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新生スパーズのプレーモデル

23-24シーズンよりスパーズの指揮を執ることになったポステコグルー
監督就任前は疑問符を大いに投げかけられ懐疑的な見方が多かった彼だが、4試合を終えて無敗
EPL月刊最優秀監督候補にもノミネートされている
そして何より、そのプレー内容に称賛の声が挙がっている
この記事ではその一端を紐解いていく



ビルドアップ


ポステコグルーはボールを支配し攻撃を好むスタイルだ
そして早くもそのスタイルを体現している、その要因を見る

両偽SB

データサイトでは4231と表記されることが多いが、実際には433のようにプレーする
現在のスパーズでは両SBが内側に入りMFのようにプレーする、所謂偽SBだ
しかし決して積極的にボールを触りテンポを作ることを求めているわけではない
その目的は相手のプレスを中央に誘導することにある

両SBが中央に絞ることによってCB→WGへのコースを開き一息に前線へボールを送ることが狙いの一つ
黄色いエリアはCBが運んで使うことも、IHが開いて使うことも出来る
ボールのあるサイドへ全体がスライドし、SBが大外レーンへ寄った場合でもIHがハーフレーンから降りてきてボールを受けることもよく見られる

立ち位置の厳守

前述のとおりIHとSBは非プレス状況によって動くことを許されているが、DMと両WGはポジションを厳守することが求められている
WGは常にサイドライン際でとても高くポジショニングすることで相手のSBをけん制、カウンター時に脅威となると共に、攻撃の起点としてサイドからのプレイメイキングを求められる
また、このビルドアップの終着点はサイドに高く張ったWGである上
そこから実際に相手ブロックを崩すことに移行する性質上、WGが下がってボールを受ける事は避けるべき事象である

相手DFラインは更にタイトにプレスしようとすれば後方に広いスペースを残すことになり、WGの裏抜けをカバーしようすればプレスが間延びしバイタルエリアでIHやCFにボールを受けさせるスペースを残すことになる
WGの位置取りには相手の判断を鈍らせるジレンマを与える効果もある

DMは相手のプレスに捕まっている状態でもCBの間の高い位置にポジショニングすることで相手のプレスを誘導
サイドへのプレッシャーを減らすと共に、相手のマークが緩んだときは中央からそのまま前線に運んだり、逆サイドへ展開する起点となる

攻撃・崩し

多くの場面でスパーズの攻撃はサイド、特にWGを絡ませて行う
しかし単純にWGがドリブルを仕掛けてクロスを上げる古典的なサッカーではない
明確にデザインされたパターンを見る

サイドアタック・ハーフレーン活用


WGが相手のSBと正対するシーンがビルドアップの終着点だ
これ自体はスパーズに限らずWGを採用するチームであれば実際の試合中によくみられる形である
特徴的なのはここからの徹底したハーフレーン攻めである
そのパターンをいくつか画像で紹介しよう


パターンA

フリースペースに飛び出したIHにシンプルにパスを出す形
IHはここから自分でシュートを打つことも、クロスをあげてアシストを狙うことも可能

パターンB

IHに相手がついていった場合は、それにより空いたスペースをSBが使うことが可能
SBはアーリークロス、更にドリブルでPA内に持ち込むことも視野に入る

パターンC

SBへのパスを警戒され中へのパスコースを塞がれた場合はWGがそのまま外へドリブルすることでPA内への侵入を狙える

パターンD

相手が外を切った場合、カットインしロングシュート
飛び込んできたLWGへのクロスなども選択肢に入る

多彩な攻撃

上に上げた4例は、極端な図解であり試合中はSBがスペースに飛び込むことも少なくないし、カウンター時にはIHがサイドで相手と対峙する役割を担当することもある
流動的にポジションを変えても、役割は立ち位置に基づいているのである
誰であれハーフレーンへの飛び出しをする事により、ボールを持つプレイヤーの選択肢を増やすことを目的とする
ボールホルダーはパターンA-Dを選ぶことが可能になり、相手選手は複数の事象に対応しなければならず、判断の遅れを発生させる
これはポステコグルーの支持する戦術の根幹を成すものと言えよう

