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秋野 深 「その瞬間、その場所にいたいので」【小山町】(MAWまとめ)


(1)7日間の滞在手記

静岡県小山町でのマイクロ・アート・ワーケーション滞在期間中の毎日のnoteの記事については、形式・内容ともに自由とされていた。
写真講座のコラムの連載を近年長く続けていたものの、旅のフォトエッセイ、紀行文など、個人手記的な文章の連載の仕事からは少し遠ざかっている。
そこで、毎日どこに行って誰に会って何を見て・・という詳細な記録というより、その日の体験で自分が何を考えることになったか・・・に焦点をあてるというスタンスで久しぶりに書くことにした。

【1日目】 「ワークとバケーションとラーハ」
【2日目】 「先入観と足かせ ~小山町の景観~ 」
【3日目】 「潤いと衝突 -前編-」
【3日目】 「潤いと衝突 -後編-」
【4日目】 「巨大なナンバーワンに抗えるか」
【5日目】 「旅のカタチ」
【6日目】 「旅人アーティスト達の葛藤」
【7日目最終日】 「曖昧な、大胆な、でも確かな期待」

この記事は「まとめ」というより、今後の活動のための備忘録、毎日の滞在手記には時間的文量的に書けなかったこと、といった内容になっている。


(2)滞在中の訪問地と活動

●We are OYAMAの方のご案内で
足柄古道、嶽之下宮、宝鏡寺、小林捺染工所、冨士浅間神社
豊門会館、森村橋、誓いの丘

●地元ボランティアガイド「四季の旅人」会長のご案内で
湯船鉱泉、湯船集落散策、金時公園

●地元イベントへの参加
クアオルト健康ウォーキング

●個人で
神縄断層、八重桐の池、沼子弁天公園、遊女の滝、足柄ふれあい公園、富士霊園
鮎沢川、須川、馬伏川、小山佐野川、立沢川など町内のいくつかの河川沿いの道を車、徒歩で散策、
竹之下の棚田でドローンフライト(許可取得済)


(3)ホスト「We are OYAMA」の方々の存在

初めて訪れる撮影地に向かう時、事前の細かい情報収集はあえてしないことも多い。
結果的にそれでとてもよかったこともあれば、もう少し事前に情報収集しておけばと思うこともある。

今回は、事前にコンタクトをとれるホストの「We are OYAMA」の方々の存在が大きかった。
特に、地元の方々との交流も意義の1つだったこともあってコンタクトがとりやすく、役場の担当部署へ繋いていただいたりして、事前の情報収集が非常に充実したものになった。
また、滞在期間中は、他の旅人アーティストと町内を2度ご案内いただき、個人で動く日程とのバランス、メリハリも私には非常によかった。

さらに、今後の活動のことを考えても、「We are OYAMA」の方々の存在は大きい。
「地方活性化事業」と銘打たれているかどうかは別にして、これまで自治体を単位としてお仕事をさせていただいた時に、共通して「役場の担当の方の異動」に直面してきた。
これはもちろんマイナス面としてだけでなく、様々な方が関わる意義は大きいものの、やはり積み上げてきたものがスムーズに継続されづらくなってしまう面も否めない。

その点、仮に役場の方々と進める事業であっても、それ以外に継続してそこに関わる立場の方が地元にいてくださると、プロジェクトとしての進行のスムーズ度が全く違ってくる。

今回は「We are OYAMA」の方々が、小山町内の様々な方面へのパイプ役として最初から手を挙げてくださっていたことが本当にありがたかった。

単独行動になりがちで、作品の制作の際は環境、被写体と一対一で対峙することが大切な面も確かにある自分の活動の中で、「よい意味で地元の方々を頼る」意義を実感させていただくことができたと思っている。


(4)旅人アーティストとの交流

ホストの存在に加えて、いつもの自分の撮影活動中の滞在と大きく違った点は、他ジャンルで表現活動をされている旅人アーティストとの交流である。

交流を通して得られる刺激に期待する気持ちや強い関心はあるにも関わらず、実際にはそうした機会を積極的に作ることをしないままになっていて、過去にはあるとしてもほとんど偶然にまかせてしか発生しないようなものだった。
今回ご一緒した2名の旅人アーティストについては、すでにnoteに書かせていただいた。
自分自身の活動や今の立ち位置を改めて別角度から見直すことができて、事前の期待以上に有意義な体験だった。

さらに、思いもかけない交流の機会もあった。

6日目の小山町でのフェアウェル交流会終了後、隣の御殿場市からお誘いいただいて、同時期に御殿場市に滞在して活動されていた2人の旅人アーティスト、ホストの方にお会いすることができた。

小山町の森の中でキャンプを始めていた私には、夜の御殿場駅前はまさに1週間ぶりの大都会。

つくづく、どの自治体のどういう環境でこの1週間を過ごすかで、まるで違う体験になるのだと改めて気づかされた。

また、御殿場市では旅人アーティスト達は、駅前のマンテンゲストハウスさんに宿泊していて、宿泊が3人とも別々の小山町とは旅人アーティスト間のコミュニケーションも違うものになっているようだった。

