インターンシップの積極的活用
■昨日、日本の人事部主催のカンファレンスで講演しました
文科省、経産省、厚労省と経団連も入った議論の中で、これまで曖昧だった「インターンシップ」が4つのタイプに分けられました。特に「one day」で行われてきた、ほぼ会社説明会と思われるような内容のインターンシップは、今後、インターンシップという名称は使えなくなり、「オープンカンパニー」と呼ばれるようになります。
この三省合意におけるインターンシップの前提は、あくまで学生のキャリア形成支援という位置づけであり、採用活動の一部ではないので、企業の立場から見ると違和感のある内容になっているかもしれません。
そうした変化に対し、消極的に考えると面倒だなと感じてしまうかもしれませんが、逆にこれを活用しようというのが私の昨日の講演のベースになっています。
■企業の人事が「社会のムダ」を必死に産み出している?
インターンシップを実施する目的は、企業側の立場で言えば間違いなく「新卒採用の成功」だと思います。そして新卒採用の成功を具体的に言い換えるならば、採用の「量」と「質」が満たされている状態のことだと思います。
ここで重要なのが「量」と「質」の二点あることです。企業の人事がこの二点の両方を満たすために、どこまでコミットしているのか?に関し、私はこれまで大きな疑問を持ってきました。もう少し平たく言えば、「量」にはコミットしているが、「質」は入社後何年か経過しないとどうせわからないのだから、そこは目を瞑っておこう、というのが本音ではないでしょうか。もちろん、足切り的に「流石に・・・」という判断をしたケースまで合格とはしていませんが、かといって、入社後活躍する可能性が高い人材に絞っているとも思えません。採用難易度が高くなっていることも、それに拍車をかけている可能性もあります。
しかし、入社後活躍するかどうかわからない(当然ですが)前提で、頭数だけを合わせる採用に、どんな価値があるのでしょうか?入社後3年以内に3人に1人は退職することが当たり前になっています。この現象は、社会的に見れば相当な「ムダ」であり、その「社会のムダ」を産み出すことに、企業の人事が多大なる投資をしながら必死に取り組んでいるということになってはいないでしょうか。
■なぜ企業は、新卒採用時の判断を「活躍する可能性」で判断できないのか?
このような現象を産み出している理由として、以下のようなことが考えられるのではないでしょうか。
・採用の「量」は定量的かつ簡単に測定でき、評価の基軸にもなっているので、わかりやすい「量」にコミットする
・人事部門は社内で褒められることは少なく、叱られることや嫌われることが多いので、そうならないためにも、まずは「量」目標を達成することを最優先にする
・人事部門が採用の「質」を担保する方法がわからないので、外部のテスト業者と、面接官として召集される役職者に採用の「質」に対する責任を預け、「質」が問題になっても責任を回避できるような構造を作っている
・採用の「質」を担保すべき面接官として召集された役職者(場合によっては社長も含め)の面接官としての能力は未知数(敢えて言うなら、役職と面接官能力に相関は無い。なぜなら、昇格要件に「面接官能力」を設定している会社はまずないから。)
・実際は面接官能力が未知数である上位役職者に対し、面接官トレーニングを受講してくださいとは言えない
ちょっと辛辣なことを書きましたが、こうした理由により、前述したような「社会のムダ」をせっせと産み出し続けていることに、どこかで終止符を打つような取り組みを是非進めていきたいと思っています。そう考えると、結局、「活躍する人材」の定義をしっかりと検討し、さらにそれを見極める手段を手に入れるということが、問題の本質を解決する有効な手立てであることにお気づきになられるのではないでしょうか。
■選考の主体を面接からインターンシップに
ここまでお読みになってお分かりの通り、私が推奨したいことは、インターンシップのあり方が外部圧力で変わることを主体的かつ積極的に捉え、これまでの採用選考プロセスを抜本的に見直し、面接主体からインターシップ主体に切り替えていこう、ということです。
■活躍する人材とは?
選考の主体を面接からインターンシップに切り替えても、活躍する人材の定義がはっきりしなければ意味が無いのではないか?という疑問が残っていると思います。
そこで私が皆さんにご提示したいのが以下の2つの理論です。
●経験学習モデル理論
●計画的偶発性理論
人事の方なら聞いたことがあるのではないかと思います。詳細はWebで調べられますので、ここでは簡単にご紹介だけしておきます。
●経験学習モデル理論
「人は経験から学ぶ」という命題に異論を唱える方はいないと思います。一方、「人は、同じ経験をしたら同じ学びをする」という命題に対しては違和感を覚える方がたくさんいらっしゃると思います。総論として「人は経験から学ぶ」としているものの、全く同じ経験をしたからといって全く同じ学びをするのかといえば、そこに差が生じると認識しているということです。それは当たり前のことで、学校生活で、同じクラスで同じ授業を受けていても同じ学びをしないという事実があるので、その通りだと思います。
つまり、「経験から学び取る能力には差がある」ということで、その学び取る力が高い人は、経験から学び取るための思考のサイクルを意図せず回しているという理論です。
●計画的偶発性理論
ひょんなきっかけがその人のキャリアに大きな影響をもたらし、そのきっかけをキャリア形成の機会に昇華させることができる人が、社会的に成功している人には多い、という理論です。そして、そのきっかけをキャリア形成の機会にまで昇華させられる人には、5つの行動特性があるということです。
1.好奇心(≠探求心)
2.持続性
3.楽観性
4.柔軟性
5.冒険心
個人的には、本当に「実現したいこと」がある人は、好奇心ではなく探求心があって、逆算的に考え行動し成功を収めることができると思います。例えば、大谷翔平とかはその典型例ではないでしょうか。一方、特にやりたいことが見当たらない人で成功を収める人には、この理論は当てはまっているように感じます。
■インターンシップのコンテンツ設計
インターンシップを何のために実施するのか?が、もしも採用の「量」と「質」の2点とも満たしたいのであれば、三省合意の定義の中のタイプ3を選択し、5日間以上のコンテンツを作ることをお薦めします。5日も・・・と思われるかもしれませんが、何も「連続した5日」である必要はありません。
この5日間を通し、自社・業界はもとより、具体的な「仕事」を知る機会を提供することが最も大切です。そしてその「仕事」とは、その仕事を通じて得られる「期待、喜び、誇り」であり、その一方で立ち向かうべき「困難、苦労」といったものです。
さらに、これまでにもお伝えした「選考」できるためのプロセスも埋め込んでおくことで、面接よりも精度の高い判断が可能となります。
■アルー株式会社での事例
昨日は、弊社の考え方を元にインターンシップのコンテンツを作成し、実際に取り組んでいただいた事例をご紹介しました。詳細は割愛しますが、とても大きな成果に繋がっています。
具体的には、工数の削減と選考精度の向上、の2点です。今後は、もっと既存社員を巻き込んでいくことで、従業員の自社への再理解やコミットメントにもつながっていく可能性を感じていらっしゃいます。
私も、コンテンツ作成のお手伝いから当日の運営に至るまで伴走しながら見ていますが、学生にもFBするので好評です。
■これから
今後、もしも多くの会社でこうした取り組みがなされれば、前述した「社会のムダ」の削減につながるだけではありません。面接時に「やりたいこと」を問われるが故に無理やり作り出した「やりたいこと」に翻弄される人が減り、求められる人材像の多様性から学校教育まで変わっていくことに期待をしています。
最後までお読みくださって、ありがとうございます。