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『ただし、BGM』を聴き終えたジジイの俺はいかにも満足そうで聴き直し

大学の卒業とともに所属していた落研も引退したわけだが、時折様子が気になり現役部員の公演を拝見したりしている。かつて一番嫌いだった、たまに練習にやってくる面倒くさいOBに自分もなるかもしれないと思うとちょっと恐ろしい。実際に大学のある大阪へ赴くこともあるが、最近は優秀な部員が動画サイトに演目をアップロードしてくれることから、会場に行かなくても後輩の活躍を見ることができるのはありがたいことである。

落語研究会の多くは落語だけでなく、漫才やコントといったお笑いも兼ねて活動しているところが多い。公演内容もメインは落語だが、落語の間に息抜き的な意味合いで漫才・コントが間に挟まる。演者が登場するときにかかる曲を出囃子というのだが、落語の場合出囃子は三味線の曲に限られる一方、漫才・コントの場合は何でもいい。普段聴いてるアーティストの曲とかから選ぶことができるのだ。

これは毎年部で行われている夏合宿の公演の映像をYouTubeで見ていた時のことだった。コントの前に出囃子として流されたある曲、これに衝撃が走ったのである。4分ほどある曲を出囃子として全部流すわけにはいかず、コントを披露する二人の登場とともに、曲はストップ。異様に耳に残るその曲のことしか頭になかったため、後輩が考えたネタを披露しているが全く入ってこない。申し訳ないが公演の動画の視聴は途中でやめて、曲名を調べてフルで聴いてみることにした。

イントロなしでいきなり歌から入るなんて曲はこのご時世ざらにある。が、冒頭から様子を見る気も全くなく速射砲のように繰り出される日本語の暴れ。それに乗る裏打ちの音。続いてギターがファンクのような音を出し始めたと思ったら今度は怒涛の情報量だった詞が「BG、BGM」のこれでもかというリフレインへ変化する。そこからまた少しずつ曲の雰囲気が変わってゆき、サビへ到達した頃にはキャッチーで口ずさめるようなメロディーとなっている・・・

なんだこれは。

曲の展開が凄いことに加え、耳に伝わるあらゆる音がハチャメチャに気持ち良い。いや、この気持ち良さは気持ち良いだけで表現しきれない。気持ち良いの最上級、気持ち良いestだ。

脳みそが青色に光るほどの心地よさを感じた僕はベットへ倒れ込み、数分後速すぎて何を言ってるかよく聞き取れなかった歌詞を確認したのだが、この歌詞の内容にもビビった。

この曲で歌われていた内容は、「元気に明るくいこうぜ!」や「恋人への愛してる」ではなく、

踊りながら輝く、ばばあ」だったのである。

歌詞に「ばばあ」が出てくる曲なんて僕は知らなかった。百歩譲って「ババア」なら知ってるかもしれない。ただ、ここでは平仮名の「ばばあ」。こちらの方が面白感が薄れ、おぞましさや存在感が際立つ。要は、艶である。「踊る、ばばあ」についての曲、なんと魅力的だろうか。

そんな歌詞を見て、確信と共にニヤリとしてしまう。

こいつら、ひねくれてる。

ニガミ17才。2015年から活動を開始しているこのバンド。あらゆる業界人や音楽通の方々が注目しており、メディアにも進出中。現在最もキている日本のバンドの一角といっていいだろう。

ニガミの全ての楽曲の作詞作曲を手掛けているのは、ボーカルの岩下優介。かつて「嘘つきバービー」というバンドで活動していたが解散。その後音楽活動とは縁を切ろうと思っていたのだが、もう一度「ニガミ17才」として再起する。風貌やパフォーマンスから既に醸し出される狂気、ヤバさ。こういう人は寡黙な印象があるかもしれないが、公式のチャンネル配信ではかなり饒舌にお話をしている。お笑いが好きというところからギャグのセンスも抜群だ。

そして、そんな岩下をミュージシャンとして復帰させた張本人、ニガミの裏エースともいえる存在が、シンセサイザーの平沢あくびだ。元女優であったにも関わらず、女優業を辞めてバンド活動に専念。唯一の女性メンバーであり、ジャケット写真にもよく写っている。MVではミステリアスで頭のキレる女性、といった印象を強く突きつけられるが、実はドがつく天然の方。いい意味で頭がおかしい。

これにイザキタツル、小銭喜剛といったベース、ドラムのリズム隊が加わる。この人たちも普通に見えてかなりおかしい部類の方たち。どちらかは忘れてしまったが、一方が飲食店のお会計中に熟女もののAVを観ていたという話が記憶に残っている。変でなければここでは務まらない。似たような人間は引かれ合う。

そんな個性が渋滞した四人が奏でる曲のコンセプトは、オシャレ、かつ変態的。ボーカル岩下が作る楽曲は全て、クソカッコ良く、どこか気味が悪く、そして、美しい。

そして、なんといっても気持ち良い。何度でも言う。ここをとにかく強調したいから。北島康介もびっくりするほど気持ち良い。脳みそきもちーの代表格はテクノ音楽かもしれないが、ニガミの楽曲はそれとはまた違った、まるで脳みそをマリファナでできたドリルで掘られているかのような感覚にさせてくれる。彼らの音楽は、世界中どこにもないような音楽だと思っている。気持ち良い。自分の語彙力不足が悔やまれる。

今回紹介した曲以外にも、ニガミの曲はいずれも中毒性の高いものであり、冗談抜きで抜け出せなくなる。底なし沼である。どのアルバム、どの曲からでもいいので皆さんもどうかどうか、聴いてみていただきたい。音の気持ち良さをひたすら追求した合法ドラッグを堪能せよ。

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