他の旅人アーティストの滞在日誌はnoteで読むことはできるものの、そこには表れていないことももちろん山ほどあるだろうから、別の自治体で別の過ごし方をした旅人アーティスト間での交流の場がこれからあると、さらに新しい発見が広がるような気がしている。


(5)水の撮影と"音"

水の情景「Stream & Life」シリーズの撮影地探しは、今回の滞在の大きな目的の1つだった。
だから、河川という河川、水路という水路をとにかく時間が許す限り見て回った。

驚いたのは町内の護岸工事の徹底ぶりだった。いかに崩れやすい土壌で土砂崩れ、崩壊などが多いかをどの河川・水路沿いを見ていても痛感させられた。
季節が違えば水量は当然変わるので、今後も探し続けるのは前提だけれど、今回、自分の撮影に適した水の流れの表情が豊かな場所を1箇所見つけることができた。

Stream & Life

あちこちで見られる河川の護岸壁の工事に加えて、町内では新東名高速道路の建設工事中でもある。
当然、現場近くでは重機の作業音がする。
さらに音といえば、このあたりでは自衛隊の演習場から響いてくる爆音がすごい。

でも小山町で耳にした一番印象的な音は、音量的にはずっとずっと小さなものだった。

3日目のnoteに書いた「なぜ自分は小さな水の流れに惹かれるのか」という問い。
今後の作品のための何か新しいヒントがあるかもしれないという期待も込めて、今回の小山町での滞在中に自分なりにあれこれ記憶を遡ってみたりしていた。
それで、1つ思い当たったのが、水が流れる音、だ。
おそらく、この音が私は子供の頃から好きだった。

写真撮影をするときに、風や湿度に対する肌感覚や香りや音といった視覚以外のものがきっかけでアイディアが浮かぶことはある。それを意識的にやることもある。

ただ、考えてみると、「Stream & Life」シリーズの作品の撮影をする時には、不思議なことにこれまであまり水音を意識して作品の描写へ繋げようとしたことがなかったかもしれない。

音をより強く意識すると撮影がどういうことになりそうなのか、まずは実験的なスタンスでやってみる価値はありそうな気がしてきた。


(6)小山町の"食"

”食”で1つ項目をたてたのは、もちろん滞在中に美味しいものにたくさん出会えたからでもある。

ただ、それだけが理由ではない。
食についての素晴らしい冊子を手にしたからだ。

その名も『おやまちっくれぽぉと』。
小山町の飲食店を紹介する食レポ漫画である。

以前、とある自治体で観光PR事業に共に取り組んだ事業者さんから聞いて印象に残っている言葉がある。

それは、「捨てられない観光パンフレットづくり」というもの。

情報提供の手段としてどの自治体も当たり前に制作している観光パンフレット。残念ながら旅行が終われば早々に捨てられてしまうものが多いことは現実として否めない。
PRのあり方を様々な角度から見直した時に、そこに「捨てられない=手元で大切にしてもらう」ための付加価値をどうつけるかを本当に真剣に考えて作ってみる、ということだ。

『おやまちっくれぽぉと』は、この「捨てられない観光パンフレットづくり」をまさに体現している冊子だと思った。

この漫画の作者さんのフィルターをしっかり通って伝わってくる飲食店の情報が、とにかくとても楽しいものなのだ。
だからこの冊子のことを誰かに教えたくなる。見せたくなる。

冊子の発行元は「小山町 おやまでくらそう課」となっている。
観光ではなく移住促進の関連部署で制作されたようだ。

滞在前の情報収集中に、We are OYAMAの小林さんに、おやまでくらそう課は今はなくなってしまったとうかがった。

これまで私も自治体で移住促進事業に参画したことがあるけれど、初期の段階では、「まずは魅力の発信と知名度の向上から」ということになりやすい。
そのため観光PRと重なる部分が多く、実際に観光関連部署が移住促進分野を兼ねている自治体もあった。

そのまま魅力的な観光パンフレットにもなると思うので、観光関連部署で『おやまちっくれぽぉと』の続編ができないだろうか・・・。
この「飲食店編」に続く、「自然散策編」や「歴史探訪編」をぜひ読みたい。


(7)オススメのイベント

滞在期間中に小山町で開催されているイベントで参加できそうなものはないだろうか・・・と探していて事前に見つけていたのが、「クアオルト健康ウォーキング」。

毎月5のつく日には、須走・富士山眺望コースで開催されているというので参加してみた。(予約不要・参加費300円)

3.5kmをゆっくりと歩きながら、さだめられたポイントで合計8回、脈拍を計測する。自分の脈拍を確認しながら、無理のない、でも適度な運動強度を目指すというものだ。
これが、イベントとしてとても楽しく、参加して本当によかった。

