見出し画像

【下北での記録】お酒の出てくるタイミング

4月27日土曜日午前3時頃

生活リズムが悪いのか、寝具が合ってないのか、はたまた昼寝をしたからか…時折ふとこんな時間帯に目覚めることがある。大抵目を瞑っていれば再び眠りにつけるものの、その日は30分経っても頭は目覚めていた。

こうなってしまうと早朝酒ムーブをカマして背徳感に浸りたくなるのが人間の業である。

そうだ、スズナリに行こう。

着いた時にはもう朝の4時だっただろうか。

名目上は3時に閉まることになっている各所のバーだが、遅くまで飲んで始発を待つお客さんが多くいるため全てのお店が定刻通り閉まるというわけではない(というか体感定刻で閉まってないお店の方が多いような)。

入って右手にある行きつけのバーに入ると、カウンターに立っていたのが常にまとっている黒い服がよく似合う女の子(色のコーディネートがめんどいから服は黒で統一してるらしい)。それと二人ほどの先客。

「え?こんな時間まで飲んでたの??」

「いや、今起きた」

「え?こわっ」

最近特に異性から怖いと言われることが多くなっているのは気のせいだろうか。

「まあでも昔は朝この時間起きてフラッと寄る人とかいたかぁ。リキュールを朝ごはん!とか言って飲んでた」

僕とどうやら同じことを考える人もいるらしい。

「いやぁ、今日はつかれたぁ~。数時間前は満席で立って飲んでるお客さんもいてさ、あんなに来たの久々かもしれない」

金曜、土曜が混むというのは飲食店の性なのだろう。その中でも特に忙しかった日に早朝にお邪魔してしまいなんだか申し訳ないな、とも思いつつも出来上がったいいちこのお湯割りを飲み始める(僕は365日お湯割りで飲みたいやや珍しい人間である)。

相対性理論を中心にその子のプレイリストからイカしたロックが流れるのが常なそのお店だが、流れていたのはどうぶつの森のBGM(ピアノバージョン)だった。飲み明かしておやすみモードに入るのに良い。

「今日初めてきた人に「お姉さんお酒作るの遅いねぇ~」って言われてさぁ~。でもコップ見たらまだお酒残ってるんだよね。「私の方が飲むの早いんですけどぉ~」とか、いや言わなかったけど(笑)。まあ合わないお客さんは離れていくからね」

合わない人は仕方ない。去るものは追わず、合う人にどれだけ次も来てもらいたいと思っていただけるか。あらゆる商売について当てはまることだろう。

僕はその子が少しスローでゆるいからこそ、通っているところがある。

酒を頼み席に座って落ち着く。先客の方々の顔ぶれを見て、どんなお話をしているかをやんわり聞く。棚に並んであるお酒やカップ麺を眺め、少しスマホをイジり、会話に入れそうであれば参加する。そんなことをして少し経ったくらい、喧騒から離れてそこの心地良い雰囲気に馴染んできたくらいが自分にとってのお酒を受け取るちょうど良いタイミングなのだ。速く出れば良いというものじゃない、バーの空気に触れながら飲みたいのである。飲むだけならコンビニで買えば良いし、アルコールをスピーディに提供されたいのであればその辺のチェーンだったりの居酒屋に行けば良い。

映画館に入った瞬間に映画が始まってほしくないのと似たような理由かもしれない。到着するのにベストなのは開場20分ほど前。スマホをいじったり、本を読んだりしながら、シアターの前で心を整える。密閉された、これから暗闇になっていく空間に座り、体と心を慣らしていく。予告編で音と映像に慣れ、かつ臨場感を高めていく。作品を100味わうために、劇場の空気に馴染むために僕にはこの作業が必要なのだ。映画の配給会社や制作会社のロゴが出始めたタイミングでシアターに入ってくるお客さんは少なからずいるのだが、僕はそれだと準備ができない。

効率化や速さがあらゆる場面で求められうる現代だけれども、時間をかけたりゆっくりであった方が良いという部分は少なからずあるよなぁ、などと改めて思ったり。


そんなことを考えたりお話させていただいたりして小一時間。そろそろお店を閉めたいであろうところに長居しても申し訳ないのでお会計をお願いする。

「600円です」

財布の中にかろうじてあったコイン2枚をその子に渡す。

「あ、ちょうどだ!うれしい〜」

こういった小さなことに喜んでくれて、こっちまでほっこりしてしまうことも、リピートしてる理由の一つなのかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?