大学院生でありながら芸能活動をするということ

今月初め、Twitterで「大学院生」がトレンド入りするという異例の事態?が起こった。
本当に異例なのかはわからないが、ともかく普段注目されない、と思っていた「大学院生」に何があったのかと心がざわついた。
ことの真相はBTSのメンバーが大学生であるお1人を除いて全員大学院に在籍しているということが公表されたからだったのだが、普段注目されないだけに実態のわからない「大学院生」というワードに対して関心が集まったようだった。

まず簡単に「大学院生」とは何か、というと大学院の修士課程または博士課程に在籍している学生ということになる。
では、大学院とは、修士課程とは、博士課程とは、ということになるし、もっと言うと大学とはどういうところなのかという疑問につながるだろう。
じゃあその「大学院生」というのは一体なんなのか、それとBTSの活動にどういう関係があるのか、また影響があるのか、というのが今回の関心事だと思われる。

自分自身もよく「ミッキーっていま何してるの?」と聞かれる。これは僕が「大学院生」であることを知っていての質問だ。
僕もまぬけに「大学院生だよ」と返すが、たいてい相手はわかったようなわからないような表情で自分の間違いにすぐ気づく。
では、何と言えば正解だったのか。これはいまいちよくわからない。
それを知りたい相手がこれを読むかわからないけれど、ここで一度大学院生として自分が一体何をしているのか大学院生とは何か、そして、規模はともかく自分にも少し経験がある、大学院生でありながら芸能活動をすることについて解説をしてみたい。

なお、ここに書くことは単に自分の経験や事情を語るものであり、大学や研究分野、地域によって事情は異なるということをご承知おきください。もちろんBTSの皆さんに言及するものでもありません。

大学生と大学院生の違い

まず、大学には学部に在籍する大学生と大学院の研究科に在籍する大学院生とが学生として所属している。(他にも研究生や科目等履修生などが講義に出席しているが、今日は大学院生にフォーカスするために説明を割愛する)

とても簡単にいうと、学部を卒業すると大学院に進学できる。(大学院への進学条件は他の方法もあるが一旦これも割愛。そして修士課程を終えると博士課程に進学ということになる)
そのため、大学生の延長、学部の続きとしてもとらえられることの多い大学院だが、大学生と大学院生の生活はだいぶ違う。全く違うとも言えるかも知れない。とりあえずミッキーの場合は違った!

◆そもそも大学とは…
大学院を含め、大学では、卒業所要単位(卒業するために必要なポイントみたいなもの)取得のための授業(講義)を自分である程度自由に選択することができる。
高校までは単位のための授業やその時間割がすでに決められていたが、大学では月曜日の1時間目にどの授業を受けるか、または授業を受けないのか、を自分で決めることができるのである。
ただし、学部では必修と呼ばれる卒業までに必ず単位を取らなければならない授業が存在することが多く、そのいくつかは、例えば月曜日の1時間目にしか開講されないということがあるので、自動的に時間割が決められているのと同じことになる。

大学では履修登録をして授業に出席し単位を取得するわけだが、履修は学生次第なので自分だけの時間割を作ることになる。
ただし、履修していることが大学に在籍する条件にもなるので、全く履修しない、大学にいながら授業に出席しないということはルール上では認められていない。(例外もあるのでそれについては調べてみてね)

また卒業要件単位を取得し終えないと卒業はできないので、必修を含め、決められた数の授業に出席しなければ学部を卒業することはできないのである。

しかし!

大学院はこの卒業(修了)要件単位が学部に比べると非常に少ない。また必修らしい必修はないことが多く、自分の研究に必要な講義に出席していればそれで十分であったりする。

つまり大学院で過ごさなければならない時間、今はオンラインも含め、が大学(学部)と比べて少ないのが大学院生だというのが違いの一つだと考えられる。

では、大学院生とはより自由度の高い「大学生」なのか?
そう言えるのか?

ここまで見てきた授業との関わりで言えばそういうことになるかも知れない。そのため、先ほどのような「大学生の延長」としての大学院生という見方も生まれてくる。

しかし、何故大学院生にはそれほど時間があるのか。

それは研究のためである!!!!!

