関根愛「撮影のあとはお腹が空く」(5日目)
十二月四日、晴れ、やや風。
昨夜の交流会の流れで三島入りしたばかりのもう一人の旅人、現代アートのキュレーター戸塚さんとホストの山森さんと(シェアハウスに住んでいるあゆみさんも途中まで)深夜二時までお話。あんまり寝てない。朝散歩。今日は通りの人出が多いと思ったら土曜日みたい。八百屋で三島産の焼き芋を買う。たぶん昨日のでちょっとしなびてるけど美味しい。自炊用の野菜が少なくなってきたので近くのきのこ農家さんの黒ひらたけ、バターナッツ、里芋、人参、カリフラワーを買う。どれも三島産。黒光りというけど、黒ひらたけはとてもきれい。冬は腎に効く黒い食材を食べることが養生になるので嬉しい。三島広小路駅近くの「カンパーニュ」というパン屋さんで全粒粉パンを見つけて買う。川の鯉が止まってた。動いてる鯉しか見たことない。朝だから?寝ているのかもしれない。川の先に水車があって、ペダルみたいなのを足で十五回くらい踏めば水車が回ります、とある。五十回くらい踏んでも回らないので諦めて去ろうとした時おもむろに回りだす。しばらく見とれる。自然食品のMOAで豆乳マーガリン(植物性のマーガリン)を買って、パンに塗ってお昼にする。三島はあそこのお店行きたいなと思ったらすぐに行ける距離感がいい。今日の朝散歩はいつもより長め。一時間ちょっと。朝歩くのが一番楽しい。体が軽い。どこへ行っても朝歩く。どこでも人は生きて営んでいるんだなあと分かって「なら、私も、」と励まされる。昼のサラダはいつもの。今日は千切り生姜多め。味噌汁に入れた黒きくらげがコリコリで美味しい。これも地産のもの。
お昼過ぎに「ひとりで食べる」シリーズの撮影。宿を出ると隣にアンティークショップがあることに気づく。三フロア分所狭しと並んだ感じの良い家具たち。ランプやソファが可愛い。撮影は、今日でありがたいことに六人目。東京で一人暮らしをしていたがコロナ禍で実家に戻った大学院生。三島大社すぐそばの「結びやキッチン(むすびどころ)」というレンタルスペースで学生が行う期間限定カフェ「ユアネイバーズカフェ」を運営する。ハンドドリップコーヒーが売り。コーヒーが飲めない自分が申し訳ない。お店のカウンターでランチ休憩に大きなハンバーグ弁当を食べるようすを撮らせてもらう。外の駐車場でインタビューを少し。木漏れ日と日当たりで背中の影が良い具合に出る。私は二人の人間にインタビューをしていたのかもしれない。もしかしたら見せない、見られたくない、あるいは本人も知らないもう一人の自分がいることを影が無言で教えていたのかもしれない。いずれにせよ私にはわからないけど、なぜひとりで食べる人を撮り続けるんだろうとまた思う。理由のようなものは確かにあるし言えるけど結局はわからないまま、撮る。彼は一日二食、昼はお弁当。夜は買ってきた惣菜と自宅で炊いたお米、味噌のチューブと乾燥具材で即席味噌汁を作る。同居の家族とは食事の時間が合わないためひとりで食べることがほとんど。三兄弟の末っ子。上二人はもう社会人。甘いものが好きで、ごくたまに自分のためにプリンを作るという。「食べる」は「生きる」を根強く支えるもの。「どう食べる」にはその人の「どう生きる」が現れている気がしてならない。何を食べたかより、どう食べたか。それがその人を作るような気がする。撮影したあとはお腹が空く。単にランチ撮影が多いから(私自身はランチがまだ)かもしれないけど、それだけではないような気がする。今日はランチ後に撮影に行ったのに、いつもより撮影後にお腹が空いている、と思った。撮影のあとは細胞がそわそわする。人が食べるようすを撮りながら見つめたり、食べるにまつわることを聴いたりすると、私の体は少し変わる。体が生きようと思うほど、お腹は空くような気がする。宿へ帰ると、シェアハウスの住人あゆみさんが実家からテーブル椅子を二脚持ってきてくれていた。椅子があるっていいな。18時半から戸塚さんのイベントに参加。現代アートとは何か?どう楽しむか?を分かりやすくお話ししてくださる。
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