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大企業で働いて良かったこと

背景

私は22年ほどソニー株式会社に勤務し、6年前に独立した。辞めた理由はまた別途記事にするとして、独立してから昨今、大企業で勤めると、やれ会社の駒になるだけだ、判断の遅く古い慣習に揉まれるだけ、安定志向、と結構否定的な言葉を聞くようになった。確かにそれも一部正しいし、それが理由で辞めたのもあるのだけど、決して大企業に勤めることは、雇用条件・給与・福利厚生といった部分以外でもメリットはあったと私は感じている。

おそらく今の私(About me)がこうして独立して仕事できているのも、大企業で培われたノウハウなどがあって、とも思っているからだ。それらをざっと上げておこう。

様々なビジネス面での手厚い教育

面倒だなーと新人時代から受けていた研修や教育が、実は非常に重要なことだった。

・特許や意匠商標などの知的財産
・下請法や安全輸出管理などの渉外関連

大企業が(ある意味)恐ろしいのは、これらの研修を入社してから毎年受けさせて刷り込むところだ(やってないところもあるかもしれないが)。

独立して外にでると、特許や下請法など全く知らない人がこんなにも多いのか、と私は驚愕した。デザイナーが意匠権を知らない、エンジニアが特許について調べたことがないという。確かにこれらは専門職に譲るべきところではあるが、

「大丈夫そうだから」とリリースしたら酷似していて訴えられた

そのときに「知らなかった」では済まされない。最低限の知識は知っておくべきだと思う。全部を専門家に丸投げでもいいが、そもそも何を専門家に投げればいいかを知らないのが問題なのである。昨今、ベンチャーも投資家からの言われているのか、特許についてはかなり理解しているようではあるが、知財部門(特許部)が社内にあるのとないのでは大違いである。

世界規模でのモノコト創り

グローバルカンパニーに限ってくるが、世界を市場にしてその分野を牽引する企業のモノ作りは知れば知るほどそんなところまで気にするのか、というレベルにある。

品質を保証するためのテストにおいても、金・人・時間を非常にかけて行うし、デザインやネーミングでは世界中の意匠登録などを調べ上げて問題ないか確認する。ネーミングは、各国の宜しくない言葉になってないか、などなど厳しく調べる。

法律やレギュレーションをとるのに世界中で基準が違う場合がある。ハードなりソフトの設計上でもその制約を理解し対応していく必要がある。

世界には様々な価値感やカルチャーや流行があって、それぞれの人の体験価値(UX)があり、それらにうまく刺さるような UX デザインも必要になる。販売戦略・マーケッティングも各国それぞれ特徴がある。

私はPlayStation3, PlayStation4 やブラビアのUI/UX等担当していたが、世界でモノを売ることは想像以上に色々な事が絡んでいて、それは、本にもネットにもかかれていないことだった。ノウハウなのかスキームなのか?それはなんとも言えないのだけれど、体験しない限りは分からない、まさに、そこには超えられない壁、みたいなのがある。

自分で考えて提案したモノなりコトが世界中にばらまかれ人々が体験してくれている、こんなことはなかなか味わえないだろう。

層の厚さ

これはエンジニア・リサーチャー・デザイナー領域の話になるが、その技術分野を究めんとする人間が多いことは非常に刺激的である。もちろん優秀ではない人間もいるだろうし、今や、社外を超えてアカデミックなコミュニティは多い。かつてのように、研究所というところに留まっていなくても、世界をみれば、優秀なエンジニアや研究者、クリエイターが発信しまくってくれている。これはありがたい。

ではなぜメリットというのか。社員だから。守秘義務。

会社の仕事の内容は守秘義務契約で喋れない。技術単体の話ならともかく、仕事の内容と絡んで深い話が外部の人間とはできない。これはデザイナーも同じである。

なお、社員でも守秘義務はチーム内、プロジェクト内など限られるので、メリットは少なくはなるし、ベンチャーが「層薄いのか!」というと、AIベンチャーなどは、寧ろそういう人達が集まって起業していて、大手以上の層の厚さであることも多い。また、社内だからこその「派閥」「宗教」のようなものができてしまったり、ぬるま湯化したり、大人の事情に巻き込まれるといった、デメリットも当然ある。

情報フィルターの精度

前述の「層の厚さ」にも関係するが、今やネット経由で世界中の情報が手に入る良い時代になった。一方で、手に入りやすいがために膨大な情報の海に飛び込んでいくわけで、取捨選択(フィルター)することが大事になる。

時間は有限だ。全部の情報をみていると時間がなくなる。

そんなとき、最先端の技術情報、旬で逃してはいけない情報などが綺麗にフィルタリングされて入ってくる環境が構築されている。当たり前のように思っていたそれらの情報のクオリティが非常に高く、フィルター精度が高かったことを再認識している。

なお、学会や展示会などのレビューなどは昨今日本でも有志が集まってシェアをしていて私もそこで情報を入手している。しかし、前述したように、やはりそこで流れる情報は、一歩踏み込んでない感じが否めないところがある。だから自分で結局は調べるのだけれど、人が少ないと全部自分になってしまう辛さがある。

まとめ

超大企業の良さも悪さも悩みは、中に居た人じゃないと正直分からないと思う。

ただ、その中でも私があげたメリット、「教育」は中小ベンチャーでもしっかりやればいいだけのこと。「層の厚さ」「情報フィルター」については、どんどんコミュニティが昨今できていて、その中での勉強会や交流会が盛んになってきている。「精度のよいフィルター」は、そういう人達が集まってくる場があればおのずとでき上がっているように思える。「世界規模でのモノコト創り」も共創時代においては共有されてくる可能性もある。

大企業だけのメリットは、今後は企業規模に無関係になるように思えている。もしかすると、大企業、中小企業、ベンチャー、という分け方そのものがナンセンスになる時代に近づいているのかも知れない。

実際、GAFA の実体を見ているとそれが事実にも思えてくる。

備忘録的に大企業のメリットを書いてみたが、だから大企業を勧めるわけでもないし、否定するわけでもない。

「貴方の考え方や価値観にあうところがベスト」

私はソニーという大企業でも合うところがあったし、今、独立して良かったこともある...





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