研究とは何か

大学院における修了要件単位の最たるは修士/博士論文の提出と合格である。この論文には、所属する大学の大学院生として、在籍期間中の研究の成果をまとめる。つまり、修士であれば2年間または3年間、博士であれば最長で6年間の研究生活の集大成がこの論文ということになる。

大学院生とはつまり研究者なのである。
(そもそもは大学生もそうと言えるはずだが、現状、論文を書いて発表するなどの研究活動が学部生としての生活の中心になっているという人は決して大学生の全てではないだろう)

これらの修士/博士論文は、学会などで発表される論文と同様、この世の中に研究業績として残るし、他の研究者(学者)が論文を書く際に参照されることもある(かもしれない)(参照されるというのはすごいことなのだ)。
学部の卒業論文、いわゆる卒論、とはここが違いだろう
以下は卒論もそうなのだが、同じ研究分野でこれまで他の研究者がどんな研究をしてきたか網羅しなければならないし、研究方法も伝統的なものでなければならない、内容もよく吟味されなければならない。つまり自分が持っている知識と考えで好きなように自由に書いても論文とは認められないのである。

大学院生は、論文を書くために必要な知識と(ある程度の)スキルを身につけ、また他の研究者(学内であれば大学院生、大学生、先生など)と内容について議論しながら、修士/博士論文の完成を目指す。

大学院の授業では、この必要な知識のために先生も含めた出席者全員で研究に関連する本を読んで教えあったり、意見を交わしたりすることもあるし、また自分(出席者)の研究について発表を行い、同様に議論を行うことが多い。実験などを伴う分野では、そのように身体的な活動も伴うだろう。

しかし、いずれもこうした研究活動に90分の授業時間だけでは全く足りない(大学院の授業はしばしば延長するし、オンラインの今は150分コースもざらだ)。なのでほとんどの研究は授業時間ではない時間に行われる。
しかし、これでも全く足りない!

今自分が研究している分野や書こうとしている論文の内容について、これまで既にわかっていることを把握していること、またそれらが自分の研究にどう関係しているのかを理解すること絶対に必要なのだが、そのためにどうしたらいいかというと、とにかくこれまでの研究成果を全部読むしかない。
もちろん映像が資料であれば全部見る、音声ならば聞くなど。ただ基本的に研究成果は論文、書籍など文字化されているのでとにかく読むのが研究者(大学院生)の仕事の一つなのだ。

研究者の仕事、研究者という仕事

仕事というとぴんと来ないかも知れないが、研究者が持っているこの知識や思考こそが財産であり、それを他の人に伝えていくために例えば研究者としてのみならず(イコールでもあるが)先生として、専門家として、書き手や話し手として広くその情報がアウトプットされていくので、読むことは勉強であり、トレーニングであり、そのものが仕事でもあるのだと自分自身は認識している。仕事のための仕事とでも言えるだろうか。

では、こうした研究者である大学院生の生活と他の職業を両立できるかというと、結論から言えばそれをしている人は実際にたくさんいるのでもちろん可能だろう。いわゆる仕事をしながら大学院に在籍する、ということになり、大学によっては他に仕事を持っている人を歓迎していたりする。(「社会人入試」などがその例)

そういう大学院生は自分の周りにも少なくなかったが、ただただ大変だということは間違いない。2つの仕事をしているということになるので、バランスを取るのが難しいというのが大きな理由になるだろう。

しかも研究生活というのは、よくも悪くも自由度が高い。
言ってしまえば、やってもやらなくてもいいのだ。

しかし大学院生の場合、やらなければ修士/博士論文を書くことはできず、端的に言えば修了(卒業)もできない。修了すれば修士/博士の学位を得ることができるがもちろんそれもできない。(学部を卒業すると学士の学位が与えられる)

目標を持って大学院での生活をスタートさせても途中で諦める=退学ということになってしまうのである。

そもそも修士、博士になって何がしたいの?という疑問もここには浮かび上がってくるかも知れない。

これは非常に難しいが、今これを読んでいる方がしている仕事、在籍している教育機関について同じことを考えていただければよいだろうか。
つまりその目的や目標は人それぞれなので決まった答えはない。修士/博士の学位がやりたい仕事の条件ということもある。ただ研究がしたい、というのももちろん理由になる。研究をする、また今後続けるために大学に大学院生として在籍している。
しかし、こうした研究成果が資本主義的な視点で言えばお金にならないという問題もあり、この意味で大学院の在籍と他の仕事(経済活動)を両立しなければならないという事情も生まれてしまう。

研究者として研究費が与えられる制度もあるがその門は極めて狭く、「優れた」研究に対して、というよりは「優れて」見せることに「優れた」研究でなければそれは難しいということもあるだろう。日本以外で地域によっては大学院生に給与が支給されることが一般的であると言えばこの状況が伝わるだろうか。現状は大学などで授業を持つ、メディアから依頼を受けて書く、話す、講演を行うなどが研究に関わる大学院生の経済活動となっている。

大学院生と芸能活動

と、ここまで分野を問わず広く大学院生の生活について解説してきたが、最後に芸能活動との両立について触れたい。

自分には修士、博士とアイドル活動をしながら大学院生としての生活を送った時期があった(ある?)。これには上に書いた通り大学生との両立とは、また違う難しさがあった。

1番はやはり自由度の高さがネックになった。
アイドル活動においては、ライブやイベント、レッスンなどの時間以外にも配信やSNSなど自分で時間を使って発信し続けることが求められる。
つまり移動中に「次のライブのために効果的な告知を考えて画像や動画を作成しツイートする」か、「研究に必要な論文やもう何週間も読み進められていない難しい本を読む」か、は自分の選択になるわけだが、目の前のライブを考えると自分の場合はどうしても前者が優先された。これは台本を読むか、論文を読むか、とも置き換えられる。

