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12 チェコ人と魚と魚料理(魚)

菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)

ヴィエラの最も素晴らしいところは、昼も夜も、好んで魚を食べたことだ。
(「ハガツオ」より、p.120)
イルカは魚にご執心だった。というのも、彼は魚を食べるのが好きで、彼の奥さんのダナもまた、魚が好物だったからだ。
(「ジェフリチカ」より、p.139)

チェコ人は基本的に魚(ryba)をほとんど食べない、と個人的には思っている。自分のチェコ人知人たちのうちで、魚介類を好んで食べるのはひとりだけだからだ。それに加えて、食べないわけではない、という方がせいぜいふたりいるくらいである。だから、オタの奥さんのヴィエラやイジーの奥さんのダナが「朝も昼も夜も好んで魚を食べた」り「魚を家に持って帰ると愚痴を言われずにすんだ」というくだりは、信じがたい。そこまで魚料理が大好きなチェコ人って、本当にいるのだろうか? いるとしても、人口の何割くらい存在しているのだろう?

チェコには海がない。だから魚は基本的に淡水魚である。川のよどみや池あるいは沼に生息している魚は泥臭さが強く、それゆえ、魚自体があまり好まれないのだろう。魚好きなチェコ人は、魚料理の上手な家庭で幼少期を過ごしたか、川の上流域で暮らしたことがあって、香りのよい急流の魚を食べた経験のある方なのかもしれない。

チェコでいただいた魚の塩焼き

(チェコでいただいた魚の塩焼き)

チェコで例外的に魚がもてはやされるのは、なんといってもクリスマス直前であろう。チェコではクリスマスに鯉(kapr)を食べる風習がある。クリスマス前になると、鯉を一尾生きたまま購入し、バスタブなどでクリスマスまで生かしておくのだそうな。鯉はフライで食べる。友達に言わせると「揚げたてならば、まだ何とかいける。でも翌日の冷めたものは、泥臭さが鼻について食べられたものではない」。しかし、鯉の味には育て方が大いに関わっているだろう。いつかは鯉の名産地と呼ばれる南ボヘミアに行って、名だたる鯉料理を賞味させていただきたいと思っている。

ところで、オタの兄、イジーが考案した「鯉のユダヤ風」はなかなかの逸品のように思えるが、いかがだろうか?

鯉の切り身に小麦粉をまぶせ。油をひいたフライパンに、玉ねぎ、魚のスープ、白ワイン、ニンニク、刻んだパセリと一緒に鯉を入れて、蒸し焼きにしろ。出来上がったら、その煮汁も注ぎ、アンチョビとエシャロットのピクルスと蒸し焼きにした白いマッシュルームを添えろ。むにゃむにゃ。
(「ジェフリチカ」より、p.142)

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