ただ歩くのではなく、道中はミニイベントの連続。例えば、木を使ったストレッチ、全身を大きく動かす運動、歩きながら指先を器用に動かしてみる運動などなど。

さらに歩きながら指導スタッフの方々との楽しくて役に立つ様々な話題のトーク。
富士登山、地元の歴史、富士山麓の植物や土など自然について。最近の町の時事ニュース。そしてオススメの食事処。

特に観光客向けに実施されているイベントではないようだけれど、とにかく様々な楽しい要素が盛り込まれたウォーキングイベントで、観光客が参加してもとても充実した体験になりそうだ。

脈拍を計測しながらのウォーキングも健康管理の点でとても勉強になる上に、地元のイベントにちょっとお邪魔させていただく感覚で楽しく交流できる雰囲気が何より嬉しい。

同じコースであっても、季節、天気、気温が違えば、よい意味で運動強度もきっと違うはずだ。さらに、視界の中の自然の色彩が変われば自ずとトークの内容も変わってくるだろう。
だからまたぜひ参加したい。

これから小山町を訪れる方へも、小山町民の方へもぜひオススメしたいイベントだ。


(8)滞在中にできなかったこと

時間的に余裕があれば、行きたかったところや、お話をうかがって確認したかったことがいくつも残っている。

●小山町からの周辺地域へのアクセス

小山町は実に魅力的な自然景観に囲まれている。
しかも全国的に見ても知名度の高いいくつものエリアに県境をまたいでこれほど近い場所はそうないのでは、と思うほどに。
富士山、山中湖、丹沢、箱根が小山町の周囲をぐるりと取り囲んでいる。
小山町を拠点に複数泊して各方面に出かければ、かなり効率よく様々な自然風景を楽しむことができそうだ。
小山町から山中湖、箱根へも足を伸ばして、アクセスの良さを実感したり、道中の風景を確認したりしたかったが、今回は残念ながら時間的に難しかった。
小山町役場から山中湖(山梨県)まで車で30分、箱根の小涌谷(神奈川県)までは40分ほどのようだ。このコンパクト感はすごい。

●御殿場線からの車窓風景

町内では、車移動と徒歩のみで、鉄道を利用する機会を作ることができなかった。
列車の窓からの風景や街並みは、車の運転時とは目線の高さも移動感も違うので、新たなアイディアのきっかけになることもある。
次回はぜひ乗りたい。

●周辺自治体との広域連携

これは地域活性化事業に参画してきた観点からの関心である。
観光PR事業などで様々な自治体の方々に接したとき、地域の文化的背景などが原因で、どうしても周辺エリアとの線引きの意識の強さが気になることがあった。
もちろん事業への予算のつき方という点では線引きは当然とも言えるが、ジレンマとして付きまとうのは、PRの最終的な対象である旅行者側には自治体の線引きはほとんど関係ない、ということだ。
もっとも複数の自治体による広域連携はすでに叫ばれて久しいし、実際に様々な取り組みが各地で行われてもいる。
このあたりのことをうかがう時間が今回はとれなかった。
We are OYAMAの小林さんによると、御殿場市と小山町は消防やゴミ収集など行政面での連携があるとのことだった。もしかしたら色々と広域で進めやすい土壌もあるのかもしれない。
町中で出会う人々から受ける印象でも、地域外からの来訪者に対して非常に開放的な空気を感じることができた。

●富士紡績と町の歴史

これは、小山町の非常に大きなトピックだと思えた。
もちろん町のPRポイントとしては富士山と金太郎伝説が前面に出ている印象が強い。
ただ周辺の自治体にはない唯一の個性という視点で見ると、産業遺産的なものとして潜在的な魅力があるような気がした。
豊門会館や森村橋はまさにそうした歴史を垣間見ることができる施設だが、目立つものではなくても当時の繁栄を忍ばせるその他のポイントや、工場周辺の当時の市井の人々の暮らしの残り香のようなものがわずかでも感じられる場所をつなぐ「歴史とくらし探訪ウォーキングルート」をイメージして町中を歩いてみたいと思った。


(9)これから

積雪。満開の桜。
1週間で、目まぐるしく季節が行ったり来たりするような感覚。
目の前のそんな季節感を楽しみながら、でもその一方で、これからの小山町の情景を想像せずにはいられなかった。

なだらかな裾野に広がる田んぼにこれから恵みの水が注がれたら。
なだらかな裾野に広がる田んぼが全て緑に覆われたら。
なだらかな裾野に広がる田んぼがやがて黄金色に染まったら。

写真は、その瞬間その場所にいなければどうにもならない。
だから写真撮影は、その瞬間その場所にいた証の連続のようなもの。
でもそれで何かをしようと思ったら、何かにつなげようと思ったら、長い時間が必要になる。

結局、丁寧に瞬間を紡ぎ続けていく以外にない。

だから、また小山町へ向かう。

その瞬間、その場所にいたいので。

最後に、貴重な滞在の機会と交流の場をくださったアーツカウンシルしずおかの皆様、We are OYAMAの皆様に深く御礼申し上げます。

Jin Akino


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