芸能活動も研究生活と同様に一見プライベート/オフのように見える時間の使い方が非常に重要な仕事である。
そしてそれらの仕事に関わる他の人のことを考えると、共同研究でない限り個人の仕事である自分の論文と、チームで動くことの多い芸能の仕事では、時間の取り方が変わってくるということも影響は大きい。融通が利くかのように見える研究活動は生活の中で隅に追いやられがちになってしまう。
学業との両立というが大学院の場合、誰かに決められている拘束力のある学業ではないだけに責任は自分にしかなく、バランスはどうしても悪くなってしまうというのが自身の感想だ。

大学院生でありながら芸能活動を行うことはそういう意味では難しくないのかも知れないが、芸能活動を行いながら修士あるいは博士の学位を得るということはかなりの努力を要するだろう。

修士課程に在籍しながら芸能活動をしている尊敬すべき後輩もいるし、修士での同期は偶然だが現役のモデルだった。以前共演したアイドルさんには博士課程に在籍されている方もいらした。頭が下がる思いである。

アイドルと研究者の共通点

修士でも博士でも研究生活の中で体調を崩す仲間が少なからずいたし、修士論文を書き上げられず修了を目前にして行方が分からなくなってしまった友人もいる。志半ばにしてドロップアウトを選ぶ修士の学生も珍しくない。
これは誤解を恐れずに言えば、芸能活動の中で出会った仲間、先輩、後輩にも共通することである。

何故自分がこのような共通点を持つ2つの世界に関心を持ってしまったのだろうと思う。この2つを両立するには精神的にも肉体的にも体力が要る。

大学院生でいる、という選択には研究目的以外のこともあるかもしれないが、修了することを目指せば研究活動を免れることはできないはずだ。

研究活動は目には見えにくいが体力を要する。

難しい本を2、3時間読めば疲れるし、3時間も論文を書けば休憩が必要だ。90分の授業や研究会で人の話を聞いて理解し自分の意見を言う時に自分は滝のような汗をかくし、2万字程度の論文を書き終わった時にはベッドに倒れて1日起き上がることができなくなる。(ちなみにここでは2万字書くことが難しいのではなく、書きたいこと、書かなければならないことを2万字に縮めてまとめることが難しいことが多い)

体力は、時間や文字数などの数字で計算するよりも、たとえ短い時間でもそのために頭を働かせることで想像以上に削られていく。これは自分でもうまく把握ができず、思ったよりも疲弊していて体調を崩すということが珍しくない。(これには特に博士課程に進んでから気が付いた)

大学院生や研究という言葉からその内実をイメージすることはできないだろうが、目に見えない苦労の多い仕事であるということが言えそうだ。

ここでは多くを語らないが、これもアイドルに共通する。

「ミッキーっていま何してるの?」

ミッキー(私)は、夏が終わるまでに博士論文のために1、2万字程度の短い論文のようなものを書き、大学に提出、合格しなければ自動的に退学になる予定である。大変ピンチである。
毎日本を読んだり、少しでも書いたり、考えたり(これが全く目に見えないけれど重要)しているが先が見えずにいる。

あわせて発売予定の本のためにもいくつか原稿を書かなければならないし、海外の学会で発表予定の研究についての原稿も準備しなければならない。
そして、今これを書いているように、今現在の自分の考えをまとめて発信して誰かに届けることもしたい。

その合間にもちろん休みも遊びもする。経済活動(バイト!先生のお手伝いをしている)もする。でもその間も研究についてはずっと考えているし、会っている相手によっては研究の話もする。

「ミッキーっていま何してるの?」に対する具体的な答えはこんなところだろうか。

ここで書いたような状況はもちろん大学院生、研究者とアイドルに限ったことではないし、全く別の職種、業種でも重なる部分が大いにあるだろうと思う。
また冒頭にも述べたが、大学によって、大学院によって、地域によって、またそれぞれの状況によって違いはたくさんあるので、必ずしもここで言ったことが全ての大学院生に当てはまるということではない。研究している分野や内容によっても事情は異なる。
もちろん、繰り返しになるが、BTSの皆さんのご事情を解説するものでもない。
しかし、もし大学院や大学院生、芸能活動との両立というキーワードで何か情報を求めている方がいらっしゃって、少しでも参考になるならばそれは大変嬉しいことである。
また僕の生活について知りたいという方がいらしてくださって、その一助となれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。

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