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【下北での記録】「チバが死んだ」で通じる街

3月27日23時ちょっと前

久しく会っていなかった知人と新宿で飲んだ後、いつものようにフラッと下北を訪れる。

目的地は先週の土曜日にもお世話になった鈴なり横丁。

入口から見て右側にあるバーに入ると、常連さんと見受けられる方々4~5人が既に来客していた。カウンターにいるのは赤いキャップを被った小柄な女性DJさん、流れているのはケミカルブラザーズのHey Boy hey Girl(多分リミックス)。お酒を提供する人と流れている曲によって同じ場所でも雰囲気が大きく変わる。土曜日にはカネコアヤノの曲によってやんわり空間だった場所は、その日肉眼では見えない青い光に包まれていた。

右から二、三番目の椅子に座り注文をする。

「日本酒ってありますか?」

「日本酒……ここって日本酒あったっけ?」

カウンターの一番右の席に座っている男性が女性DJさんに質問され、答える。

「日本酒……なかったと思う」

「あ、ないならちょっと考えます」

カウンター後ろに並んである棚にサラッと目を通すと、数年前自分で購入したことのあるベイリーズ。よく豆乳と飲んでいたが、DJさん曰くそば茶が合うとのことでそちらを注文。甘すぎずかなり飲みやすい。どんなオススメを聞いても必ず正解が出せる飲み屋のワーカーさんは凄い。

左に目を移せば常連さん同士の距離感の近さが伝わるような団欒。右はスマホを見ながらタバコを吸うさっきの男性。会話内容から、おそらく違う曜日にここに勤めているのだろう。会話には入らず一人ポツンと座っていたが、「話しかけんなこの野郎……」ではなく、「今は話に入らなくてもいっかな、まあ話しかけられたら話すけど」という雰囲気を出しており、周囲もそれを認知しているようだった。

よく見ると、吸っている銘柄は自分も吸ったことのあるラッキーストライクだったので声をかけてみた。

「ラキスト良いですね」

「あ、ありがとうございます。吸われるんですか?」

「いやタバコは吸わないんですけど、チバが死んだじゃないですか

「あぁ」

「その時初めて普段吸わないのにそれを吸ってみたんですけど、全っ然合わなくて。タールが多いんですかね、腹とケツが同時に痛くなりましたね」

「え、ケツもですか(笑)。へぇ、僕も似たような、映画の影響でこれ吸い始めて……」


「チバが死んだ」、だけで通じることがとても嬉しかった。

ミッシェルガンエレファントという伝説のロックバンドがいて、日本で初めてオールスタンディングのライブをやったバンドで、チバユウスケはそのボーカルで、直近はThe Birthdayというバンドで活躍していて、昨年ガンで亡くなったんだけどエトセトラ、

といった説明を一切省いて伝わったから。

東京ー福岡間をリニアモーターカーで移動するかのような速度。

僕がチバについてあえて説明しなかったのも、その人がどんな音楽を聴いているかなんて知らないけど、通じるだろうなという確信があったから。

ここは下北だから。

つくづく素敵な街だなぁ、と思ったり。





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