!」と エールを送っておこうと思います。 

あと忘れてはならないのが、滞在中の宿泊でずっとお世話になったゲストハウス大安吉田。 たぶん一生の付き合いになるのかな?と思うくらいの縁を感じた、今夏オープンしたばかりの宿を営む夫婦と子供たち4人の移住家族。もう一度旅の目的地になるには、チケット代と受け入れてくれる「人」が不可欠。先達たちが獣道を均した後に続く、出来立てほやほやの「先達候補」をどう育てていくのか。このテーマに向き合うクルーの一員に僕もなれるかな?と、旅が終わった今も尚考え続けています。


❸圧倒的な舞台装置がある松崎町という土地の魅力 

松崎町には圧倒的なジオ空間がありました。その上に乗っている生き様にもたくさん出会えました。舞台があるから出会いが生まれるのだなと改めて思いました。

● 例えば地球が時間をかけてつくった岩屋の高野山(たかのさん)には、滴る水と苔生す石仏と真言密教の修行の痕跡。

●例えば石工たちが掘った室岩洞(むろいわどう)の「生業の先にある舞台」には、 凛とした静謐なクウカン。

と言う風に。

もちろん他にもたくさん訪問させてもらったけれど、昨年度や他のMAW旅人たちがたくさんの魅力ある訪問先をリストアップしてくれているのでそちらはみなさんに譲り、僕なりの舞台装置の活かし方(メモ)を以下に記して旅のまとめとしたいと思います。下のメモを素案にまで高めるプロジェクトやることが、アフターMAWの今の僕の思いです。

(1)アートシーン(夕暮れどき)
ここに着いたのは夕暮れ時。伊豆半島の西側を南へと下るバスから視えた駿河湾に沈む夕陽。「遠くにきた感じするー!寒い時が海の透明度も抜群やからなー」と隣席のダイバーらしき男女の会話。亡くなったばかりの関西の知人を思い出して胸が 痛い。そういえば三國連太郎の墓があると噂で聞いたことがある。息子の佐藤浩市さんも墓参りに来るとか来ないとか。まあいいや。夕陽が七色に光っている。ひとまず一杯飲もう。 バスから降りた私は、スマホを片手に夕陽に映えるなまこ壁を動画に撮りながらまちを歩く。明日の夜には、なまこ壁の古民家で映像作品の上映会がある。なにやら映像でまちおこしをやるらしく招待された。海岸に座り独り酎ハイをグビグビとやる。私は映像作家で大学の先生。明日には演劇家の女友達と舞台美術家の男友達も来て、まちおこしプロジェクトの下見。次の作品制作のためのシナハンも兼ねている。明日の朝には地元の高校生がチームを組むアートプロジェクトとの打ち合わせも控えてるし、ジオガイドのおっちゃん2人組に連れ回されるらしいし、なにせしばらく会ってない北海道と四国からの客人も来るからなー。まちの居酒屋は明日行こう。そう思いながらコンビニでハイボールを買う。夏休みには映像学部の学生たちをゴソッと連れてきてアートキャンプやるかなー。まあチャリさえあれば成り立つかなー。やたら多いなまこ壁の古民家に灯りが灯っていない様子見て酒が進む。

(2)アートシーン(昼下がり)
設計事務所を辞め、古民家改修専門の工務店に入社が決まっている僕。小さい時から細かな作業が好きでこの道に進んだが、左官職人になりたい!と意気揚々と語る若者に触発され手触りある現場に次なるステージを求めた。リフレッシュしたいと 思い昨日は熱海の温泉旅館に泊まった。さてと朝。行き先に困った。とりあえず目に止まった「下田行き」の電車に乗る。あ!そういえば大学同期が伊豆半島だったか!?半島を南下する電車のなかで、「松なんとか高校」を出た!?...彫刻が有名な高校!?と記憶を辿り、断片を貼り合わすためにスマホで検索。設計ソフトを駆使してやっていたこの前までの自分、砂を集め木片を集め夢のセカイを創れたらと思っていた幼き自分。理想と現実の間を埋め直そうという訳でもなかったが、あっという間に「松崎高校」と最適解を導く「道具」にちょっとウンザリもした。下田に着く。同級生に会えるかな?まあ今夜の宿泊先を決めるのが先か?とか思いながら「松崎行き」のバスに乗る。 「お兄さん観光?いい宿あるよ」。遅めの昼食に入ったファミレスでカツカレーをいそいそ食べる女が聞いてくる。紹介されたのは「彫刻と長八と漆喰と。」。 「私、女将やってるんです」と言うなり顔を見合わす。同級生!?ちょっと白髪増えたけど確かに同級生!。「職人になりたい若者と彫刻の同級生と、、、今は女将」。ちょっと長いかなー、と独り言を言うぼく。女将からもらったパンフレットには 「漆喰鏝絵の神・学生キャンプ開催」とある。毎年各地の若者が「鏝(こて)」という道具を持って集い、交流を深めるらしい。まあ集客の一環よ!と笑う女将の旦那は鏝絵の職人らしい。