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「徹底反復学習」神話からの脱却 〜新型学習のすすめ〜

個人塾を始めて20年になり、この間、子どもたちとたくさん話してきたのだが、
彼らからたびたび発せられる気になるセリフがある。
「今日も帰ったら、計ド・漢ドが待っている~ (T_T) 」だ。
ほんと、あ~あ、これさえなければ、という感じで
全身からイヤダイヤダ・オーラを発するのだ。

こちらもブログでこれまで計算ドリルや漢字ドリルは
むしろ学力低下の原因になっているものとして書いてきているので
本当にいやだよねと同情するしかない。
(塾生のお母さんたちに対しては個別に担任の先生と交渉して、
なくしてもらうか、減らしてもらうかをお勧めしているが… )

とにかくこれだけ毎日毎日、計算ドリル・漢字ドリルを
子どもにやらせたい背景には
「反復学習こそが学力向上につながる」という金科玉条ともいえる
絶対的な認識があるせいだ。
この無名ブログでその弊害についていくらキャンキャン吠えたところで
なかなか世の中変わらないなと嘆いていたところ、
反復学習の効果を疑問視する研究結果を紹介している記事を見つけた♪

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 ※この記事で紹介している内容は書籍としても販売されています。

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この記事には、

1つの物事を学習・習得するには、一心に同じ内容を反復することでしっかりと覚えられると考えられていますが、同じことを1万時間勉強するような一点集中型の学習方法よりも、さらに短時間でしっかりと覚えられる効果的な学習方法が、研究によって明らかになりました。

と一番最初に書かれている。

お、これは!

である。

この記事における実験結果の数々は
私のこれまでの塾指導における経験といちいち合致する。

読んでいて、嬉しい !(*^-^*)

この記事では反復学習(記事の中では「集中型学習」とも呼んでいる)に
代わるもの
として、間隔型学習・交互的学習・多様型学習を次のように紹介している。

◆間隔型学習
 間隔型学習の効果を実証するため、研究者たちは38人の外科研修医の協力を得て実験を実施。研修医たちは、切れた小血管をつなぎ合わせる顕微手術に関する4つのレッスンを受けました。研修医の半分は1日で4つのレッスンを受け、残り半分は1週間で4つのレッスンを間隔を空けて受けています。1か月後、全員が生きたネズミの鼓動している大動脈をつなぎ合わせる実技セッションを実施。前者のグループは全ての手順において低い成績だったばかりか、16%が血管をつなぎ合わせることに失敗しましたが、後者のグループは手順・経過速度・成功数のどれをとっても優れた技量を発揮しました。
 間隔型学習が効果的な理由は、新しい知識の意味を学習し、予備知識に接続する、というプロセスを数時間・数日の間隔を置いて行うことで、長期記憶の中に知識が埋め込まれ、記憶痕跡が強化されるため。少し忘れた後に脳内で知識を検索し直すことで、記憶を統合・強化する効果があるとのことです。

つまり、ある分量を一度にやってしまうのではなく、中身を分けて、
少しずつ数日間かけてやってしまう方がよい
ということ。
計算ドリルでいえば、一度に20問も解くのではなく、
たとえば1日に2問ずつ10日で終わらせる方が効果があるわけだ。

なぜか。

まず押さえておかなくてはいけないが、
学習した内容を定着させるためにもっとも有効な方法は、
「思い出す」という行為
だ。
脳科学においてこのことはよく指摘される。

ここで、九九を覚えずして東大に合格し、
現在、脳科学、特に記憶を専門とされている池谷先生
の説を引用したい。

上記の記事の中で

多くの人は「記憶」というと、詰め込むもの、覚えるもの、入力するものだと勘違いしています。しかし、記憶力は出力しないと鍛えられない。

と池谷先生はおっしゃっている。

出力というのは、脳の中に入れた情報を取り出すこと。
つまり、「思い出す」ことだ。

現在行われている計算ドリルのように、
習ったその日に1ページ分全部終わらせると、
その内容を「思い出す」行為は一度っきり
だ。
だが、10日間に分散すれば、同じ内容を「思い出す」行為は10回になる。
脳科学でお墨付きを頂いている「思い出す」行為を反復できるわけだ。
(これが本当の反復学習。前回述べたが、よい意味での反復学習は必要なのである)

