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外国の人に日本の居酒屋を語る

(この文は以前海外向けに日本の文化を紹介したエッセイとして英文で書かれたものに加筆訂正したものです)

 今回は日本の居酒屋でのごく一般的な作法などを紹介したい。大部分が筆者の個人的経験と意見に基づくものである。
 さて、居酒屋で何かを注文する場合は注文の品を言った後に、必ず「とりあえず」というフレーズを使って注文を完結する。 これは正確には、「これが最初の注文であり、次の注文は後ほどする」という意味で「今注文したものをすぐ持ってきて欲しい。(しかし、は次の注文を保証するものではない)」というぐらいの意味である。
 この「とりあえず」はとても日本的な表現である。 実は、もう二度目の注文はないと感じている場合でも、あまり明言せずに今後の注文を示唆するようなフレーズを用いて、 居酒屋で楽しい時間を過ごすために居酒屋との良好な関係を保とうすることの表れだ。

ところで、居酒屋ではあまり出ないが、他の料亭的な飲み屋では飲み物や食べ物を注文する前に出されるものがある。 それが「お通し」である。メインの料理がテーブルに到着するまで、お客が食べて少し待つための少量の料理である。 お通しの例としては、キュウリとナスの塩辛和えがある。 もちろん、お通しを食べたくない場合、持ってこないように頼むこともできる。 しかしそれはちょっとした緊張感を呼ぶ可能性を考えて筆者(つまり私)はやったことがなくいつも食べている。  
 さて、居酒屋の話に戻ろう。 居酒屋は基本的に気軽にお酒を飲む場所である。 居酒屋には老若男女元気な人々が集まる。 単なる思い込みかもしれないが、居酒屋に来る人は元気でたくさん飲むという印象がある。
 ドリンクの種類も豊富だが、基本的にはビール、チューハイ、日本酒、ワインなどが人気である。 しかし、最初に飲むのはジョッキに入った生ビールであることが多いと思われる。生ビールは、大生 (大ジョッキの生ビール)、中生 (中ジョッキの生ビール)、小生 (小ジョッキの生ビール) という言葉を使い、ダイナマ 2 つとショーナマ 1 つというような言い方で注文する。
 注文をすると、枝豆やサラダ、フライドポテトなど、あらかじめ用意されているものが先に来ることが多い。 次に、注文が入ってから調理するトリカラや焼き鳥が続く。 そしてホッケなど調理に時間がかかる焼き魚などはだいぶ経ってからテーブルに来ることがほとんどである。

 私の独断的な意見だが、何人か連れだって居酒屋に行くなら3人がほど良い。 もちろん4人でも2人でも問題はないのだが・・・。 ただし、一人で居酒屋に行くのは、普通の寂しい夕食になってしまう可能性があるので、避けたほうが良いであろう。 なにしろ居酒屋での最高のメニューは、仲の良い友達との会話なのだから。
 居酒屋ではあらゆる話題で楽しく会話ができる。 一緒にいる人たちと話したいことや、ふと頭に浮かんだことだけを話すこともできる。 真面目でもバカバカしくても、ハードでもソフトでも、高尚でも下卑ていても何でも可能だ。例えば、お弁当で最初に何を食べるかについて話すことができる。 あるいは、逆に最後まで残すのものについて話し合っても良い。 30年前の高校野球夏の大会の優勝校の話題でも良い。

 さて私はある晩、友人二人川崎さんと品川さんと一緒に蒲田の居酒屋に来た。 川崎さんはあまりお酒が飲めないが焼き鳥には目がない。そしてそれ以上におしゃべりが好きである。
 居酒屋ではみんなで一つの大きな皿にのせられた料理をとって食べる。 それが居酒屋のスタイルだが、注文した料理をどのようにシェアするかという問題が時々発生する。 人数に合わせて個数を綺麗に分けることができれば心配はない。 例えば3人で焼き鳥を頼んで6本出されれば問題は発生しない。 それぞれが2つづつ食べれば良い。しかしそのように割り切れない場合はちょっと問題があるかも知れない。
 その夜、川崎さんは 最近の仕事と職場について話し、その後上司への愚痴に移った。 それから妻と子供たちのことについてちょっとした不満を言い続けた。そのような饒舌な状態になった時、誰が彼の話の腰を置くことが出来るだろうか。
 話の途中で、皿に乗った焼き鳥がテーブルに運ばれてきた。 残念なことに、皿の上には焼き鳥が五本のっていた。川崎さんほどではないが、私も焼き鳥が好きだ。 品川さんは人の話にはあまり耳を傾けず、焼き鳥2本をあっという間に食べてしまった。その間、川崎さんと私は焼き鳥を一本づつ食べた。 当然皿には焼き鳥が一本残った。 これは非常に難しい状況だ。
 その間、餃子と刺身がテーブルに運ばれてきて テーブルが狭くなった。私たちはいくつかの使用済みの食器を片付けて、テーブルの上に新しい食器を置くためのスペースを作った。そして意を決して、私は最後の焼き鳥の串一本を口に運んだ。川崎さんはしばらくそのことに気づかなかった。 彼の話は上司の愚かさに戻り、そこで空になった皿を眺めた。 彼は「おっと、食べてしまったか」と言った。 彼の声にはどこか非難する響きがあったが、また話し始め、 彼は彼と彼の兄弟はおかずを取り合うためにいつも争っていたと昔話を話した。 彼は家族のことを延々と話していたが、その後会社の話に戻った。
   こうして居酒屋は日本人の奥ゆかしさと厳しさに包まれて、夜は更けていった。

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