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コレクティヴ・アーバン・ポイント「焼津のまちづくり活動と『地球スケールの軌跡の上の焼津』」(まとめ)

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1. はじめに

マイクロ・アート・ワーケーションとは、静岡県の芸術活動を支援する財団・アーツカウンシルしずおかが主催する、県内の様々な地域におけるアーティストの滞在を支援するプログラムです。アートやまちづくりの分野に関心を持ち、都市に関する議論の場づくりを行う私たちは、その一環で静岡県焼津市に4日間滞在しました。
滞在中は、地域のまちづくり団体である一般社団法人トリナスの土肥潤也さんに支援をいただきました。

私たちが本プログラムにて焼津に滞在したいと感じたきっかけは、以前参加した日本建築学会主催の「子どものまち・いえワークショップ提案コンペ」(都市と建築に関する子どものワークショップのアイデアを提案するコンペティション)にて、審査員であった土肥さんに賞をいただき、オンラインでお話しする機会を得たことでした。
そこでのやり取りを通じて、私たちはいつか土肥さんの活動拠点である焼津に行ってみたいと思うようになりました。
その矢先に、土肥さんのTwitterで本プログラムが紹介されているのを知り、それに参加すれば焼津に行く機会が得られるのではと思い、応募しました。
採用後に行われた土肥さんとの事前オリエンテーションでは、焼津には土肥さんらが運営する「みんなの図書館さんかく」に加えて、様々なまちづくり活動があるとお聞きし、私たちはわくわくしていました。

そういった背景があったため、本滞在における私たちの第一の目的は、土肥さんらが運営する「みんなの図書館さんかく」を始めとする、焼津のまちづくり活動を現地で観察することでした。そのため現地では、土肥さんに焼津の興味深いまちづくり活動やそれを行なっている方々を紹介いただきました。

また同時に、私たちは都市を専門にしており、リサーチによって各都市の独自性を見出すことに強い関心を持っています。そのため本滞在の第二の目的は、焼津の都市としての独自性を見つけることでした。そのために、まちを自分たちで踏査して写真とメモで記録し、それらの解釈を行いました。

本レポートでは、第二章で私たちが観察した現地のまちづくり活動の様子とそれに対する分析・考察を示し、第三章で私たちが焼津に見出した一つの独自性の可能性を示します。

始めに結論を書くと、下記のことを私たちは見出しました。
・焼津のまちづくり活動は他都市と比較しても非常に活発であること
・「地球スケールの軌跡の上の焼津」というテーマでリサーチを続けることで焼津の独自性が見出せるのではないかということ

概要図

2.焼津の現在のまちづくり活動

始めに、これまでの滞在レポートに基づき、土肥さんのご紹介で私たちが現地で見聞したまちづくり活動の一部について記載します。

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自ら選んだ本を貸し出すことができる一箱本棚オーナー制度で運営される「みんなの図書館さんかく」。駅前通り商店街の中ほどにある。参加者が所有している本というとても個人的なものが、棚にひしめきあうことで、その場に人がいなくとも「公共的」な空間が形成されているように感じられた。(1日目)


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カフェ・イヴェントスペースのPLAY BALL! Cafe等があるビル。対面には上記の「さんかく」があり、上階には近日中にシルクスクリーンのアトリエが設けられる。カフェを運営するだけでなく、焼津駅前のおすすめスポットを紹介する「焼津駅前マップ」も自作した水野さんの「人々は焼津に魚を食べにだけ来ている。そうじゃない何かを発信していく必要がある。」という言葉が印象的だった。(1日目)


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「さんかく」のほぼ裏に位置する「3丁目ガーデン」とその中の「Heart Link Cafe」。焼津の中心市街地に親子が過ごしやすい場所が不足していると考えられていたことから、子どもの遊び場や保育士のいるカフェ等が作られた。カフェは保育園事業を行う民間企業により運営されており、民間事業者の地域貢献活動だと思われた。(3日目)


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「さんかく」の位置する駅前通り商店街を中心に近年開催されているアートイヴェント「焼津カツオSHOWてん」を企画・実行している、駅前のGallery Pumpkinの杉山さん。「1回のイベント開催はボランティアでもできる。だがまちに貢献するためには継続的にイベントを実施していくことが重要であり、どうやって10年20年続くお金と人材を確保していくか、それが自分の活動の今の課題だと考えている」と自身の活動の持続性に言及しているのが記憶に残った。(3日目)


