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書の海に入る

書の海に入る

という感覚が、

教授たちの研究室に入った瞬間に湧き上がる。

何というか、まだ整理されていないものも含む

混沌とした思考自体に直面しているようで

ざわざわする。

昨日、研究の中間発表を終えたとき

作ったレジュメに書き込みを加えて

返してくれた教授がいた。

今日はその教授の授業があり、

終了後、さらに研究について少し話したあと

一冊の本を貸してもらうため、

一瞬だけ研究室にお邪魔したのだった。

ピエール・クロソウスキー『ルサンブランス』

ガラスのような、透明な破片が

青色の地とともに、煌めく海の水面のように擬態したカバーが

書籍を収める箱になっている。

今はもう絶版になっているようだ。

"La ressemblance"とは

類似、似ていることだ。

何かに似たい、似せたいという欲望は、

人間あるいは動物にとって

最も原始的な欲望かもしれない。

「学ぶ」の語源は「真似ぶ」であり、

子どもは大人や動物、あるいは植物までもの形や動作を

真似ることで学ぶ。

タコは周囲の環境に合わせて、

色や形を自在に変えることができる。

敵や獲物に見つかりにくくするためでもあるが、

身体の変化自体を楽しんでいるようにも見える。

本を借りたあとは、

とある映画を観に水道橋まで。

とその前に、少し時間があったので

近くの神保町で古本探索をすることに。

初めて入った神田古書センターで、

歌舞伎研究の棚にあった

郡司正勝『おどりの美学』

を、ぱらぱら読んでみる。

文体が読みやすく、面白く

歌舞伎に限らず舞踊における身振り全般にわたって

考察されている。

ほぼ即決で買ってしまった。

歌舞伎における動きの型

あのゆっくりとしていて、かつ時に鋭い見栄があるような

あの極端な形式について

ちょうど探りたいと思っていたのだった。

映画の上映時間が近づき、

アテネ・フランセへと向かう。

今回はこのような二本立ての上映イベントだった。

アピチャッポンの初期作品が目当てだったのだが、

連日の疲労感もあり、しばしば眠りに落ちてしまう…

そして多少睡魔の不安を残したまま、

ガリン・ヌグロホ監督『天使からの手紙』へ。

ヌグロホ監督、名前も知らず初見だったのだが

ものすごく面白い…!

主人公の少年レワに寄り添うように

物語は進んでいくのだが、

カメラはあくまでも第三者的目線を貫いており、

村特有の儀礼や各村の共同体意識、動物の扱われ方、ジェンダー意識など

フィクションの中にもリアリティのある人類学的要素が

織り込まれている。

2時間の映画だったが

見入ってしまっていた。

横浜からはなかなか遠いけれど

かなり密度の濃い一日になってよかった。

アテネ・フランセの階段脇には

三角形のシャープな小窓。



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