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本を愛する人

この先の人生で、あと何冊の本を読むことができるだろう。
食べることが好きな人が「この先の人生であと何食、食べられるだろう」と思うのと同じで、よくそんなことを考える。
読みたい本ばかりだ。いつも、いつも。できるだけ長く生きなければと本気で思う。

先日、ふらりと立ち寄った近所の書店で「本の雑誌」の増刊号を見つけた。
2018年の本屋大賞受賞作品や、書店員さんたちの声が掲載されている特集号だ。
店先でちょっと読み始めて、夢中になってしまった。なんておもしろい、なんてすばらしい雑誌なの!
書店員さんたちの「自分が投票した本」に対する熱い魂が、所狭しとぎっしり詰め込まれた一冊。作品紹介というより「ココが好き!」という個人的な想いがぶつけられていて、ストーリー自体には触れられていなくても「ええっ、それは読んでみたい」と思わされる。
コメントを寄せている書店員さんのお名前や店名からも「日本全国のあちこちにいる、本を愛する本屋さん」を強く感じて、あたりまえだけど「この人たち、ホントに実在するんだ!」という感慨にふけった。

この雑誌の中にいる書店員さんはみなさん、とても元気がいい。元気は伝染する。
そしてここには、愛しかない。
彼らの愛は決して甘くない。厳しくて清らかだ。
こんな書店員さんたちが日本中にいることを、私も本を愛する者のひとりとして、ほんとうに心強く思う。

嬉しいことに、31位以下の一次投票作品公開ページに、拙著「木曜日にはココアを」も載せていただきました。
自分とは無縁と思って気楽に立ち読みしていたので、見つけたときは息が止まった。版元の宝島社さんもノーチェックだったらしい。思わず海老みたいにのけぞって挙動不審な客になり、ページを開いたままふらふらとレジに直行してしまった。もちろん買うときは閉じて出したけど。
書店員さんが一次投票できるのは、一年間で出版された作品のうちたった3作しかない。
膨大な数のタイトルが日々並ぶ中、無名の新人作家のデビュー作を選んでくださった書店員さんがいらしたということが、本当にありがたくて泣けた。
いくら本が好きな書店員さんだって、発行される本すべてを読むことはなかなかできないと思う。まず手に取っていただけたということから感謝したい。

そもそも、この先の人生で「あと何冊読めるか」の前に、どれくらいの本と出会えるのだろう。
「この本を買おう」と決めてネットショッピングするのは急いでいるときに便利だし、入手困難なものを探すこともできてありがたい。
だけどそれは、本屋での偶発的な出会いとはまったく別のものだ。実際、この増刊号だってまぎれもなく「ふらりと立ち寄ってたまたま見つけた」一冊で、とても「らしい」出会い方をしたと思う。本屋大賞受賞作の「かがみの孤城」に手を伸ばそうとしたら、その隣に「こんなの、ありまっせ」と言わんばかりに置いてあったのだ。もしインターネットで「かがみの孤城」をポチっていたら、私はこの雑誌にたどりつくこともなく、自分の著書が投票されたことを一生知らなかったかもしれない。
あらためて書店ってすごい場所だ。日本中に増え続けてほしいと切に願っている。

以前、三省堂書店神保町店の新井見枝香さんがラジオにご出演されたとき、「本は売れてる。めっちゃ売れてる。だって私、忙しいもん」とおっしゃっていて、すごく感動した。
パーソナリティーの鈴木おさむさんが「そうですよね、本って買いますよね」と続けていて、私はパソコンで聴きながら「いいぞ、いいぞ!」とこぶしを握ってしまった。
私だって、前述の書店で本を買うときに並ばなかったことはほとんどない。前にも後ろにも、いつも必ずお客さんがいる。これって、本が売れてる立派な証拠じゃないの!
みんなが「本は売れない」「出版不況」なんてもやもやっと言うとなんとなくそういうムードになっちゃうけど、こんなふうに書店員さんが「本は売れてる!」と断言してくれることで、確実にそちらの方向へ時代は流れていくと思う。本に携わる人に「本、売れないんですよ」って言われたら「そうですよね、買わないですよね」って答えてしまう人もいるかもしれない。同調の言葉って強烈だ。良くも悪くも、「それが真実」の空気を作る。

だから私も、声を大にして言おうと思う。そうだよねって、うなずいてもらえたらとても嬉しい。
本は売れてる。めっちゃ売れてるよ。