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旧港に近い、改装されたビルにある「atelier&shop sifr」。店主のサイトウさんは「この場所では、自分の好きな世界観を大切にして、まずはアクセサリーやアンティーク、他のデザイナーのつくったものを売りたい。その上で、まちとの相乗効果もあると良い」と、自分のやりたいことをまず行い、その後にまちづくりへ関わることを述べていた。(2日目)


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地域の対話の場として住宅街の中で運営されるスープ屋Hygge(ヒュッゲ)。哲学カフェ等も開催している。なぜ焼津でそのような場づくりを行うのかを店主の吉田さんに問うと、「デンマークへの留学経験から対話の場づくりに関心を持った。また焼津はそのような場づくりを行うのに人口10万人という適切な規模感があると感じるため」とのことだった(吉田さん)。(1日目)

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上記のまちづくり活動に加えてその他に見聞きしたものも含めて地図上にプロットしたものを下に示します。

地理院地図 _ GSI Maps|国土地理院_グレースケール2

電子国土基本図 (国土地理院)を加工して作成

(赤丸:まちづくり活動の行われている拠点)1.みんなの図書館さんかく 2.PLAY BALL! Cafe他 3.くりさんち 4. 3丁目ガーデン・Heart Link Cafe 5.Homebase YAIZU 6.建設中のコワーキングスペース・コラボレーションサロンten. 7.Gallery Pumpkin 8.atelier&shop sifr 9.LENY 10.帆や 11.スープ屋Hygge(枠外) 
(緑丸:公共機関により整備された施設)12.ターントクルこども館 13.商店街チャレンジショップ 14.建設予定のワーケーション施設

このプロット図からは、下記のことが読み取れます。
・焼津の現状のまちづくり活動が駅前通り商店街の線上に集中していること
・駅前通り商店街を中心に、駅前や旧港といった半径1km圏内にも広がってきていること
・9-11のように駅から離れた市南部にもいくつかの活動拠点が形成されていること
・近年はターントクルこども館(12)やワーケーション施設(14)等、公共機関による比較的大規模な施設整備も行われていること

また、まちづくり活動を行なっている方々へのインタビューからは、それぞれの方が焼津において自分なりにやりたいことを、自らの専門性を活かしながら、自立的に活動しており、それを通してまちづくりを行っているように思われました。

そのため、人口15万人規模の都市でこれだけ活発なまちづくり活動がされている都市は、国内外の様々な都市の中でも特徴的なのではないかと私たちは感じました。

そしてそれを成立させている要因として下記の点を考えました。
・駅前通り商店街の様子から見て、市内の不動産の更新時期が来ていること。それによって新たな空間をつくりやすくなっていること。
・漁港の水揚金額が2020年に5年連続で全国1位であるように、市に漁業という安定した産業が存在すること。それによって、まちづくりを行う経済的基盤があること。
・近隣の藤枝市・島田市と都市整備・まちづくりの観点でライヴァル関係にあること。それは、滞在中何度も土肥さんや彼の知り合いの方からそれらの市と焼津の比較を耳にし、その競争によって活動が活性化されているのではないかと感じたことによる。
・近隣の大都市である静岡市の、都市としての中心性が弱いように感じられること。滞在中の話の中でも静岡市はほぼ話題に上らず、それによって前述の3市の独自性が保たれているのではないか。


3. 焼津の都市としての独自性の可能性:地球スケールの軌跡の上の焼津

私たちは上記の焼津における充実したまちづくり活動を観察しつつ、同時に何が焼津の都市としての独自性なのかを考えながらまちを歩いていました。
その中で、私たちが気になった事実は下記のようなものでした。

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「ギリシャ、アイルランド、フランス、ニューヨーク、ニューオリンズ、マルティニーク、横浜、松江、熊本、神戸、東京、国際的に旅をしてきた小泉八雲」(4日目、小泉八雲記念館)
ギリシャで生まれ、その後生涯を通じて上記の国々を旅した小泉八雲が最後にたどり着いた地が焼津だった。数多くの土地で生きてきた彼の目に焼津はどのように映ったのだろうか。