その徹底具合はPA内でも見られるほどで、スペースに余裕のない狭いエリアの中でもCBとSBの間を突くシーンも多く見られる(これは厳密にはハーフレーン攻撃ではないが、その狙いと効果は相似している)

ディフェンス・プレス

ハイライン・ミドルプレス


守備時にはIHが位置を上げ相手のCBに付く4-4-2の形に
外側からプレスを掛けることで中央、相手GKへのパスを誘導しそこからロングボールを蹴らせることが狙いのように見える
前線へのロングパスはインターセプトと激しいマークで対応、CBの裏へ出されるパスは速さ勝負で回収を目論んでいる

相手の中盤が三枚の場合は、IHが一つ高く取り相手のDMを監視
空いた相手IHはCBが位置を少し高く取りマークをずらすことになる

プレスは所謂ストーミングのような常に激しく行くことはなく、あくまで相手にロングボールを蹴らせることが目的
そのため相手のプレス回避が巧みな時は、素直に自陣まで下がりブロック形成することも多い


自陣でのブロック形成


自陣内でブロックを形成するときはWGがハーフレーン付近にポジションを取り内側への侵入を阻害
CF化していたIHが相手CBへのプレスを緩め+1として他の中盤への助けとなるプレッシャーをかけていく
緑色のエリアを使われないことを一番の目的にしている様子
相手WGを外へ追い出すことでロングシュートや危険なクロスを避けることに繋がる

総評


ポステコグルーの志向するサッカーは確かなビジョンに基づいて構成されており、これは特に近年のスパーズには見られなかったものだ
そしてその落とし込みも素晴らしいスピードで始まっており今後の期待を大きくする
欧州大会の無いチームが今シーズン如何なる内容、そして結果を出すか
スパーズの今後を大きく左右するシーズンになるだろう


著 堺屋本舗




著者所感

就任直後からFマリノス時代の指揮についてブログを漁ったり、いくつかのインタビュー記事を読んだり、セルティックの試合を見たりしました
こういう時、英語でも日本語でも情報が溢れているのは元Jクラブ監督のメリットですね
さて、巷で言われていたのは結果は出しているが独特なサッカーであり、特にグアルディオラ(ポジショナルプレー)の流れを汲む方ではないという評価でしたが、蓋を開けてみればかなり先進的、理論的なサッカーを志向している監督でした
コーチ陣がお抱えでなかったり、積極的に選手と話をしに行かないスタイルと言われながらも速い戦術の落とし込み具合は指導能力の高さを伺わせます

この記事ではモデルについて記しましたが、EPL開幕から選手は配置について試行錯誤し、4節のバーンリー戦で遂に花開いた印象です
第1節と第4節を見比べれば全く違うチームであることが明白
この変化とその的確さも嬉しいサプライズでありました
今まで能力を腐らせてた選手達も再生し、しっかりと戦術志向に適した選手を今夏獲得できたことも大きな要因でしょう

試合内容については勿論まだまだ課題はあります

ディフェンス時に相手GKにロングボールを蹴らせることに成功してもDFラインを上げれず、そのままキープ前進されてしまう点、特に相手WGに向けたパス
ビルドアップ時、狙い通りに相手を中央に密集させることが出来ても、その外側に生まれたスペースを使えない
中央で捕まっているSBへパスを出し危険なシーンになることがよく見られること
特定の選手が起用されることによって立ち位置のズレが発生、転じてビルドアップが崩壊すること 等々

しかし監督自身も言及するように新加入選手も多く、戦い方を大きく変えたチームではお互いを知ることで歯車も合ってくるでしょう
何より、久方ぶりに見るのが楽しみなスパーズが帰ってきてくれたことを嬉しく思います


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