◆交互的学習
 研究によると、メインのスキルを習得するため、別の練習を2つ以上組み合わせて交互に学習する「交互的学習」も、集中型学習より効果的な学習方法とのこと。実例として、2つの大学生グループに、「くさび形・回転楕円面・球状円錐・円錐の半分」のといった幾何学的な個体の容積を求める方法を教えました。1つのグループは個体の形ごとにまとめて練習問題を行わせ、もう一方には同じ練習問題をバラバラに混同して出題。その後すぐ、練習結果を確かめるテストを行ったところ、まとめて教わったグループの平均正解率は89%に達しますが、混同して教わったグループの正解率は60%。しかし、1週間後に同じ学生を集めて最終テストを受けてもらったところ、前者のグループの正解率は20%に落ち込みましたが、後者のグループは63%とほぼ同程度を維持していたとのこと。
 10のプロセスを覚えるため、「1を覚えるまで反復して2に移り、段階的に10まで至る……」というのが従来の集中型学習。一方で、「1を数回練習して4に移り、7を数回練習して3に移る……」と、一見すると混乱を起こしそうな交互的学習ですが、長期記憶の保持に効果的であることを示しています。

この実験結果からわかることは、同じタイプの問題を解き続けると
むしろすぐに忘れてしまう
ということ。
このことを知って、
どうりで子どもたちが毎日計算ドリルをやっているのにもかかわらず、
すぐに解き方を忘れるはずだ

と思われる方も多いのではないだろうか。

忘れないためにはどうすればよいかが上記の実験から明らかだ。
違うタイプの問題を組み合わせて解けばいいわけだ。
たし算のあとはひき算というように。

同じパターンの問題だと、
またこれね。はいはい。要するに~すればいいだけ。
というように、脳にかかる負荷は明らかに減る。

だが、ちがう問題が目の前に現れると
ええと、これは今解いた問題とはちがって「◇◇の~算」だから、
脳はある種の緊張状態に置かれ、少しだけ思考を要する
この「思考を要する」ことがまたいい!
脳に少し負荷をかけた方が実は楽しめるのだ。
(即答できる超簡単なクイズ・なぞなぞが楽しめないのと同じことだ。)
ということで、真剣に取り組むことにもつながり、
長期記憶の保持に効果的ということになるというわけである。

◆多様型学習
 新しい学習方法の研究のため、8歳の子どもたちに体育館でビーンバッグ(お手玉)をバケツに投げ入れる練習を実施しました。子どもたちをA・Bと半分ずつのグループに分割し、Aグループは3フィート(約91cm)先に置いたバケツで練習を行い、Bグループの子どもたちには、2フィート(約61cm)と4フィート(約1.2m)と異なる位置にバケツで練習を行ってもらいました。3か月後、全ての子どもたちに3フィート先のバケツにビーンバッグを投げ入れるテストを実施してみると、最も成績が良かったのは3フィートのバケツで練習していない、Bグループの子どもたちだったという結果が出たとのこと。
 この実験結果は、さまざまな練習によって運動神経が熟達したためと考えられましたが、研究を進めるにつれて、異なる条件の練習を複数行うことで1つの状況を成功させるという「多様型学習」は、認識学習にも当てはまることを示しています。異なる条件による練習が脳の幅広い領域を活性化していることは、神経画像検査の研究でも判明しているとのこと。多用型学習は、異なる角度からの学習を取り入れることにより、学習がコード化されて知力が増加し、さまざまな状況に適応できる柔軟な表現力を獲得できるため、と研究チームは推察しています。

この実験結果はなかなか興味深い。

実際に行われるテストは3フィート先に置いたバケツを使って行われるとある。
ということは、常識で考えれば、3フィート先に置いたバケツを使って
何度も何度も反復練習したほうがうまくいくはずだ。

Aグループが常識通り、3フィート先に置いたバケツを使って練習をした。
Bグループは、2フィートと4フィート先のバケツを使って練習した。
(なんと、Bグループは3フィート先のバケツは一度も使って練習していないのだ。)

