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CASE14:Heaven

ーやや強めの風に、緑色のカーテンが軽やかに跳ねるー


女A「なんだか風強くなってきてない?やだぁ、もう。」

女B「なんかさー、最近多いよね。突然の天候変化。早くかえりたーい。」

窓際の50代女性のペアが口早に話しながら仕事を放棄し雑談に花を咲かせている。

(風が吹いていて…私の元には何が吹く。)

彼女は風が滑り込んできた窓の内枠から、遠くの空を見つめてみる。

「purururururu」

コールが鳴り響く。

女1「はい、株式会社◎◎でございます。」

つまらないコール対応。

仮設的に作られたテーブルに、狭い感覚で並んだ女たち。

仮設的に雇われた彼女たち。

一日中、本当に必要なのか分かりかねる仕事を流れ作業でひたすらこなす。

流れる雑務を横目に、さわやかな風は少し勢いを緩めて冷たいそよ風に代わる。


女1「あーーー疲れたよねーーーー。もう帰ろうーーー。」

女2「はい、お疲れさまでした~。あ、お疲れ様で~す。」

仲良く二人で帰っていく女たち。

反対方向の出口から出ていく彼女たち。

(一緒にずるずるとつるんでいないと、息でも止まってしまうのかしら。)

彼女は嫌なことはすぐにでも忘れようと足早に帰路につく。


部屋についた彼女。

明かりをつけると、オレンジの暖色が彼女に労いとおかえりを与えてくれる。

(良い一日だった、お疲れ様、ワタシ。)

彼女はおもむろにパソコン画面を開く。


お知らせ:メッセージ 1件

(だれだろう。)

彼女の頭は疲れ切っている。

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 表題:是非一度、お話させてください。

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(なんだなんだ?変なタイトル…新手の勧誘かなんか?)


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 本件:こんにちは。突然のご連絡を恐れ入ります。

 関東でモノヅクリと人材育成、その他さまざまなビジネス

を営んでいるヤマヨシと申します。

 手短にご用件をお伝えさせていただきます。

 先日、貴殿の存在を知人伝いで耳に入れました。

 突然の申し出となり恐縮ですが、一度お会いしてお話させていただけませんでしょうか?

 下記に連絡先を掲載しておきます。

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そして知らない連絡先が張り付けてあった。

(こんな稚拙な内容で、誰がひっかかるんだろう。)

「今日も疲れた。」

一言呟き、紅茶を入れるためにポットに水を注ぐ。

(pipon!)

妙に軽い音で、メッセージ受信音が鳴った。

(だれ。もう疲れた。)

メッセージ画面には数年前に一度だけ会ったことのある、友人の先輩の名前が表示されていた。

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 表題:お久しぶりです。

 本件:ご無沙汰しています。四年前、大学の件で〇〇から連絡を頂き、名古屋駅のカフェで少しお話させていただいたウノです。お元気されてますでしょうか?

 突然の連絡を失礼しますね。

 僕、今関東でサラリーマンをしながら文学を趣味で続けているのですが

 先日、ネットですてきな記事を見つけました。気になったので自己紹介文を見て、貴方を思い出しました。

 アイコンの中に小さく映る女性と、文章の雰囲気を見て、僕は貴方へこのメールを送っています。

 同時に、隣にいた知人にこの人へ連絡をとってみてはどうかと伝え、その知人は昼頃その記事の作者へメッセージを送りました。

 奇人扱いされることを承知でこのメッセージを送っています。

 届きましたか?

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(なんだ)

(この感覚は)

(久しぶりだ。)

彼女は先ほどの連絡先を開き、一言だけ入れて返送ボタンを押す。


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 表題:Re是非一度、お話させてください。

 本件:時代は常にわたし達の様な者たちを離しませんね。

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沸点を超えた湯の傍で、彼女とやわらかく光る画面は淡々と見つめ合い

奇数の階層が動き始めた。



 


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