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​​「自分が生まれ育ったジャマイカのKingston近くのPort Royalと焼津は、地形と人の感じが似ている。」(カフェ・LENY・店主)(3日目)
最近南部に開業したジャマイカのコーヒーとカカオを販売するカフェの店主の言葉。なぜ焼津で開業したのかという質問への回答が上記であり、その類似性を興味深く思った。


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第五福竜丸被爆位置(焼津市歴史民俗資料館)(4日目)
第五福竜丸は、1954年に焼津港を出航した遠洋マグロ漁船であり、ビキニ環礁で行われたアメリカ軍の水素爆弾実験により被曝し、港に帰還した。戦後の日本が世界と再び接し始めた時代に、焼津もまた世界との接点を持ち始めていたように捉えられる。


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海洋深層水、海の水深100メートル以下の水、世界中の海を循環して駿河湾に流入、「グリーンランドで沈んだ海水が北太平洋で浮上するまで2000年以上かかる」(深層水ミュージアム・展示)(4日目)
焼津ではとてもゆっくりと世界の海を巡る海洋深層水を飲むことができる。

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一見ばらばらに見えるこれらの事実に対して、私たちはこれらはいずれも地球スケールの軌跡を描いており、その軌跡上に焼津が位置づけられるという共通点を発見しました。
そこから私たちは、焼津の都市としての独自性の可能性として、「地球スケールの軌跡の上の焼津」という観点があるのではないかと考えました。
それは、焼津を地球のスケールで見て、その地表面上においてどのように位置づけられるのかを、焼津を通過する人や物が描く軌跡を通して考えるということです。

これらの事実に見られる地球上の軌跡を世界地図上に描いたものが下記になります。

220202_世界地図_70-02

電子国土基本図 (国土地理院)を加工して作成

現時点でこの図から言えることはまだ明確ではありませんが、今後もこのようなリサーチを続けていくと、焼津の独自性に関して更なる示唆が得られるのではないかと私たちは考えています。

より具体的には、今後のリサーチの方法として下記が考えられると思っています。
・焼津港において盛んな遠洋漁業や、焼津における外国から来た人々など、同様のテーマに属する事実を収集する。
・軌跡上の移動の過程の質的な情報(例えば人の感情の変化)を収集する。
・これらの線が交差する瞬間を考える。


4. 終わりに

上記の関心に基づき、今後は現地の様子を見ながら、次のリサーチを行う機会を伺えればと思っています。
具体的には、今回焼津を案内いただいた土肥さんのオンラインサロンに参加させていただきながら、現地の近況を得られればと考えています。
その中で適切なタイミングを見つけ、より詳細な次のリサーチを開始し、それに基づいた何らかのアウトプットを制作することで、焼津に関する議論の場づくりを行えたらと思っています。

最後に、私たちが焼津に関わるきっかけを下さり、今回のリサーチを支援してくださったアーツカウンシルしずおかの皆様、また滞在をコーディネートしてくださった地域のまちづくり団体・一般社団法人トリナスの土肥さん、誠にありがとうございました。
そして、滞在中に出会い、私たちのインタビューや写真撮影、情報収集にご協力くださった焼津の皆様(スープ屋Hygge・吉田さん、しましまコーヒースタンド・三浦さん、PLAY BALL! Cafe・水野さん、atelier&shop sifr・サイトウさん、Heart Link Cafeの皆さん、Gallery Pumpkin・杉山さん、月のアトリエtantan・長谷川さん、LENYのマスター、みんなの図書館さんかくの本棚オーナーの鈴木さん、い草農業に携わる横田さん、焼津市地域おこし協力隊の銀次郎さん、交流順に記載)、ありがとうございました。

引き続きよろしくお願いします。

滞在中のレポートのURL
1日目:https://note.com/microart/n/n201fe1dded17
2日目:https://note.com/microart/n/na0686f4c32b0
3日目:https://note.com/microart/n/n705f2e6797dc
4日目:https://note.com/microart/n/n6bbc1100da1d

最終更新:2022年2月14日


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