当然、Aグループの方が結果がいいだろうと誰しも思うだろう。
だが、実験結果はわれわれの予想をあっさりと裏切る。
Bグループの方が成績がよかったのだ。

いったいなぜこのような結果が出たのだろうか。

異なる角度からの学習を取り入れることにより、学習がコード化されて知力が増加し、さまざまな状況に適応できる柔軟な表現力を獲得できる

このような専門用語で語られてもピンときにくいので、
算数の計算問題を使って思考実験を試みてみよう。

小数のたし算を練習する実験だ。

この思考実験は、先ほどの「お手玉をバケツに投げ入れる」実験をなぞるように
AグループとBグループの条件を設定して、比較してみたい。

まずAグループとBグループともに、
同じように「小数のたし算」講義を受けた後、
テストはAグループ、Bグループが練習し、
3日後に「○○.○+○○」の形の小数のたし算で行うものとする。

Aグループは、テストで出題されるのは「○○.○+○○」だから
良い点数をとるために

64.3+28
37.4+51
95.1+69
18.6+37
59.8+76

といった「○○.○+○○」の形ばかりの問題を解く。

一方、Bグループはテストに「○○.○+○○」の形の問題が出題されるにもかかわらず
「○○.○+○○」の形ではない小数のたし算の問題を解く。

3.82+2.6
14.3+7.18
2.51+8
3.76+47.6
79.5+5.24

それぞれのグループが上記の問題を解き、その3日後に
Aグループがひたすら練習した「○○.○+○○」と同じパターンの

75.6+12

をテストとして、それぞれのグループの子どもたちに解いてもらう。

さて、どちらのグループが正答率が高いと予想されるだろうか。

これも、先ほどのお手玉の実験と同様、
Bグループの成績の方がよいだろう。

理由を説明しよう。

Aグループは 「○○.○+○○」の形ばかりを反復しているので、
小数のたし算で大切なルール、小数点をそろえるという意識が
だんだん薄らいでいった
と予想することができる。
このように同じパターンの問題を解いていけば、
手順にしたがって機械的に解くだけだ。そこに思考は介在しない。

もし仮に、練習したすぐ後であれば、
75.6+12の計算を軽く解けただろうが、
3日経つと大切な「小数点をそろえること」のルールが頭の中で希薄になっており、
あれ、どう解くんだったっけ?となる子もある割合で出てくることは、ある程度予想できる。

それに比べて、Bグループは
小数の形がばらばらである問題を順に解いていくので、
筆算を書くときに「小数点をそろえること」を念頭に置かなくては
うまく筆算の式を書くことができない。
どの問題を解くときも「小数点をそろえること」に意識を集中するはずだ。
だから、「○○.○+○○」の形の問題を1問も解いていなくても
常に「小数点をそろえること」に意識を集中することができたので
練習の段階では一度も解かなかった「○○.○+○○」の形の問題である
75.6+12をうまく解くことができるのだ。

このことから、目の前のテストの結果にこだわりすぎてパターン学習すれば、
目の前のテストでうまくいくかもしれないが
テストが終わればすぐに忘れ、知識の獲得が難しくなる
ことを教えてくれる。

さて、この思考実験から、さきほどの専門的な説明の
「異なる角度からの学習を取り入れることにより、
学習がコード化されて知力が増加」
の意味を
おぼろげながら読み取ることができる。

Bグループはいろいろ形を変えた問題を組み合わせて解く、
つまり、異なる角度からの学習をしたことにより、
常に「小数点をそろえること」を意識せざるを得ない状況に置かれたため
「小数点をそろえること」がコード化された
と。

以下、3つの学習方法を簡単にまとめてみる。

間隔型学習‥集中して一度(1日)にすませるのではなく、学習内容を分け、
     日にちをおいて数日間で、学習する方法

交互的学習‥集中して同じジャンルのものを続けてするのではなく、
     ちがうジャンルのものを交互に学習する方法

多様型学習‥同じジャンルであるが少し条件を変えたものを複数からめて学習する方法

これら3つのタイプの学習法は、これまでの反復学習の概念をくつがえす
まだまだ広く知られていない学習法だ。
実際に現場でこの学習方法が採用されれば、子どもたちの学力は確実にアップされるだろうし、特に3つのタイプを組み合わせれば、とてつもない相乗効果を産むことになるだろう。

教育現場に携わっている方々、特に教科書や計算ドリルの制作に携わっている方々に知っておいてもらいたい情報である。

もし学校で使われる教材がこの3つのタイプを融合した形の教材に生まれ変わることができれば、子どもたちが宿題に対してブーイングを浴びせるようなこともなくなるし、なによりも楽しく取り組めるものになるだろうと思うのである。


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