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ちょいちょい書くかもしれない日記(早すぎる)

午前6時、正確に言えば午前5時53分、枕元のスマホが鳴った。
昨年の夏、こうやって早朝に何度も病院から電話があり、その都度、父の容態は階段を元気よく降りるように悪化していった。
以来、いわゆる「時間外」の電話には、ちょっとナーヴァスになっているかもしれない。
まあ、そうでなくても、深夜と早朝の電話は、たいていろくでもない報せを連れてくるものだ。
まさか、施設から? 母に何かあった?
瞬時にガバッと跳ね起きた私は、スマホを手にした。
しかし、画面に表示されているのは、知らない携帯電話の番号。
セキュリティソフトは、迷惑電話だとは言っていない。
とはいえ、100%ヤバい電話を弾いてくれるわけではないとわかっているので、ちょっと躊躇った。
このまま無視してしまおうかとも思ったが、時間が時間なので、一応、出てみることにする。
果たして、電話の相手は、遠くに住んでいる叔父だった。
母の妹の夫、というポジションの人だ。
これまで、電話してくるのは決まって叔母のほうだったので、叔父の携帯番号を知らなかった。
実は、叔父叔母は揃って認知症で、しかも子供のいない二人暮らしだ。
気には懸かるが、自分の親のことでまあまあ手いっぱいだったし、物理的な距離もある。
何より実の娘でも、親のことには、簡単には立ち入れない。
代わりにやってあげられないことだって、山ほどある。
叔父叔母ではなおさらだ。
そもそも、叔父叔母までひとりで背負い込むのは無理ゲーが過ぎる。
これまでも、できる範囲の手助けだけは……とちょこちょこやってはきたが、万全にはほど遠いとわかっている。
何か起こったんだろうかとドギマギしながら「どしたん?」と訊ねたら、「いやあー、どうしてるかなあと思って。お母さんが」とのこと。
ガクッと力が抜けた。
叔母も電話を替わって、「声が聞きたいなあと思ってねえ~」とのんびりしたご様子。
まあ、機嫌よく暮らしているなら何より。
母の近況を知らせて、こちらに来ることがあったら早めに知らせてほしい、母と面会するには事前予約が必要だから……というようなことを伝えて通話を終えた。
いやもう、気にしていただいてありがたいんだけど、いかんせん時刻が早すぎる。
叔父叔母は4時頃には起床すると聞いているので、彼ら的には十分に遅い時間帯のつもりなのだろう。
私が日中仕事で忙しいので、朝早くがよかろう、という気遣いかもしれない。
しかし、精神衛生上よろしくないので、せめて9時以降でお願いね、と伝えておいた。たぶん覚えてはくれないだろうが。
それにしても、男性陣はきまって母を案じ、女性陣は私を凄く心配してくれる。きっぱりわかれていて興味深い。

早起きしてしまったので、学校に出勤する前にロールキャベツを仕込んだ。
この暑いのに。
まだ早い、早すぎると思いはしたが、何しろ丸ごとの美しいキャベツがとても安かったのだ。見逃したくないくらい。
自分で素人畑をやってみると、このキャベツひとつ作るにも、プロの知識と経験とスキル、そして重い労働が必要なのだと骨身にしみてわかる。
それを「安い」と感じる値段で買えたことは感謝に堪えない。
ゆえに、速やかに、美味しく無駄なくいただかねば。
となると、やはり作りたいのはロールキャベツだった。
傷むと困るので、余った分は、速やかに冷凍しなくてはなるまい。
トマトスープで煮込んだロールキャベツは、家族全員の大好物だった。
特に父は、スープをご飯にかけて、嬉しそうに根こそぎ平らげていた。
親の好きな料理をひとりのテーブルに並べるのも、仏壇のない家での供養であると感じている。

昨夜は、Eテレの番組で、小津安二郎が亡くなった歳が60と知って驚いた。
早すぎる。
何だかもっとおじいちゃんのイメージがあったが、それはむしろ彼の作品で多く主役を務めた、笠智衆さんのイメージであったかもしれない。
そして今夜は、マギー・スミスさんの訃報をBBCのブレイキング・ニュースで見た。
89歳。
89歳まで現役であるというのは、なんと充実した人生だろう。それでもきっと、まだ挑みたい役、出演したい作品があっただろうと想像する。
つい、彼女より10歳も若い母のことを、思わずにはいられない。
母のチャレンジは、いつだって家族のための何かだった。
母がせめてひとつでも、自分自身のためにやりたかったことを思い出せたらいいのに。
そして、私がそれを叶えてあげられたらいいのに。

こんなご時世なのでお気遣いなく、気楽に楽しんでいってください。でも、もしいただけてしまった場合は、猫と私のおやつが増えます。