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(読書)水車小屋のネネ

津村記久子さんの水車小屋のネネを読みました。そのことについて書きます。

津村作品で最長のものだと、後書きにありましたが、確かに分厚い。

わたしはデビュー作からほぼ追っかけているのですが、これまでで一番読みやすいのではないかとおもいました。

この作品は40年間にわたる、ある姉妹のものがたりです。
18才の姉が8才の妹と家を出て生計を立てる、
ファンタジーと言ってしまえば、身も蓋もないのですが、
心のどこかで『もしかしたらこの姉妹は実在しているのでは』とおもわせる力があります。

また津村さんの子どもの描写のうまさが存分に発揮されています。


ものがたりは、インターネットもSNSもスマホも存在しない1981年からはじまり、コロナ禍の2021年で終わります。

この舞台設定とその移り変わりも非常によかったとおもいました。

1981年、妹の律は8歳。
1974年生まれのわたしと変わらない年頃です。
ですからそのころの時代がよくわかるんです。
特にわたしは、北海道のいなか育ちでしたから近所付き合いも盛んで。
わたし自身が近所のおとなたちに見守られながら育ったといっても過言ではありません。

またわたしは母を亡くしたとき、当時17才だった妹を誰が引き取るか、いろいろありましたから、姉の「りさ」の勇気ある行動に驚きと感動というより、無鉄砲に感じます。

ひと、ひとり責任を負う、というこは並大抵ではありません。
だからこそ、りさの覚悟に心がふるえ、ページをめくり続けてしまうのかもしれません。

もうひとつ、ものがたりの軸にある、ヨウムの「ネネ」

ねこでも犬でもなく、ヨウムというところがすばらしいとおもいました。

動物ってそこにいてくれるだけでひとを惹きつけ、巻き込み、つなげていく力があるとわたしはおもいますし、実際わたしもねこと暮らすことで人との出会いが増えたり、深まったりした経験があります。

りさと律、ヨウムのネネのほかにもそば屋の夫妻をはじめさまざまなひとたちの暮らしと人生が描かれます。

ことばを最少に、想像をふくらませる余地がたくさんある、津村記久子さん独特の語り。

読書の醍醐味を存分に味わえるそんな作品です。

おしまい

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