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16歳の北海道一周旅行記#9 青森→東京地獄の夜行バス

北海道脱出

 北海道一周旅行記も今回が最終回だ。あんまりにも書くのをサボっていたために、季節は巡り秋、そして雪が積もり、溶け、桜が咲いて散り、ついに梅雨入りまでしてしまった。しかし一周年を迎える前に書ききれたのは幸いである。

 さて、函館のホテルで目を覚ました。少し弱まってきたものの、いまだに傘をさしても膝下が濡れる程度の雨だ。函館の朝市でメロンを食べた。函館に来た時は毎回この他のと比べて特別美味しいわけではない(もちろんすごく美味しい)メロンを食べるのだ。それはもはや運命付けられた行動なのだ。

メロン

 11時35分発の青函フェリー青森行きを予約しているのだが、函館駅前でお土産を買ったりしていたら危うくフェリーターミナル行きのバスを逃すところだった。

船へ

 青函フェリーの小さなターミナルにつき、簡素な手続きを済ませる。波止場の長い歩行者通路をわたり、フェリーの中に入って行く。

 青森と函館を結ぶ航路は、二つの会社が運営している。津軽海峡フェリーと、青函フェリーだ。前回北海道に来た際、津軽海峡フェリーを利用したため今回は青函フェリーを選んだが、結論から言うと観光客には津軽海峡フェリーがおすすめである。船にもよるかもしれないが、津軽海峡フェリーは旅客スペースが充実しているのに対し、青函フェリーは貨物スペースが大部分を占めていて、人間用スペースはわずかであった。なんにせよ、これから4時間程度の船旅、雑魚寝の硬いシートと、衣類の詰まったリュックを枕にすれば十分である。

津軽海峡

 11時35分。出航の時刻だ。船はゆっくりと横移動をはじめ、船上と埠頭の作業員は息の合った連携で勾留綱を外していく。

離岸

 数分で船体は北海道の大地を完全に離れた。感無量だった。さようなら、北海道、さようなら。一週間もこの大きな島を歩き、旅してきた。しかし、まだ見れていない場所が無数にある。僕はこれから900kmの家路に着く。またこのロマンと自然、美しい文化とバカ美味い飯が散らばるこの大地に、上陸する日を楽しみに待つ。

去る函館市街地
どうみてもインスタのストーリー

 船は大荒れの津軽海峡をものともせず進み、1時間ほど経った。船内もおおかた見学したし、風も弱まったようで甲板に上がってみる。すると、右後方には海際に迫る木古内、知内といった松前半島の街並み。そして左後方には大きく広がる北海道・函館市。そして左前方には青森県、下北半島の、恐山に代表される神秘的な山々。そしてさらに2時間ほど経つと、前方12時の方向に、灰色のビル群が見えてくる。
青森市だ。本州最北の県、青森県の県庁所在地は、北海道から帰る人を迎えるのに最高の街だ。古くは青函連絡船が行き交い、北海道の本州からの玄関口であった。海霧に隔てられた青森市の市街は、まるでラストダンジョンのようである。

海霧の向こうの青森市

本州縦断

 15時20分、定刻より少し早く船は青森に接岸した。しばらくして通路が開通し、薄い鉄板を渡って約4時間ぶりの安定した大地に足をつく。本州上陸。世界第七位の大きさを誇る島にして、日本の人口の大半が暮らし、そして僕が生まれた母なる島。歩いてゆけば家に帰れるという安心感。同時に遥か海の向こうの北海道に戻りたいという寂しさも感じる。これまた函館側と同じくらいのしょぼい青函フェリーの青森ターミナルから路線バスに乗る。

 青森も大雨である。夜行バスの発車まで、あと3時間半ほど。この雨の中大荷物で観光する気も起きないので、青森駅前のガストで時間を潰すことにした。
 19時20分、青森駅前のロータリーにオレンジ色の夜行バスがやってきた。翌朝、東京のバスタ新宿到着は6時20分、総乗車時間12時間半である。お値段は約8000円。新幹線と比べて10000円強を節約できるわけだ。閑散期ならもう少しお安くなるだろう。しかし、一度は夜行バスに乗ったことがあれば、この過酷さはお察しいただけるだろう。夜行バスというのは、安さという圧倒的なメリットを得るために、睡眠時間や尻の肉、快適さといったものを失うのである。それが今回の場合半日以上。ただ、今回利用したみちのりエクスプレスさんは、ふかふかのシートとふわふわの毛布でわりと寝心地が良かったので割とおすすめである。(良くないのは東京大阪間を毎晩無数に走る夜行バスの中にごく稀に紛れる人権剥奪シート。あれに乗ったら最期と思った方が良い。)

 さて、夜行バスは非情にも青森駅前を定刻通りに発車した。青森県を抜けて岩手県に入る。バスはひたすら東北道を東京方面に南進していく。宮沢賢治の故郷、花巻を過ぎる。バスの窓はカーテンで塞がれているが、隙間から「パッパッパッ」と高速道路のライトの光がテンポよく漏れてくる。目を閉じるとエンジンの音だけが響き渡り、まるでガソリンで走る銀河鉄道に乗っているような気分であった。

 翌朝東京に着いた。よく眠れたが、無事腰から太ももにかけての筋肉が終わっている
 バスタ新宿を出る。北海道と違い、蝉の鳴き声が響き渡り、アスファルトは蒸し暑そうに、ビルの向こうに入道雲が立つ。蒸し暑い東京の夏だ。

おわりに

最後に、この8日間の旅行の、北海道における行程を地図に描いたものを参考までに載せる。


 今まで長いこと見てくださりありがとうございました。なんとか1年経つ前に書ききりました。次作も出るかもなので良かったら見てください。

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