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綿貫大介「最短の時間、最短の距離で歩む人生に、おもしろい木の実は落ちてこないよ」(滞在7日目)

 駿河湾を奥へ奥へと、ぐるっと回った1週間だった。最終日は沼津市の南部・西伊豆の海岸線に位置する戸田(へだ)へと向かう。なかなか沼津の人でもここまで来ることはないらしい。不便なアクセスゆえに、偽レトロ化(※1)された今どきの観光地風情ではない、リアルに昔からの景観が失われることなく残っていた場所だった。駿河湾沿いで見てきた数々の漁港の中で、一番好きだったかもしれない。

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 戸田では、長い時間をかけてひたすら薪だけで13時間炊き上げ、添加物もゼロの伝統製法による手作りの自然海塩をつくっている。朝ドラ『まれ』(※2)でも塩づくりをしていたな、と思い出す。

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塩すくいを体験させてもらった。海水が煮詰まると、キメの細かい真っ白な塩の結晶がすくえるようになる。海水を煮詰めるだけでは、不純物が多い褐色がかったものが最初にできるのかなと思っていたのだけど、最初から本当に真っ白。まぁ、あの透明な海を見ていたらそれも当然かと納得できる。

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エメラルドグリーン、コバルトブルー……さまざまな色で形容できる、磨かれたような透明できれいな海を滞在中ずっと見てきた。下の写真、この日のiPhone無加工の海です。

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おいしい塩ができる場所の条件は、ただ海がすばらしければいいというわけではない。きれいな水の川が流れ込んでいる海であること、そして、その川の上流に自然の森があることだと聞いたことがある。戸田はその条件にぴったりだ。1500年前の人がすでにそのことを気づいて塩をつくっていたとしたらすごいことだけど、きっとそんなことなくて、奇跡は至るところで起きている。

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海も山も川もすべてはつながっていて、循環している。理科でも習うことだけど、これは朝ドラ『おかえりモネ』(※3)でも改めて学んだことだ。海辺にきて、人は海のきれいさだけ見て評価してしまうけど、山や森、自然がちゃんとあってこそ。山も海も空も水を介してつながり、自然の大きなサイクルはめぐる。

この循環は生命のサイクルでもある。大きな生命のサイクルの中では、死者にも決して「終わり」はなく、新しい生命へとつながっていく。命はめぐる。


きれいな水を流れて流れて、たどり着いた場所がいちいち自分の居場所だ。これからはそういう人生にしよう。水が空と海と山をつなぐように、僕たちは人びとをつないでいこう。love me,I love you(※4)の精神で、私やあなた、そのまわりのすべてを愛しながらね。

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ー私的注釈ー

※1(偽レトロ化)……「レトロ」という言葉を謳っているものはたいてい、偽レトロなことが多い。わざわざそういう町並みや横丁をつくることが近年流行っていて、それもなかなか最悪だ。「ブーム」としてレトロを消費しようとしているから。2020年、昭和の人情が続く渋谷ののんべい横丁の真裏に、”昭和レトロを演出”した渋谷横丁というグルメストリートができた。なんだかなぁ……。わざわざ「昔ながらの」と枕詞をつけたナポリタンを提供するカフェにも、同様のことを思う。ナポリタンは永遠にただのナポリタンであって、だからこそいい。「昔ながらのナポリタン」という商品名ははレトロを消費しようとしているとしか思えない。
※2(まれ)……2015年上半期の朝ドラ。土田太鳳主演。舞台は能登半島。家族とともに夜逃げ同然で石川県・能登半島の小さな漁村に越してきたヒロインが出会うのが、伝統的な揚浜式塩田の職人(田中泯)。キャストに逮捕者が出たのでなかなか再放送ができない……。
※3(おかえりモネ)……2021年上半期の朝ドラ。清原果耶主演。宮城・気仙沼湾沖の島で育ち登米で青春を過ごしたヒロインが、人々の役に立ちたいと気象予報士を目指す。きっかけは「山は、水を介して空とつながっています。海もそうです。永浦さんは海で育って海を知っている人ですし、山のことも知ろうとしてる。なら、空のことも知るべきです」という言葉をもらったこと。ほかにも「この葉っぱの栄養が、雨が降っと川に運ばれて海さ行ぐ。そんでじいちゃんの牡蠣やホタテを美味しくしてくれんだよ」「山と海はつながってる。まるっきり関係ねえように見えるもんが、何かの役にたてるってことは、世の中にはたくさんあんだ」というセリフが出てくるが、そるかが象徴するように「循環」という大きなテーマがあった作品だった。
※4(love me,I love you)……B’z17枚目のシングル。「Let's give it away けなしてないで たまにゃ海も山も人も褒めろよ」という歌詞がある。……凄まじい歌詞だ。こんなこと歌えるのはB'zだけだよ。そして本質ついてるなぁ……といつも思う。海も山も人も褒める人に私はなりたい。そしてたまに、褒められたい。

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