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22. ロフリークについて(食べ物)

菅寿美(『ボヘミアの森と川 そして魚たちとぼく』訳者)

ロフリーク(rohlík)はチェコでもっとも親しまれているパンだろう。長ひょろいロールパンとでも言えばよいだろうか、淡いきつね色の角(つの)形をした、むっちりとした食感のパンである。スーパーではパンのコーナーの一隅で無造作に山積みにされており、一本10円程度、若いお母さんが未精算のものを幼児に食べさせながら「これもお願い」とレジを通過しているのをしばしば目にした。プラハでは、屋台で、ロフリークにソーセージを突き刺した(!)ファストフード、パーレク・ヴ・ロフリークゥ(párek v rohlíku)を目にする。“ロフリークの中に入れられたソーセージ”の意味で、ホットドッグのチェコ版であるが、“ロフリークで簀巻きにされたソーセージ”の見た目はミノムシのようで、何ともユーモラスだ。

ロフリーク

(ロフリーク)

パン生地を蒸したり茹でたりして作るクネドリーキ(knedlíky)やジャガイモと並んでよく主食にされるロフリークだが、ハムや野菜をはさんで、朝食やおやつに食べることが多い。チェコで朝食付きの宿に泊まると、たいてい、薄切りパンや丸パンとともにロフリークも並べられ、ロフリークを選んだ人たちは、パンの腹に切れ目を入れて野菜やハム、チーズをはさんで食べている。私は香ばしいかおりと生地の弾力を堪能するため、バターだけを塗って食べるのだが、今までそういう食べ方をしている人は見たことがない。おいしいんですけどね。

乾燥してカチカチになってしまったロフリークは、挽いて自家製パン粉に生まれ変わる。

チェコのパンは小麦の香りがしっかりと香り、とてもおいしい。この10円足らずのロフリーク、たとえスーパーで買った大量生産品であっても、とにかく満足できる味わいであり、お勧めである。

カモメは似ていた。まだ寒かったころ、そして冷え切った心を善行で暖める必要があったあのころ、国民劇場へと通ってロフリークをやっていた、あの鳥に(「ハガツオ」より、p.128)

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